この話は語り継がれない

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ

■キャスト
ジェームス
ミリィ
使用人1~2
商人
船長
旅商人

盗賊1~2
王様
魔術師

■台本

ジェームス(N)「俺の名前はジェームス。生まれてすぐ、捨てられて山賊に拾われた。剣術を叩きこまれ、いざ、初仕事というときに憲兵に捕まった。まだ子供ということで、処刑は免れたが奴隷として売り出されてしまうという壮絶な人生のスタートだったのだ」

場面転換。
商人の家。

ジェームス「というわけだ」
使用人1「ホントに?」
ジェームス「ホントだって。嘘ついてどうするんだよ」
使用人1「だって、まるでおとぎ話の主人公みたい」
ジェームス「……そうかな?」
使用人1「うんうん。おとぎ話の主人公は大体、最初は不幸のどん底からスタートするんだよ」
ジェームス「……それなら、俺も、おとぎ話みたく、成り上がれるのかな?」
使用人1「ジェームスならなれそうな気がするけどね。頭もいいし、度胸もあるし、強いし」
ジェームス「へへへ。もし、俺の話がおとぎ話になったら、お前の名前も出してやるよ」
使用人1「ホント? ありがとー」

そこに使用人2がやってくる。

使用人2「ジェームス。ご主人様が呼んでるよ」
ジェームス「ご主人様が? わかった。すぐ行く」

場面転換。
ガチャリとドアを開け、ジェームスが部屋の中に入る。

ジェームス「ご主人様、お呼びでしょうか」
商人「おお、ジェームス、来たか。……なあ、ジェームス。お前、旅に出るつもりはないか?」
ジェームス「え? どういうことでしょうか?」
商人「いやぁ、実はな。国王様が他国との貿易を開始させると言い出したのだよ。商船を結成させるから、うちからも誰か出せと言われてな」
ジェームス「それで、俺を?」
商人「ああ。お前は頭がいい。商いのことは全て教えたつもりだ。それにお前は身体能力も高いし、どこか人を引き付ける魅力もある」
ジェームス「……」
商人「正直、私もお前をうちから出すのは痛い。……が、国王様からの招集に変な人員を送るわけにもいかん。どうだ? 行ってくれんか?」
ジェームス「ありがとうございます。是非、行かせてください!」

場面転換。
海の荒れ狂う波の音。
船がギシギシと揺れる。

船長「おい! ロープが切れるぞ! 代わりのを持ってこい!」
ジェームス「はい!」

ジェームス(N)「俺はご主人様の言いつけで、船団に乗り込むことになった。その際、奴隷という身分から解放され、平民となったのだ。……俺は成り上がっている感じがする。あいつの言ったように、俺の話はおとぎ話になるかもしれない」

ブチっとロープが切れる。

船長「くそっ! ダメだ! 船が倒れるぞ! みんな、近くの物に掴まれ!」

大波が迫り、船を飲み込む。

ジェームス「うわああああああ!」

ジェームス(N)「だが、人生はそうそう上手くいかない。なんと、俺が乗った船はあっさりと沈没してしまったのだ」

場面転換。
海辺。穏やかな波の音がする。

ミリィ「……ちょっと! 起きなさい! 起きて!」
ジェームス「……ん? え?」

ジェームスが起き上がる。

ジェームス「ここは……海辺? 俺は助かったのか?」
ミリィ「そんなことはいいから、早く、こっち来て!」
ジェームス「え? どこから声が……?」
ミリィ「ここよ! ここ!」
ジェームス「ランプ?」
ミリィ「拾って、擦りなさい!」
ジェームス「なんで?」
ミリィ「そうしないと出られないのよ! いいから、早くやる!」
ジェームス「……はいはい」

ジェームスがランプをこするとボンと音を立てて、ランプからミリィが出てくる。

ミリィ「ぷはー! やっと出られたわ」
ジェームス「……君は?」
ミリィ「私はミリィ。妖精ってやつよ」
ジェームス「妖精!?」
ミリィ「そうよ。……初めて見た?」
ジェームス「ホントに存在したんだ?」
ミリィ「当然よ」
ジェームス「……さてと。それより、これからどうしようかな? 国に戻っても、なんか責任取らされるような気がするし……」
ミリィ「え? ちょっと……」
ジェームス「どこかで働く場所を確保して……」
ミリィ「ちょっと! 話を聞きなさい!」
ジェームス「へ? え? なに?」
ミリィ「なに、じゃないわよ。私を置いていく気?」
ジェームス「置いていくって……。帰るんじゃないの?」
ミリィ「あのねえ、今更帰れるわけないでしょ。だから、私を一緒に連れて行きなさい」
ジェームス「え?」
ミリィ「私を連れて行けば、きっといいことがあるわよ」
ジェームス「そっか。わかった。よろしく」
ミリィ「そうこなくっちゃ」

ジェームス(N)「おとぎ話になるために、足りなかったもの。それは不可思議なことだ。それが今、埋まった。妖精を連れた冒険は、きっとおとぎ話になるぞ」

場面転換。
旅商人「じゃあ、これ。頼まれてた商品ね」
ジェームス「ありがとうございます」

旅商人が行ってしまう。

ミリィ「こんな粉みたいなのを買い込んでどうするつもり?」
ジェームス「香辛料だよ。城に売りに行くのさ」
ミリィ「へー」

ジェームス(N)「あれから色々あって、俺は自分の店を手に入れた。捨て子、山賊、奴隷、平民、そして商人。ドンドンと成り上がっている気がする」

場面転換。
荷台に香辛料を乗せて荷車を引くジェームス。

ミリィ「儲けたら、今日はご馳走ね」
ジェームス「ミリィはいつもそればっかだな。少しは何か貢献してくれ。これじゃただのタダ飯食らいじゃないか」
ミリィ「何言ってるのよ。私の活躍の場はもっと後よ。もっと後」
姫「きゃあああ!」
ジェームス「悲鳴だ!」

場面転換。

盗賊1「へっへっへ。お姫さんよ。観念しなよ」
姫「や、止めてください」

そこにジェームスがやってくる。

ジェームス「なにやってるんだ!」
盗賊1「なんだてめえは?」
盗賊2「やっちまえ」
ジェームス「くっ!」

ジェームスが剣で盗賊たちを叩き伏せる。

盗賊1「くそ、つええ……」
ジェームス「ふう。……大丈夫ですか?」
姫「……ありがとうございました」

ジェームス(N)「この時助けた女性は、なんとこの国のお姫様だった。姫を助けたお礼に俺は城に呼ばれる。そして……」

場面転換。
城の中。

魔術師「ふはははは。姫は預かったぞ」
姫「助けて、お父様」

魔術師が姫を浚って逃げていく。

王「……くそ。なんてことだ」
ジェームス「……姫」
王「頼む、ジェームス。姫を助けてくれ」
ジェームス「へ? ……わ、わかりました」

場面転換。
魔術師の根城。
大勢のモンスターが迫ってくる。

姫「ジェームス様」
ジェームス「くそ、取り囲まれた」
ミリィ「ちょっとどうするのよ?」
ジェームス「ミリィ。ここは君の出番じゃないのか? なんか、特別な力でパパっと」
ミリィ「そんな力あるわけないじゃない」
ジェームス「そうなのか。じゃあ、なんとか、自分の力で切り抜けないとな。うおおおお!」

ジェームス(N)「俺は無事に姫を助け出し、王様の元へ送り届けた」

場面転換。
城の中。

王様「ジェームスよ。礼を言う。そなたには盛大な褒美を取らせよう」
ジェームス「ありがとうございます」

場面転換。
夜の道を歩くジェームス。

ミリィ「あーあ。てっきり、お姫様と結婚する流れだと思ったんだけどね」
ジェームス「はははは。さすがにそこまで上手くはいかなかったか」

ジェームス(N)「この後、俺は王様の褒美をもらって、そこそこ大きなお店を持つことができた」

場面転換。

ミリィ「……うーん。おとぎ話になるにはちょっと地味ね」
ジェームス「うーん。まあ、な」

ジェームス(N)「おかしいな。俺には妖精がついていたのに。……まあ、でも、その妖精は俺の冒険に何も絡んでこなかったから当然か。これじゃ、きっと、俺の話はおとぎ話にはならないだろう。……結局、ミリィはタダ飯食らいで終わったんだよな」

終わり。

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