不思議な館のアリス 罪の意識

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
アリス「おや? 随分と疲れた顔をされていますね。また残業が続いたのですか?」
アリス「ああ……。そういえば、もう年の瀬ですね。どおりで、周りが騒がしかったわけです」
アリス「ええ。そうですね。私や妹は特に、祝いなどはしません。そのような風習がありませんので」
アリス「というよりは、1年の区切りの感覚がこの世界の人たちとは違う、と言った方が正しいでしょうか」
アリス「ふふふ。どういう意味かは、ご想像にお任せします」
アリス「それにしても、その様子だと身体の疲れだけではなさそうですね。何か、精神的な負担などがあったのですか?」
アリス「……なるほど。無礼講というのが逆に仇となったのですね」
アリス「ふふふ。部下の不満を聞けたのはよかったなんて言葉は、なかなか言えませんよ。あなたらしいですが」
アリス「最近では、お酒の席に誘うことさえもハラスメントになるらしいですね。そういう点でいうと、誘いに乗ってくれた時点で、あなたへの信頼があるということじゃないでしょうか?」
アリス「……少しわざとらしかったですか? 申し訳ありません。慰めるというのはなかなか苦手でして」
アリス「それで、部下にどんな不満を言われたのですか?」
アリス「……そうですか。ただ、それはあなたが悪いというより、部下の方にも責任があったのではないでしょうか?」
アリス「お酒の席での言葉ですし、あまり気にされない方がよいかと」
アリス「罪の意識というものは意外と厄介なのですよ。なので、背負い込まないように注意が必要です」
アリス「まあ、まったく持たないというのも、厄介なのですが。ただ、あなたはどちらかというと、背負いすぎの性格ですからね」
アリス「……そうですね。では、本日は罪の意識についてのお話をしましょうか」
アリス「これはある国に住む、老人のお話です」
アリス「その国は極寒の地にあり、1年を通しても暖かくなる時期がなく、常に雪が積もっているという土地でした」
アリス「その老人は独り身で、特に知り合いもなく、ただ静かに余生を過ごしていました」
アリス「そんなある日、老人の元にある男がやってきました。その男は老人にこう提案します」
アリス「暖かい土地に移住したらどうか。今ならいい物件がある、と」
アリス「老人は生い先が短いということもあり、せめて快適な土地で最期を迎えたいと思い、その男の話に乗りました」
アリス「ですが、男は詐欺師でした。男に全財産を奪われた老人は、つい、カッとなり男を殺してしまいます」
アリス「その土地は極寒ということと、老人は街はずれに住んでいたということもあり、人通りはなく、老人の犯行を見た人間はいませんでした」
アリス「ですが、男の死体が見つかればバレてしまいます。そこで、老人はある場所に死体を隠すことにしました」
アリス「それはなんと雪だるまの中です」
アリス「普通に埋めるほど深く穴を掘る元気もなく、犬の散歩コースにもなっていたため、掘り返されるリスクがあったからです」
アリス「雪だるまであれば、1年中、雪が溶けないこの地であれば維持し続けることができ、また、散歩の際、犬が吠えたとしても崩すことはないと考えたようですね」
アリス「普通なら、すぐに見つかってしまいそうですが、意外と上手くいったそうです」
アリス「ただ、それから老人は雪だるまを見張るという習慣ができました」
アリス「何か予測できないことがあり、雪だるまが壊れてしまえば、老人の犯行がバレてしまいます」
アリス「老人は朝から晩まで、雪だるまを見張り続ける生活になってしまいました」
アリス「そんな生活が20年続き、老人もかなりの高齢になってしまいます」
アリス「体力的に見張るのが辛い日も、体に鞭を打って見続けたのです」
アリス「ですが、それは突然起こりました」
アリス「その年は異常気象で、かなり気温が高くなっていました」
アリス「雪も溶け始め、雪だるまも日に日に小さくなっていきます」
アリス「老人は気が気ではないまま、それでも見張り続けます」
アリス「ですが、ついに、遊んでいた子供によって雪だるまが壊されてしまいました」
アリス「老人は終わったと観念しました。ですが、同時にやっと終われると安堵さえしたそうです」
アリス「……ただ、不思議なことに、雪だるまの中には何も入ってなかったのです」
アリス「老人は戸惑いました。確かに雪だるまの中に隠したはずだと」
アリス「しかし、実際に、雪だるまの中にはなにもありませんでした」
アリス「それから老人は緊張の糸が切れたのか、翌日、亡くなったそうです」
アリス「この老人は罪の意識により、長生きできた……いえ、長生きさせられていたのでしょう」
アリス「それほどに、老人にとって罪の意識は強かったというわけです」
アリス「……え? 男の死体はどこにいったのか、ですか?」
アリス「さあ。それはご想像にお任せしますよ」
アリス「ふふふ。不満そうな顔ですね。ですが、世の中はすべて答えがあることだけとは限りませんよ」
アリス「今回のお話はこれで終わりです」

アリス「ふふ。それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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