清楚で美人な優等生

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
芦田 優里(あしだ ゆうり)
女生徒1~3
男子生徒
男1~3
青年
教師
男の子

■台本

学校の体育館の壇上。

女生徒1「先週行われた生徒会長選挙の結果ですが、8割以上の票を集めて、芦田悠里さんに決定いたしました。それでは芦田さんから、一言お願いします」

ワーッと拍手が巻き起こる。

優里「みなさん、私に票を入れてくださり、ありがとうございました。その方達はもちろん、私とは違う方に投票された方にも、納得していただけるよう、生徒会を……この学校をよくしていきたいと思います」

より一層、拍手と歓声が巻き起こる。

優里(N)「私は小さい頃から、美人だと言われ、品が良いと、もてはやされてきた。そして、親も私に対して、容姿に似合うような良い子でいることを望んだ。だから、私はその期待に応えただけ。私自身、良い子でいたかったわけじゃない。ただ、そう望まれただけだ」

場面転換。

100メートル走。

優里と他の女生徒が走っている。

女生徒2「うわ、すごい! クラスの最高記録が出たよ」

優里「え? ホント?」

女生徒3「さすが優里。勉強も、運動も一番だね」

優里「やだな。たまたまだよ、たまたま」

女生徒2「もう、少しは偉ぶってよ。ホント、パーフェクト超人なんだからー」

周りがあはははと笑う。

優里(N)「勉強も、運動もできる。なんでも人よりもできてしまう。なぜなら、芦田優里だから。周りはそんなふうに思っているんだろうか? みんなは知らない。100メートル走で良い記録を出すために、凄く頑張ってたこと。他の学校の短距離選手にフォームを見て貰いに通ってたなんて、夢にも思ってないだろう」

場面転換。

教室内。

教師「今回も学年一位は芦田だ。で、二位だが……宮下だ。頑張ったな、宮下」

ワッと教室内が盛り上がる。

優里(N)「学年一位は芦田優里に決まっている。みんなそう思っている。信じている。私がプライベートと睡眠を犠牲にして勉強してることも知らずに。芦田優里だから、一位を取って当たり前。……そう思っているんだろう」

場面転換。

英単語表を見ながら道を歩いている優里。

優里「……エンファシス、強調。ファッシネイト、魅了する……」

そこに男の子が走って来て、優里にぶつかる。

優里「きゃっ!」

男の子「あ、ごめん。ぶつかっちゃった」

優里「……」

パチンと優里が男の子の頬を叩く。

男の子「ふえ……ふえーん!」

叩かれた男の子が泣き出す。

優里「……」

男子生徒1「あれ? 芦田さん? どうしたの?」

優里「え? あ……」

男の子「えーん! お姉ちゃんにぶたれた!」

優里「あ、いや、これは……」

男子生徒1「あははは。ダメだぞ、坊主。ぶつかって転んだのをお姉ちゃんのせいにしちゃ」

優里「……え?」

男の子「ホントだもん!」

男子生徒1「はいはい。わかったから、もう行きな」

男の子「うえーん!」

男の子が走っていく。

男子生徒1「やれやれ。最近のガキは恐ろしいこと言うね。芦田さんにぶたれた、なんてさ。ホントは優しく、起き上がらせたんでしょ?」

優里「……」

優里(N)「芦田優里は真面目で、親切。誰も疑いもしないだろう。子供の頃からそうだった。友達の家で遊んでいたとき、花瓶を割ってしまっても、私のせいとは思われなかった。芦田優里だから。……いや、こんな清楚で整った顔をしているから。みんなは私が真面目で良い子だと思い込んでいる」

場面転換。

駅構内。

男が椅子に座って寝ている。

男1「ぐがー、ぐがー!」

優里「……」

ポトっと男の懐から財布が落ちる。

優里「あ、財布が落ちた」

優里が男に近づき、足元の財布を拾う。

優里「……」

ポケットの中に財布を入れる。

優里「……あの、おじさん、こんなところで寝てたら、風邪ひきますよ」

男1「え? ああ、すまないね。つい、うとうとと……って、あれ? 財布がない!」

優里「……」

男1「お嬢ちゃん、俺の財布見なかったかい?」

優里「いえ……」

男1「あー、くそ。人が寝てるところを財布を取るなんて、クソみたいな奴がいるもんだ」

優里「……ホント、悪い人ですよね」

男1「全くだ!」

場面転換。

男2「ぐごー! ぐごー!」

優里「……」

優里(N)「それからは、寝ている人がいれば、財布を置き引きした。周りに人がいたとしても、私が怪しまれたことは、一度もない」

場面転換。

男3「ぐごー! ぐごー!」

優里「……」

スーツの内ポケットから財布を抜き出す音。

優里「……」

そして、颯爽と歩き出す。

だが、目つきの悪い男にぶつかってしまう。

優里「す、すいませんでした……」

目つきの悪い男「どこ見て歩いてんだ!」

優里「ホント、すいません」

中年男「ちっ! ったく、学生が、こんな遅くまでウロウロしてるんじゃねえ」

優里「……はい。すみませんでした」

優里が足早に歩き去って行く。

場面転換。

立ち止まって、壁にもたれかかる優里。

優里「ふう……。ビックリした」

青年「君、寝てる人から財布、取ったよね?」

優里「え?」

青年「あの後、寝てた人が起きて、財布がないって騒いだんだ」

優里「……知りません」

青年「いや、君しか考えられないって」

優里「……近くにいた、目つきの悪い人じゃないですか? 人を怒鳴りつけてましたし」

青年「あの人には無理だよ。反対側から歩いて来てたんだから」

優里「……だからって、私がやったって言うんですか?」

青年「そうだ」

優里「私、学生ですよ。そんなことすると思うんですか?」

青年「そんなこと、関係ないよ。財布を取ったかどうかが問題だからさ」

優里「……ホントに私がやったと思うんですか?」

青年「だから、こうやって声をかけてるんだ」

優里「……私、学校では成績優秀で、運動も抜群で……生徒会長なんです」

青年「だーかーら! そんなことは関係ないんだって! 財布を盗めそうなのは君しかいないんだからって話」

優里「……こんな人、いるんだ」

青年「え?」

優里「あなたの言う通り、私があの人の財布を盗りました」

青年「……やっぱりそうか」

優里「他にもたくさん、盗ってます」

青年「そう……なんだ」

優里「警察に自首してきます」

青年「……俺も同行するよ」

優里「……逃げそうに見えますか?」

青年「見た目は関係ないって」

優里「……それじゃ、お願いします」

青年「ああ」

青年と優里と一緒に歩き出す。

優里「あの……ありがとうございます」

青年「え? ……嫌味?」

優里「(くすっと笑って)いえ。ちゃんと私を見てくれたことです」

優里(N)「どんなに良い子であることを着飾っても、私を見てくれる人はちゃんといる。そう思うと、自然と、肩が軽くなった気がした」

終わり。

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