魔王を倒した後の勇者の過ごし方

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ

■キャスト
アレン
フィー
魔物
村長
兵士1~3

■台本

森の中を歩くアレンとフィー。
ピタリとフィーが足を止める。

フィー「……アレン」
アレン「わかってる」

ため息をついて、腰の剣を抜く。

アレン「いつまで着いてくるつもりなんだ? そろそろ、あんたらも疲れただろ。ケリをつけようぜ」

その言葉に反応して、木の陰からゾロゾロと兵士が現れる。

フィー「ふむ。鎧のデザインからして、ザイン国の兵じゃな?」
アレン「はあぁ……。あそこの王様とは仲良くやってたつもりだったんだけどな」
フィー「まあ、人間なんてそんなもんじゃよ。簡単に手のひらを反す」
アレン「なあ。念のために聞くが、俺に何の用だ?」
兵士1「申し訳ありません、アレン様。この平和な世に、勇者は不要なのです」
アレン「……」
フィー「じゃとよ」
アレン「さすがに聞き飽きたな。もう少し、こう、大義名分が欲しいところだ」
フィー「コントロールできぬ力は、いつか暴走する恐れがある、じゃから今のうちってところかのう?」
アレン「言ってることは同じだろ」
フィー「ま、理由なんぞ、どうでもいいじゃろ。とにかく、もう日が暮れる。さっさと済ませるぞ」
アレン「フィーは手を出さないでくれ。万一ってこともあるかもしれないし」
フィー「相変わらず、お優しいことじゃのう」
アレン「ってことですまない。あまり時間がないから、一気に来てくれ」
兵士1「卑怯なのは百も承知ですが、手加減はいたしません。かかれ!」

一気に兵士たちがアレンに襲い掛かる。

場面転換。
剣を鞘に納めるアレン。

アレン「こんなところかな」

兵士たちが皆倒れている。

フィー「5分か。まあ、もったほうじゃの。にしても、散々、魔王に負けたくせに、なぜ、その魔王に勝った勇者に勝てると思うじゃろうのう?」
アレン「人間だから……じゃねーの?」
フィー「強さに種族は関係ないんじゃがの」
アレン「だから、俺が勝てたんだけどな」
フィー「……」

フィーがゲシゲシとアレンの尻を蹴る。

アレン「痛っ! なにすんだよ!」
フィー「うっさいわ!」

場面転換。
辺りが暗くなりつつある。
道を歩いているアレンとフィー。

フィー「お! アレン。見えたぞ、村じゃ」
アレン「ふう。今日は野宿しないで済みそうだな」

アレンが村の入り口に立つ、自警団の兵士に話しかける。

アレン「すまないが、2人が泊まれる宿はあるかい? なんなら1……」
フィー「2部屋じゃぞ」
アレン「……2部屋で」
兵士2「はい。それは問題な……え? あ、あなたは……もしやアレン様?」
アレン「あれ? バレちゃったかぁ」
フィー「白々しい。勇者だということをいいことに、宿の手配と宿賃を浮かそうとしてたくせに」
アレン「ななななな、何を人聞きの悪い……」
兵士2「勇者様、お助け下さい!」
アレン「へ?」

場面転換。
村長の家。

アレン「……つまり、村の近くの洞穴に魔物が住み着いたから倒してほしいと?」
村長「はい。なんとかお願いできないでしょうか?」
アレン「うーん。その魔物の被害はまだ出てないんだろ? なら、倒さなくても……」
村長「出てからでは遅いのです!」
アレン「……」
村長「……魔王が健在だった頃、この辺りも魔物が跋扈する土地でした。毎日のように村人は襲われ、死者も多数出ました。もう、あんな経験はしたくないのです」
アレン「……」
村長「お願いします。平和になった世に、憂いは残したくないのです」
アレン「わかった。だが、一つだけ条件がある」
村長「なんでしょう?」
アレン「あんたと、村の自警団にも同行してもらいたい」
村長「へ? それは……別に構いませんが……」

場面転換。
洞穴。
魔物と対峙する、アレンと村長、そして村の自警団たち。

魔物「グオオオオオオオオ!」
兵士3「ひいい!」
村長「お、お願いします、勇者様!」

アレンが魔物の前に立つ。

アレン「なあ。村の連中が怖がってるんだ。他の場所に移動してもらえないかな?」
魔物「……他にどこへ行けというのですか? 私は人間たちに追い立てられ、命からがら、ここへたどり着いたんです」
フィー「……」
アレン「すまん」
魔物「なぜ、あなたが謝るのですか?」
アレン「この状況を作ったのは俺だからな」
魔物「……ああ。そうですか。あなたが魔王様を倒した、勇者ですか」
アレン「そうだ」
魔物「それなら、私が勝てる道理はありませんね。というより、そもそも私は弱い部類の魔物なのですけど。逃げ続けるのにも疲れました。勇者に葬られるなら本望というものです」
アレン「お前。村で暴れる気あるか?」
魔物「先ほども言いましたが、私は弱い部類の魔物です。村に行ったところで返り討ちに合うのが関の山でしょう」
アレン「だ、そうだ。こいつは危険じゃないよ。このままここに住まわせてはどうだ?」
村長「冗談じゃありません! 魔物は魔物です!」
アレン「んー。そうは言ってもさー」
村長「勇者様が手を貸してくれないのなら、こちらでやります。おい、やれ!」
兵士3「はい! いくぞ、みんな!」

兵士たちが一斉に魔物に向かっていく。

アレン「はあ……」

アレンが剣を抜いて一閃すると、自警団たちはみんな倒れる。

村長「なっ!? 勇者様! 血迷ったんですか? 魔物の味方なぞして」
アレン「もう、しゃべらないでくれ」

アレンが剣の柄で村長の首筋を打つ。

村長「うっ!」

村長が倒れる。

魔物「あの……?」
フィー「安心するんじゃ。我らはそなたに危害を加える気はない」
魔物「……あ、あなたは! 魔王様!」
フィー「ひれ伏さんでもよい」
魔物「魔王様。なんてお姿に……」
フィー「勇者のやつにロリッ子にされたんじゃ」
アレン「人聞きの悪いことを言うな! 一緒に旅するなら、魔王の姿はマズイって言ったのはお前だろ!」
魔物「あの……なぜ、魔王様が勇者と?」
フィー「いや、こいつがな。人間は素晴らしい生き物だと力説したんじゃよ」
アレン「そこまで言ってねーよ。絶滅させるほど、酷くないって言ったんだ」
フィー「で、それを見せてくれるっていうから、こうして一緒に旅をしてるんじゃよ」
魔物「はあ……」
フィー「いやー、アレンの言う通り、ホント、人間という生き物は素晴らしいのう」
アレン「……」
フィー「魔王がいなくなった途端、無害な魔物の駆逐や乱獲。そして、人間共通の敵がいなくなったら、今度は人間同士で戦い始める。なかなかこんな生物はいないんじゃないか? のう? アレン?」
アレン「う、うるさいな……」
フィー「ってことで、約束を破ったアレンに、今、協力してもらってるんじゃ」
魔物「協力……ですか?」
フィー「新たに魔物たちによる国を作る。まあ、今度はお互いの国に不可侵条約を結ぶつもりじゃが……まあ、いつまでもつかは知らん」
アレン「……50年が関の山だろうな」
フィー「そうなれば、また魔物の世界に逆戻りするだけじゃな」
魔物「……」
フィー「ってことで、ワシらは各地を回って、魔物たちを集めておるんじゃ」

フィーが魔物に一枚の紙を渡す。

魔物「これは?」
フィー「建国はもう始まっておる。ここに行けば、仲間たちが大勢いる。安心して生活できるはずじゃ」
魔物「ありがとうございます、魔王様」

場面転換。
アレンとフィーが歩いている。

フィー「さてと、アレン。建国の際は、貴様に玉座に座ってもらう約束じゃからの?」
アレン「わかってる。わかってるけど、せめて顔を隠させてくれよ」
フィー「しょうがないのう」
アレン「あー、くそ。勇者から魔王に転職か。洒落になってねーな」

終わり。

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