寄り道

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
聖虹(せいじ)
陽南(ひなみ)
男性生徒
友達

■本編

聖虹(N)「僕のお母さんは、僕が生まれた時に天国に行ってしまった。だから、僕はお母さんの顔さえもわからない。お父さんは、お母さんが欲しいか? と僕に聞いたけど、僕はいらないと答えた。なぜなら……」

聖虹が道を走っている。

聖虹「はっ、はっ、はっ!」

立ち止まって、チャイムを押す。

すると、ドアがガチャリと開く。

陽南「あら、聖虹くん。いらっしゃい」

聖虹「こんにちは、陽南さん」

聖虹(N)「僕にはもう、お母さんみたいな人がいるから」

場面転換。

陽南「学校はどうだった?」

聖虹「う、うん。楽しかったよ」

陽南「聖虹くん。……嘘ついてもわかるんだけどな」

聖虹「うっ! えっとその……」

陽南「なにかあったの?」

聖虹「えっと……」

回想

学校の教室。

男子生徒「なあ、聖虹。俺、算数の教科書忘れたから、貸してくれ」

聖虹「え? で、でも、僕だって使うし」

男子生徒「お前は先生に忘れたっていえばいいだろ」

聖虹「でも……」

男子生徒「いいから貸せって!」

聖虹「う、うん……」

回想終わり。

聖虹「それで、先生に教科書忘れたこと、怒られて……」

陽南「そっか……」

聖虹「ねえ、陽南さん、そんなことより、またピアノ教えてよ!」

陽南「う、うん、いいけど……」

場面転換。

ピアノを弾いている聖虹。

順調に弾けているが、間違えてしまう。

聖虹「あっ!」

弾くのを止めてしまう聖虹。

聖虹「あーあ。間違っちゃった」

陽南「聖虹くん。正確に弾くことじゃなくて、楽しむことを意識してみて」

聖虹「楽しむこと?」

聖虹「そうよ。音楽は、音を楽しむって書くでしょ? 聖虹くんが楽しくないと、聞いてるほうも楽しくないのよ」

聖虹「そっか……。うん、わかった!」

聖虹が再びピアノを弾き始める。

場面転換。

勉強している聖虹。

聖虹「えーっと、32かな?」

陽南「うーん。惜しい。えっとね、ここはカッコの中を先に計算するのよ」

聖虹「じゃあ……42?」

陽南「うん、正解!」

聖虹「えへへ」

陽南「じゃあ、次の問題やってみようか」

聖虹「……」

陽南「どうかした?」

聖虹「陽南さんって、教えるの上手いなって。先生よりわかりやすいよ」

陽南「ふふふ。ありがと。でもね、聖虹くんが優秀だから、すぐに理解できるのよ」

聖虹「僕が……優秀?」

陽南「そうよ。聖虹くんは、やればできる子なんだから」

聖虹「そんなことないよ。僕……テストの点数も悪し、運動だってできないし……」

陽南「聖虹くんはもう少し自分に自信を持った方がいいわね」

聖虹「持てないよ。自信なんて」

陽南「そんなことないわ。そうね……。多分、次のテストはきっといい点数が取れるはずよ」

聖虹「ホント?」

陽南「うん。でも、勉強を続けないとダメよ」

聖虹「うげー」

陽南「ふふ。もう少し頑張ったら、休憩して、おやつ食べようか?」

聖虹「うん! 頑張る!」

場面転換。

陽南の家。

聖虹「陽南さん! テスト、100点取れた!」

陽南「ふふ。だから言ったでしょ? 聖虹くんはやればできるって」

聖虹「うん。ありがとう。ちょっとだけ、自信持てるようになったよ」

陽南「あら、ちょっとだけ?」

聖虹「だって、運動はできないから」

陽南「あのね、聖虹くん。人には得手不得手があるのよ」

聖虹「得手不得手?」

陽南「得意なものが違うってことよ。聖虹くんが大好きなあの野球選手だって、勉強は他の人よりもできなかったりするのよ」

聖虹「え? ホント?」

陽南「なんでもできる人なんていないの。自分の得意のものを頑張ればいいんだから」

聖虹「そうなんだ……。でも、僕に得意なものなんてあるかなぁ?」

陽南「あるじゃない」

聖虹「え?」

陽南「ピアノ」

聖虹「あっ!」

陽南「すごい上手よ」

聖虹「ホント?」

陽南「ええ。じゃあ、今日も練習しようか」

聖虹「うん!」

場面転換。

陽南の家。

聖虹「うう……」

陽南「大丈夫?」

聖虹「なんで、あんな意地悪するんだろう?」

陽南「……そうね。じゃあ、今度、意地悪されたら、大声で止めてよ! って言ってみて」

聖虹「え? 何度も言ったよ?」

陽南「大声で言うの。隣の教室に聞こえるくらい」

聖虹「……わ、わかった。やってみるよ」

場面転換。

教室内。

男子生徒「聖虹! 技かけさせてくれ! 漫画でやってたやつ」

聖虹「やだよ。痛いもん」

男子生徒「いいから、黙ってかけさせろって!」

聖虹「止めてよ!」

大声で叫ぶ聖虹。周りがシーンと静まり返る。

そして、ざわざわと騒ぎ始める。

男子生徒「な、なんだよ、急に。もういいよ」

男子生徒が行ってしまう。

場面転換。

陽南の家。

聖虹「ねえ、陽南さん。あれから、イジメられなくなったよ」

陽南「あら、よかったわね」

聖虹「うん。あれから少しだけ学校に行くのが楽しいんだ」

陽南「そう……。ねえ、聖虹くん」

聖虹「なに?」

陽南「友達、作ってみようか」

聖虹「え? で、でも……できるかな?」

陽南「大丈夫。聖虹くんなら、できるわ」

聖虹「でも……」

陽南「じゃあ、こうやってみて」

場面転換。

陽南の家。

聖虹「陽南さんの言うとおりにしたら、真田(さなだ)くんと仲良くなれたんだ」

陽南「よかったわね」

聖虹「今度の土曜日、遊ぼうってなったんだ」

陽南「ねえ、聖虹くん。学校が終わったら、友達と遊んでみたらどう?」

聖虹「え? でも、ここに来れなくなっちゃう」

陽南「いいの。それが正しいのよ。友達と遊ぶのが聖虹くんにとって、大切なの」

聖虹「でも……」

陽南「聖虹くんなら、もう大丈夫。私がいなくても、ちゃんとやっていけるわ」

聖虹「でも、僕……陽南さんとも会いたいよ」

陽南「いい? 友達がいれば寂しくなんかないわ」

聖虹「……」

陽南「聖虹のこと、ずっと見守ってるからね」

聖虹(N)「考えてみると陽南さんと交わした言葉は、これが最後だったと思う」

場面転換。

聖虹と友達が歩いている。

聖虹がピタリと立ち止まる。

友達「聖虹?」

聖虹「……」

友達「空地なんて見て、どうしたんだ?」

聖虹「ううん。なんでもない。行こ」

友達「ああ」

再び、二人が歩き出す。

聖虹(N)「陽南さんの家はいつの間にか空き地になっていた。……でも大丈夫。陽南さんとの思い出と言葉は僕の中に残っている。陽南さんのことを思い出すと、とても寂しくなるけど、僕は前を向いて歩ける。だって、陽南さんが、そう教えてくれたから」

終わり。

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