私は名探偵 9話

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
ライリー
ティーナ
レアリー

■台本

ライリー(N)「私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。現在は探偵を引退し、毎日を気ままに過ごしている。……はずなのだが」

部屋の中。

レアリー「すみませんねぇ、ライリーさん。遠いところ、わざわざご足労いただいて」

ライリー「いえいえ。レアリー婦人の頼みであれば、どこにだって行きますよ」

レアリー「それにしても、あなたが探偵を引退するだなんてねぇ。いまだに信じられません」

ライリー「はははは。大げさですよ」

レアリー「あなたならまだまだ現役でやれると思うんですけどね」

ティーナ「私もそう思います」

ライリー「……ティーナくん。口を挟まないでくれたまえ。それにレアリーさん、私ももう年です。そろそろ休ませてください」

レアリー「……そうね。いつの間にか、私たちもこんな年になってしまったのですね」

ライリー「ええ。我々はそろそろ余生を過ごすべきだと思います」

レアリー「少し寂しいけれど、あなたの言う通りですね。きっと、あなたを呼ぶのもこれが最後になるのでしょうかね」

ライリー「ははは。私はもう探偵じゃないのです。事件が起きなくても、呼んでいただければすぐに会いに来ますよ」

レアリー「ふふ。そうね。今度呼ぶときは一緒にゆっくりとお茶をしましょう」

ライリー「ええ」

ティーナ「それで、先生にはどんな依頼をされたのですか?」

レアリー「あら、先生だなんて。てっきり娘さんだと思ってましたわ」

ティーナ「助手です」

レアリー「……助手? でもあなた、探偵は止めたんじゃ……」

ライリー「元、です。元助手ですよ」

ティーナ「いえ、今も助手のつもりです」

ライリー「ティーナくん。少し黙っていてくれないかね」

レアリー「ライリーさんには、この予告状について来ていただいたの」

ティーナ「予告状……。失礼します」

ティーナがレアリーの手紙を受け取る。

ティーナ「……えっと、3日の深夜0時に、人生をいただきに参ります。……って、これ、殺人予告じゃないですか!」

ライリー「……」

レアリー「そうね。でも……あまり大事にしたくなくて」

ティーナ「どうしてですか?」

ライリー「……差出人に心当たりがあるんですね」

レアリー「さすがね。……ええ。誰かというのまではわからないのだけれど、見たことがある気がするんです。その文字……」

ティーナ「確かに、今時、手書きの脅迫状なんて珍しいですね」

ライリー「それに命を奪うとは書かれていない。……何か別の意図がある気がしますね」

レアリー「そうなの。だから、あなたに来てもらったのよ。私もこの年だから、今更、この命に執着はしていなのだけれど」

ライリー「もし、本当に殺意があるのだとするなら、こんな遠回りかつ、危険なことはしないだろう。予告なんかすれば、実行が困難になるからな」

ティーナ「確かに……」

ライリー「ということは、何かしら意図があるということだ。おそらく、今日の0時に何かが起こるので、注意してほしい。……というところだろうな」

ティーナ「さすが先生です」

レアリー「ふふ。さすがね。やっぱり、あなたはまだまだ探偵をやれるんじゃないかしら」

ティーナ「そうですよ! 続けるべきです」

ライリー「……やめてください。余生をゆっくりと過ごそうと話したばかりじゃないですか」

レアリー「そうでしたね。……でも、あなたとの日々は私の人生そのものと言っていいわ。……それが終わってしまうなんて、やっぱり寂しいものよ」

ティーナ「……あの、先生とレアリー婦人ってまさか」

ライリー「……変な勘繰りは止め給え。婦人はいわゆるスポンサーだ。事件が起こるたびに何かとサポートをしてもらったのだよ」

レアリー「主人がライリーさんの大ファンでしてね。事件が解決した後は色々と話を聞かせてもらっていたのですよ」

ライリー「感謝してもしきれません。あなた方がいなければ、私は探偵を辞めていたかもしれません」

ティーナ「先生がいなければ、私も助手にはなれませんでした。私からもお礼を言わせてください」

レアリー「ふふふ。面白い助手さんですね」

ライリー「……お恥ずかしい限りです」

レアリー「でも、あなたが助手をとるなんてねぇ。知らなかったわ」

ライリー「ははは。5年位前から、強引にこられましてね」

ティーナ「え? 私、強引でしたか?」

ライリー「……ティーナくん、そういうところだよ」

レアリー「5年前……。主人が亡くなってからですね」

ライリー「ええ……」

レアリー「まさか、ほとんど顔を出さなくなったのはあなたの顔を見ると、主人のことを思い出してしまうというのを避けるためかしら」

ライリー「……」

レアリー「ふふ。相変わらず、あなたは気を使い過ぎよ」

ライリー「……」

レアリー「さあさあ、しんみりした話は終わりにしましょう。食事を用意したから、食べていって頂戴」

ティーナ「じゃあ、先生。私は少し屋敷内を調べてきますね」

ライリー「いや、いい」

ティーナ「え?」

ライリー「今日はそういうことはしなくて大丈夫だ」

ティーナ「……わかりました」

場面転換。

大時計の音が響き渡る。

レアリー「あらあら。もうこんな時間」

ティーナ「0時……。予告の時間ですね」

ライリー「……」

そのとき、ガシャンと大きな音がする。

ティーナ「きた!」

ライリー「さあ、レアリー婦人、行きましょうか」

レアリー「え?」

ライリー「音がしたところを確かめに行きましょう」

ティーナ「……」

レアリー「ええ。そうね」

場面転換。

ギイとドアが開く音。

ライリー「ここですね」

レアリー「……ずっと空き部屋になっていたところだわ。何もないように思えるのだけれど」

そのとき、ガチャンと音がして、ジーっという機械音がする。

ティーナ「あ、空中に動画が流れ出した」

レアリー「……これは」

ライリー「……私が担当した事件の資料ですね」

レアリー「……懐かしいわ。事件が起こったら、あなたを呼んで解決してもらって、それを主人と一緒に聞く。……なんの変哲もない私たちの人生が一気に彩り始めたような気がしたわ」

ライリー「……」

レアリー「……でも、いつも主人は言っていましたわ。事件を喜ぶなんて後ろめたいって」

ライリー「人間なんてそんなものです。公言しなければ、気を病む必要なんてありません」

レアリー「……ありがとう」

そのとき、ボンと機械が壊れる音がする。

ティーナ「あっ! 映像が入った映写機が壊れました」

レアリー「そ、そんな……」

ライリー「なるほど」

ティーナ「え?」

ライリー「レアリー婦人。あなたは今まで事件の話が唯一の彩りと言っていましたね」

レアリー「ええ」

ライリー「ですが、その事件と思い出はこうして壊されてしまいました」

レアリー「……確かに、今までの人生を奪われた気がします」

ライリー「では、これからは新しい思い出を作っていきましょう」

レアリー「え?」

ライリー「ご主人が亡くなってから、あなたは籠りっきりでしたよね。今までの人生は終わりました。これからは新しい人生を歩んでいきましょう」

レアリー「……ええ、そうね。その通りだわ。……でも、いったい、誰がこんなことを?」

ライリー「わかりません。これは迷宮入りですね」

レアリー「そう。……あなたが解けないならしかたないわね」

ライリー「ええ。……世の中には解かない方がいい謎もあるものです」

場面転換。

ライリーの部屋。

ガチャリとドアが開く。

ティーナ「先生。この事件ですが……」

ライリー「なんで、普通に私の部屋に入ってくるんだね、君は」

ティーナ「助手ですから」

ライリー「……君は、ああ、いや、何でもない」

ティーナ「そういえば、レアリー婦人の件ですが、本当に先生でもわからなかったんですか?」

ライリー「……あの家に仕掛けができるのは一人だけ」

ティーナ「でも、ご主人は5年前に亡くなっているって……」

ライリー「だから、トリックを使ったのだろうな。おそらく、私から聞いた事件のトリックを参考にしたのだろう」

ティーナ「5年越しのトリックですか」

ライリー「自分が死んだら、ふさぎ込むと分かっていたのだろうな。だから、あのような仕掛けをしたんだろう」

ティーナ「でも、なんでわざわざ5年も時間を置いたんですかね」

ライリー「すぐに発動させたら、バレてしまうだろう? 5年も経てば、婦人も、まさか亡くなった主人の仕業だなんて思わないからな」

ティーナ「……」

ライリー「納得できていない顔をしているな。おそらく、私への挑戦もあったんだろう。犯人が既に5年前に死んでるなんて、なかなかのミスリードだ」

ティーナ「ふふ。先生の事件を聞き続けたからこその発想ですね」

ライリー「ああ」

ティーナ「でも、先生は結局、解いてしまいましたね」

ライリー「……他言は無用だぞ」

ティーナ「ふふふ」

ライリー「なんだね?」

ティーナ「この事件のことなんですけど、手伝っていただけますか?」

ライリー「……ズルいな」

ティーナ「先生の助手はこれくらいじゃないと務まりません」

ライリー「……やれやれ」

ライリー(N)「私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。現在は探偵を引退し、毎日を気ままに過ごすはずなのだが……それはいつになるのだろうか」

終わり。

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