僕だけに向けてくれる最高の笑顔
- 2023.03.01
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
玲央(れお)
七菜香(ななか)
北嶋 志津(きたじま しづ)
■台本
教室内。
バンと机を叩く玲央。
玲央「七菜香、聞いてくれ!」
七菜香「……なに? くだらないことならお断りよ」
玲央「ふふふ。実に素晴らしいことなんだ!」
七菜香「はいはい。で? なに?」
玲央「志津ちゃんのことなんだが……」
七菜香「北嶋さんがどうかしたの?」
玲央「僕にだけ、笑顔を向けてくれるんだよ!」
七菜香「……玲央。あんたさぁ、そんなくだらない妄想のことで、私の貴重な昼休みを消費させないでくれる?」
玲央「何言ってるんだ! 志津ちゃんだぞ! あの志津ちゃんの笑顔を、お前は見たことがあるのか?」
七菜香「あー、いや、そう言われると……。いつも無表情だもんね、北嶋さん。可愛いのにもったいないよね」
玲央「男子の中でも人気上位だからな、志津ちゃん」
七菜香「玲央、ちょっといい?」
玲央「なんだ?」
七菜香「あんたが、北嶋さんのことを志津ちゃん呼びするの、キモイ」
玲央「なっ!? なんだと!?」
七菜香「大体、あんた、北嶋さんと親しくないでしょ? なのに下の名前でちゃん付けって、言っとくけど犯罪よ」
玲央「そこまでか!? ……けど、本人に言ってるわけじゃないから、セーフじゃないか?」
七菜香「聞いてる私の嫌悪感がハンパないんだけど」
玲央「それは我慢しろよ」
七菜香「……」
玲央「おっと、本題からそれちまったな。あの志津ちゃんが僕にだけ笑顔を向けてくれるんだぞ! 凄いだろ!?」
七菜香「うんうん。すごいすごい。今日もいい夢見れるといいね」
玲央「夢じゃねえよ!」
七菜香「あのさ、笑顔もなにも、そもそも、あんた北嶋さんと話したことあるの?」
玲央「あるよ」
七菜香「え? ホントに? 幻聴じゃなくて?」
玲央「アホか! ちゃんと志津ちゃんの実際の声だよ。リアルボイスだ」
七菜香「……あっ、わかった! 脅かしたとか、そんな感じでしょ?」
玲央「違うわっ! ちゃんと一対一で面と向かって話したっつーの」
七菜香「……」
玲央「なんだよ、その不審者を見るような目は?」
七菜香「玲央。私も付き添ってあげるから、警察行こ? 自首すれば少しは罪が軽くなるからさ」
玲央「犯罪行為じゃねーよ!」
七菜香「え? 脅したとかでもないの?」
玲央「お前は俺をどんな目で見てるんだ!?」
七菜香「犯罪者オア変態?」
玲央「ぶっ飛ばすぞ!」
七菜香「うーん。まあ、冗談は置いておいて、証拠が欲しいわね」
玲央「証拠?」
七菜香「北嶋さんに話しかけてきてよ。今」
玲央「……それは無理だ」
七菜香「なんで?」
玲央「志津ちゃんは半端なく人見知りだ。教室で声を出すなんてことは絶対にしない」
七菜香「……まあ、そうね。授業中に当てられても、答えるのを拒否するくらいだもん」
玲央「最近は先生たちもそれを知って、当てなくなったもんな」
七菜香「でさ、どうやって証明するの? 北嶋さんがあんたに向けて笑顔を向けてくれるなんて妄想を」
玲央「ふっふっふ。妄想と言ってられるのも今のうちだ。放課後、ちょっと付き合え。証明してやる」
場面転換。
ハンバーガーショップ。
志津がカウンターで接客している。
その声はボソボソとしていてほとんど聞こえない。
それを遠くから見ている玲央と七菜香。
志津「……しゃい……せ」
七菜香「ええー。北嶋さん、ここでバイトしてたんだ!?」
玲央「僕も最近知ったんだ」
七菜香「……よくあれで雇って貰えたわね。ほとんど声、出てないじゃない」
玲央「可愛いからオッケーなんじゃねーの?」
七菜香「あんた、接客業を舐めてるでしょ」
玲央「とにかく、僕はよくここに通ってるんだ」
七菜香「……まさか、あんた。北嶋さんがお客さんに向ける笑顔のことを言ってるんじゃないでしょうね? それだと、あんただけじゃないでしょうが」
玲央「よく見ろ! お客さんだからと言って、志津ちゃんは笑顔になったりしない。常に無表情だ!」
七菜香「……よくバイト、クビにならないわね。ある意味、すごいわ」
玲央「よし、着いて来い」
七菜香「え?」
玲央「僕だけに向けてくれる、志津ちゃんの最高の笑顔を見せてやる」
玲央と七菜香がカウンターの方へ歩いていく。
志津「いら……い……ませ」
玲央「ハンバーガー一つと……スマイルください!」
七菜香「へ?」
志津「……っ」
玲央「どうだ!? 最高の笑顔だろ?」
七菜香「思いっきり、営業スマイルじゃないのよ!」
終わり。
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