情熱の価値

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
律樹(りつき)
絵里子(えりこ)

■台本

律樹(N)「フィギュア作りは俺の情熱そのもの。10年近く、ずっとフィギュア作りに打ち込んできた。それはきっと、これからも変わらないだろう」

自宅でフィギアを作成している律樹。

律樹「……よし、形は整ったな。後は色を塗って……」

バンとドアが開く音。

絵里子「ちょっと、律樹! 2限目の経済学、遅れるわよ!」

律樹「うわああ! 絵里子、ビックリさせるなよ! 危うく、指がもげるところだっただろ!」

絵里子「いっそ、腕ごともいでやろうかしら?」

律樹「やめろー! 俺の嫁たちに何をする気だ!」

絵里子「嫁って……。ただの人形じゃない」

律樹「人形言うな! フィギュアって言え!」

絵里子「はいはい。どうでもいいけど、早く準備しなさいよ。今日、欠席したら、さすがに単位落とすわよ」

律樹「んー。けどなぁ。昨日は徹夜したから、今から寝て、起きたら着色したいんだよなぁ」

ギリギリと律樹の頬を掴む絵里子。

律樹「いたたたた!」

絵里子「バカなこと言ってないで、さっさと準備する! フィギュア作ってて、留年なんて、笑われるわよ」

律樹「ふっ! 笑いたい奴は笑わせておけばいいさ」

絵里子「……」

律樹「あ、ごめんなさい。すぐ準備しますから、殴らないで」

絵里子「ったく」

場面転換。

自宅でフィギュアを作っている律樹。

カシャリと写メを撮る音。

律樹「えーっと、写メをアップロードしてっと」

ピロンと音がする。

律樹「お、もうコメントが来た。……えーと、スカートはもう少し赤みが深い方がよさそうです……か。あー、なるほど」

赤の色を混ぜる律樹。

そして、またカシャリと写メを撮る。

律樹「こんな感じかな?」

ピロンと音がする。

律樹「おおー。好評好評。よし、一気に仕上げるか」

場面転換。

ガチャリとドアが開き、絵里子が入って来る。

絵里子「律樹、いる?」

律樹「……(寝息)」

絵里子「律樹!」

律樹「うわっ! な、なんだ?」

絵里子「おはよう」

律樹「絵里子……。何の用だ? 今日は休みだぞ」

絵里子「じゃじゃーん! 映画の無料招待券! ねえ、見に行こうよ」

律樹「……俺、さっきまでフィギア作ってて、眠いんだよ。パス」

絵里子「はあ? せっかくの休みなのに、どっか行こうよ」

律樹「せっかくの休みだから、寝てたいんだよ」

絵里子「……ったく。あんたなんか、ホントにフィギュアと結婚すればいいのよ」

律樹「あー、できれば最高なんだけどな」

絵里子「サイテー」

場面転換。

ベッドから起き上がる律樹。

律樹「んー。良く寝た。さてと、今日もフィギュア作りをやりますかー」

ピロンという着信音。

律樹「ん? DM? なんだ?」

スマホを操作する律樹。

律樹「……え? あなたのフィギュアを10万で買い取りたい? ……え? マジ? うおおお! ついに俺のフィギュアに値が付いたぞー!」

場面転換。

自宅でフィギュアを作っている律樹。

律樹「……よし、次は着色だな」

ガチャリとドアが開き、絵里子が入って来る。

絵里子「はいはい。手を止めて、講義に行くわよ。準備してー」

律樹「(真面目な声で)すまん、絵里子。マジで今日は講義休む」

絵里子「え? ……なんで?」

律樹「このフィギュアを仕上げたい」

絵里子「……あんたねぇ。だから、言ってるでしょ。フィギュア作ってて、留年……」

律樹「今までの趣味とは違うんだ」

絵里子「どういうこと?」

律樹「俺のフィギュアが売れた」

絵里子「え?」

律樹「しかも、10万だぞ、10万」

絵里子「そ、そりゃ凄いけど……」

律樹「ようやく、俺の技術が認められたってことだろ? 注文も次々来てるんだよ。はは、嬉しい悲鳴ってやつだな」

絵里子「でも……」

律樹「すまん。今は、これに集中したいんだ」

絵里子「……代返しておくから、試験はちゃんと出なよ」

律樹「ありがとう」

絵里子「……」

場面転換。

フィギュア作りをしている律樹。

律樹「ふう。さすがに疲れたな。……20時間ぶっ通しは無茶だったか?」

ピロンと着信音が鳴る。

律樹「……また、注文が入った」

しばらく悩む律樹。

律樹「いや、休んでる場合じゃないな」

再び作業を開始する律樹。

場面転換。

フィギュア作りをしている律樹。

律樹「よし! 素体作りの時間も大分短縮できたな。なんとか、今週中にあと3体完成させないと……」

場面転換。

フィギュア作りをしている律樹。

ガチャリとドアが開き、絵里子が入って来る。

絵里子「……律樹、今日も休むの?」

律樹「ああ。これ、今日中に仕上げて納品しておきたい」

絵里子「ねえ、本当に留年しちゃうよ?」

律樹「聞いてくれ、絵里子。留年することになっても、その分の学費以上を稼げるんだ」

絵里子「そういうことじゃなくってさ。律樹、最近、ほとんど寝てないじゃない」

律樹「ドンドン、単価も上がっていくんだ。もう、止めることなんてできない」

絵里子「……律樹」

律樹「ごめん。出てってくれないか? 集中したいんだ」

絵里子「……」

場面転換。

フィギュア作りをしている律樹。

律樹「はあ、はあ……。目がかすむ。くそ、そろそろ、限界か? 3日寝てないからな。……いや、納品を遅らせるわけにはいかな……」

いきなり、ドクンと大きな心臓の鼓動がする。

律樹「うがあっ! し、心臓が……」

胸を抑えて、転がり回る律樹。

律樹「うがあああ!」

苦しくて、やがて動くこともできなくなる。

律樹(N)「俺……死ぬのか? ……フィギュア作ってて過労死なんて、俺らしいよな……。けど、最近は作るのが楽しくなかったな……。あー、くそ、本当はもっと、凄いのを作りたかったのに……」

場面転換。

病院のベッドで目を覚ます律樹。

律樹「はっ! ……あれ?」

絵里子「律樹、よかった。気付いたのね」

律樹「ここは?」

絵里子「病院だよ」

律樹「……そっか」

絵里子「ねえ、律樹」

律樹「もう止めるよ」

絵里子「え?」

律樹「フィギュア作り」

絵里子「……うん」

場面転換。

フィギュア作りをしている律樹。

ガチャリとドアが開く。

絵里子「律樹、講義遅れるわよ」

律樹「ちょっと待って。あとここを着色して……」

絵里子「ちょっと、律樹! フィギュア作りは止めるんじゃなかったの!」

律樹「いや、そういうことじゃなくて……」

ピロンと着信音が鳴る。

絵里子「なに? また注文」

律樹「……そうみたいだな」

絵里子「律樹」

律樹「大丈夫だって。えーと」

律樹(N)「俺は、これは趣味で作っているもので、売り物ではありません、と返事する」

律樹「さてと、講義に行くか」

絵里子「ねえ、次の日曜、映画行かない?」

律樹「いいよ。その代わり、アニメな」

絵里子「ええー!」

律樹(N)「これからも俺はフィギュアを作り続けるだろう。俺の中の情熱を満たすために」

終わり。

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