ブランコ

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
奏汰(かなた)
芹那(せりな)

■台本

奏汰と芹那は8歳の声。

公園でブランコを漕いでいる奏汰と芹那。

奏汰は勢いよく漕ぐ。

奏汰「あはははは! それー!」

芹那「ちょっと、奏汰、危ないって!」

奏汰「どうだ、芹那! 凄いだろ!?」

芹那「ブランコ壊れても知らないわよ」

奏汰「はははははは!」

場面転換。

奏汰、28歳の声。

奏汰(N)「ブランコをどれだけ高く漕げるか。それに挑戦するだけで楽しかった。それだけで楽しむことができた」

場面転換。

奏汰と芹那は18歳の声。

2人がブランコに乗って普通に漕いでいる。

奏汰「あーあ。負けちまったなぁ」

芹那「全力でやったんでしょ?」

奏汰「もちろん」

芹那「なら、いいじゃない」

奏汰「……テニスを始めたときはさ、ボールを打つだけで楽しかったんだよな」

芹那「あんた、暗くなってもずーっと練習してたもんね」

奏汰「けど、いつの間にか勝つことが楽しくなったんだよな」

芹那「スポーツなんだもん。当たり前じゃない?」

奏汰「そりゃ、そうだけどさ……。ボールを打つことが好きだったら、負けてもこんなに悔しくなかったんじゃないかって思うんだよな」

芹那「でもさ、それだと勝ったときの嬉しさもわからないままだったんじゃない?」

奏汰「……」

芹那「……そういえばさ、あんた、やらなくなったよね」

奏汰「なにが?」

芹那「勢いよくブランコ漕ぐの」

奏汰「はははは。ガキじゃないんだから」

芹那「そうだよね。けど、なんでしなくなったんだっけ?」

奏汰「……うるさいな。そんな昔のことなんか覚えてねーよ」

場面転換。

奏汰と芹那は21歳の声。

2人はブランコに乗って、普通に漕いでいる。

奏汰「んー。世の中、甘くないもんだなぁ」

芹那「教授、惜しかったって言ってたよ」

奏汰「結局、留学できないんじゃ意味ないって」

芹那「でもさ、研究始めたのって、大学に入ってからでしょ?」

奏汰「そりゃそうだよ。それまでテニス漬けの生活だったんから」

芹那「3年でここまで研究進められたんだから、凄いって。他のみんななんか、高校の時から勉強してたって話だよ」

奏汰「……結局、テニスと同じだよな」

芹那「なにが?」

奏汰「やればやるほど、もっと先に進みたくなる」

芹那「悪いことじゃないと思うけど」

奏汰「けどさ、進めば進むほど、挫折した時、苦しいんだよ。やらなきゃよかったって」

芹那「……後悔してるの? 研究に没頭したこと」

奏汰「……正直、自分でもわからないんだ」

芹那「……」

奏汰「また、新しいこと、見つけないとな」

場面転換。

奏汰と芹那は28歳の声。

2人はブランコに乗って、普通に漕いでいる。

奏汰「……」

芹那「まだ迷ってるの?」

奏汰「急にアメリカって言われてもな……」

芹那「ずっと言ってたじゃない。本場で勉強したいって。そのために英語だって覚えたんでしょ?」

奏汰「……」

芹那「……せっかくのチャンスなんだよ?」

奏汰「怖いんだ」

芹那「怖い?」

奏汰「本場で勉強すれば、俺はもっと先に進みたくなる。そしたら、挫折したとき、辛くなるんだ。もうあんな思いは嫌なんだ」

芹那「……」

突然、芹那が勢いよくブランコを漕ぎ始める。

奏汰「お、おい、芹那、危ないって」

芹那「あははははは」

ドンドン勢いが増していく。

芹那「私、思い出したの」

奏汰「何がだ?」

芹那「あんたがこうやって、勢いよくブランコ漕ぐのを止めたの」

奏汰「……」

芹那「落ちそうになったんだよね?」

奏汰「……ああ。それで怖くなってやめた」

芹那「奏汰ってさ、ずっとそうだったんじゃない?」

奏汰「どういうことだ?」

芹那「怖くなって、ブランコから降りたんだよ」

奏汰「……」

芹那「テニスも研究も。途中で怖くなって、緩めた。だから、負けちゃったんじゃない?」

奏汰「……怪我してからじゃ遅いだろ」

芹那「……」

さらに加速させる芹那。

そして。

芹那「とりゃー!」

芹那がブランコから飛ぶ。

奏汰「ばか! あぶねっ!」

芹那「ほっ!」

芹那が無事に着地する。

芹那「あははは……。怖かった」

奏汰「……馬鹿か。怪我したらどうすんだ」

芹那「でもね、ドキドキして面白かった」

奏汰「……」

芹那「やってみないとわからないよ?」

奏汰「……そう、だな」

奏汰が勢いよくブランコを漕ぎ始める。

そして。

奏汰「そりゃ!」

奏汰がブランコから飛ぶ。

が……。

奏汰「いでっ!」

盛大に転ぶ。

芹那「あー……」

奏汰「おい、芹那。痛いぞ」

芹那「うん。そりゃ、転ぶときもあるよ」

奏汰「お前なぁ」

芹那「でもさ、ドキドキしなかった? 飛んだ時」

奏汰「……した」

芹那「今度はさ、きっとうまく着地できるよ」

奏汰「……ありがとな」

芹那「どういたしまして」

奏汰(N)「数ヶ月後。俺はアメリカへと旅立った。あの日、ブランコから飛んだときのドキドキと興奮を胸に抱いて」

終わり。

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