不思議な館のアリス マイノリティ

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「……おや? どうしました? 随分と不機嫌そうな顔をしていますね」

アリス「……え? 夕食になる鳥料理と言えば、ですか?」

アリス「そうですね……。唐揚げやカツ、ソテーといったところですかね」

アリス「……なにかおかしなことを言ったでしょうか?」

アリス「……ふふっ。失礼しました。確かに夕食として、焼き鳥というのはあまり想像しないですね」

アリス「どちらかというと、つまみやちょっとしたおやつといった側面が強いイメージかもしれません」

アリス「ですが、感覚というものは人それぞれです。相手に任せた時点で、なにを買ってきたとしても、文句を言う資格はありません」

アリス「ですので、同僚の方に、夕食に鳥料理を買って来てくれと言われて、焼き鳥を買ったあなたは何もわるくありません」

アリス「……そういうときの普通、という言葉は非常に卑怯な言葉だと、私は思います」

アリス「この、普通という言葉は、あたかも多数派の意見のように使われますが、結局、使う本人の都合のいい結果として使うことが多いです」

アリス「つまり、普通という言葉を使った人の意見ということがほとんどです」

アリス「子供がよく使う、みんなが持っているという台詞も、実際は一人しか持ってなかったりします」

アリス「自分の意見を正当化する際に使うのが普通、という言葉だったりします」

アリス「……え? 私がさっき、笑った理由ですか?」

アリス「それは、あなたが普通という言葉に嫌悪感を持っていたのにも関わらず、焼き鳥を買ったことをあたかも、当然のように言ったことに、ある意味、矛盾を感じてしまって……」

アリス「気を悪くしてしまったのなら、申し訳ありません」

アリス「……ただ、多数派の意見というものが正しいというわけでもありませんからね」

アリス「多数の方に合わせる方が、不満が出る人が少ないというのはわかりますが、逆に言うと少数派の意見を封殺するということです」

アリス「本来であれば、どちらの意見も取り入れた、折衷案を模索するべきだと、私は思います」

アリス「確かに、そうすると完全に意見が反映される人は誰一人いなくなります。ですが、完全ではないにしても、全員が納得する可能性が出てくるのではないでしょうか」

アリス「もちろん、時間がかかるという側面と、折衷案が決まらないという弊害があります」

アリス「なので、即決するために多数決という手法が生まれたのでしょう」

アリス「ですが、全員の意見を反映することを諦めてしまうのはどうかと思います」

アリス「例え、少数派の意見……たった一人の意見が世界を変えるほどの良い意見だったりすることもあります」

アリス「多い意見イコール、正しいわけではありませんから」

アリス「……そうですね。今回は、そんな多数派の意見に悩まされた男のお話をしましょう」

アリス「その男は、独特な思考を持っている人で、幼いころから苦労したようです」

アリス「喋ることや行動が、人に理解されることが少なく、周りからは変わった人間と思われたようです」

アリス「もちろん、多数決が行わる時は、自分の意見が通ることは無く、いつしか自分の意見は勝ちの無いものだと思い込むようになりました」

アリス「そんな学生時代を過ごし、やがて社会に出てからも、男の意見というものは取り上げられることはありませんでした」

アリス「その男は自動車販売の営業職をやっていたのですが、なかなか成績があがらなかったようです」

アリス「ただ、その男は問題行動を起こしているわけではなかったため、会社の方でもクビにできません」

アリス「そこで、会社は、社内の問題児を集めて、その男の下に付けました」

アリス「そして、こう命令したそうです」

アリス「何とか、部下たちを自主退社に追い込んでくれ、そのためにはどんなことをしてもよい、と」

アリス「その命令を受けた男は、こう考えました。会社が自由をくれた、と」

アリス「もちろん、男の部署にはそこまで多額の予算が降りるわけではありませんでしたが、自由な時間が大量にあることになります」

アリス「そこで、男は自動車の営業をやめて、全く違うことをやり始めました」

アリス「周りの社員からは不満が噴出しましたが、会社の意向は、その社員たちを辞めさせることですから、黙って放っておきます」

アリス「会社の中では、完全に鼻つまみもののように扱われてました。……そもそも、問題児でしたから、悪評は広がっていきました」

アリス「ですが、本人たちは自分たちで考えた業務に精を出していたそうです。それこそ、残業をしてまでも」

アリス「そんな状態で2年が過ぎた頃です。その部署でやっていた業務が、利益を出し始めます」

アリス「最初は微々たるものでしたが、そこから半年もすると、どの部署の中でも一番利益を出すようになりました」

アリス「会社は何事もなかったように、その男の部署に、今の業務を続けるように命令します」

アリス「そして、いつしか、社内では、一番利益を上げる男の部署は、精鋭部隊と呼ばれるようになりました」

アリス「……どうでしょうか?」

アリス「今までやってきた業務とは違うことをやり始めるだなんて、多数派の意見では出てこないことです」

アリス「ですが、男の少数派……いえ、マイノリティな意見は社内トップの利益を生むようになりました」

アリス「多数派の意見ではないということは、希少な意見ということです」

アリス「そんな希少な意見は恥などではなく、逆にチャンスの種になるというわけですね」

アリス「ですから、あなたも多数派の意見に完全に合わせたり、自分の意見を押し殺すことをしなくてもよいと、私は思いますよ」

アリス「今回のお話はこれで終わりです」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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