大人の証明

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
舞台・実写ドラマ・ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
高梨 紫苑(たかなし しおん)
天海 魁人(あまみ かいと)
宮下 春那(みやした はるな)
女子1~女子2
男子

■台本

教室内。
ガヤガヤと賑わっている。

紫苑「じゃじゃーん! 見て! 春の新作!」
女子1「どれどれ? つけてみてよ」
紫苑「いいよ」

口紅をつける紫苑。

紫苑「どうよ?」
女子1「へー、すごい。今の口紅って、唇のプルプル感、半端ないね」
紫苑「やっぱさ、化粧は大人の証明って感じだよね」
女子2「わかるー。私も、先月、化粧品買いすぎて金欠になっちゃった」
紫苑「あるあるだよね」

ガラガラとドアが開く。

春那「……みなさん、静かに。授業始めますよ」

生徒たちがゾロゾロと自分の席に戻る。

春那「今日は32ページからです。……高梨さん」
紫苑「ん? なーに?」
春那「口紅……。落としておかないと、没収されますよ」
紫苑「あははは。後で落としとくよー」
春那「……では、昨日の続きから」

春那が黒板に文字を書き始める。

場面転換。
休み時間の教室。

女子1「うける―! 紫苑、注意されてやんの」
紫苑「あれさー、絶対、春っちの嫉妬だよ。自分が地味子だから悔しいんだって。絶対」
女子2「言えてるー。なんか、凄いダサいっていうか、空気って言うか、地味だよね」

ドアがガラガラと開き、魁人が入ってくる。

魁人「よーし、ホームルームやるぞー」

みんなが自分の席に座る。

魁人「よし。じゃあ、昨日、渡したプリントの件だが……」
紫苑「せんせー!」
魁人「ん? どうした、高梨?」
紫苑「この口紅どう?」
魁人「口紅? んー。俺はもう少しピンクっぽいのがいいな」
紫苑「うそー! これ3000円したのに」

周りからドッと笑い声が起きる。

魁人「ま、冗談はさておき、そういうのは誰に見せるかによるだろ。相手の好きな色にするのがいいんじゃないのか?」
紫苑「だから、せんせーに聞いたのにー」
魁人「……はあ。はいはい。わかったわかった。それより、ちゃんと落としとけよ。高田先生に没収されちまうぞ」
紫苑「ぶうー」

場面転換。
放課後で、誰もいない廊下。

紫苑「ってことで、ごめんねー」
男子「そ、そうですか」

トボトボと男子が去っていく。

紫苑「ガキには興味ないんだよね―」

紫苑も歩き出す。

紫苑「あ、せんせーのとこ行こうかな。……この時間なら、囲碁部のとこかな?」

場面転換。
勢いよく、ドアが開く音。

紫苑「せんせー、いるー!」
魁人「うわっ!」
春那「きゃっ!」
紫苑「……せんせー、春っちと何してたの?」
魁人「宮下先生、だろ?」
紫苑「部員は?」
魁人「ああ、今日は町の教室の方に行ってるんだよ」
紫苑「だから、春っちとイチャイチャしてたと?」
魁人「怒るぞ! もうすぐテストだから、試験傾向について話してたんだよ」
紫苑「ふーん」
春那「それじゃ、失礼します、天海先生」
魁人「あ、はい。続きは職員室で」
春那「はい」

教室を出ていく春那。

紫苑「……ホント、地味だよねー」
魁人「宮下先生のことか?」
紫苑「なんつーか、地味って言うか子供っぽいよね。今時、高校生でも、もっと大人っぽいって」
魁人「んー。そうかな?」
紫苑「え?」
魁人「俺は凄い、大人だと思うぞ。宮下先生」
紫苑「えー!? うそー!」

場面転換。
ファーストフード店。
ガツガツとポテトを頬張る紫苑。

紫苑「あー、もう! イライラする!」
女子1「ほら、ボロボロ落としてるよ」
紫苑「うっさいなー」
女子2「もしかして、天海先生と宮下先生、付き合ってるのかな?」
紫苑「はあ? ないない。ぜーったいない!」
女子1「随分と否定するね」
紫苑「だってさー、あんな地味子に負けるなんてあり得ないでしょ。あの人に落とせるなら、とっくに私が落としてるっての!」
女子2「あはははは。凄い自信だね」
紫苑「そりゃそうだよ。私、凄い努力してるんだよ? お化粧とかファッションとかさ」
女子1「確かに紫苑は凄いと思う」
紫苑「でしょ?」

場面転換。
町中を走る紫苑。

紫苑「ヤバいヤバい。ちょーしこいてたら、遅くなっちゃった。……ってあれ? せんせーじゃん。せんせ……」

ピタリと立ち止まる紫苑。

紫苑「え? なんで……?」

場面転換。
放課後の教室。中には紫苑しかいない。

紫苑「……」

ガラガラとドアが開き、魁人が入ってくる。

魁人「ん? 高梨、何やってんだ? 帰らないのか……?」
紫苑「せんせー!」
魁人「お、なんだ!?」
紫苑「春っちと付き合ってんの?」
魁人「……だから、違うって……」
紫苑「キスしてるの見た」
魁人「……」
紫苑「……っ!」

紫苑が魁人にキスをする。

魁人「おまっ! なにする……」
紫苑「私でいいじゃん! ……あんな地味子よりさ。私の方がずっと……」
魁人「(ため息)馬鹿なこと言うな。ほれ、帰れ」
紫苑「……」

場面転換。
朝の教室内。物凄くザワザワしている。

紫苑「……」
女子1「天海先生、クビになるのかな?」
女子2「そりゃ、学校内でキスしたなら、ヤバいでしょ」
女子1「けど、口に口紅ついてただけでしょ?」
女子2「いや、それがキスの証拠なんだって」
女子1「クビにならなくても、辞めちゃうかも」
紫苑「っ!」

立ち上がる紫苑。

女子1「え? 紫苑? どしたの?」

紫苑が走り出し、教室を出ていく。

場面転換。
ガラガラとドアが開き、魁人が出てくる。

魁人「……ふう」
春那「どうだったの?」
魁人「……初犯ってことで、厳重注意で済んだ」
春那「もう、バカなんだから」
魁人「……ごめん」
春那「今度から気を付けなよ」
魁人「……俺のためだったんだな」
春那「え?」
魁人「口紅しないのも、地味な格好してるのも」
春那「魁人は大事な時期だもん。浮いた話は厳禁……でしょ?」
魁人「……ありがとう」

その話を廊下の端で聞いていた紫苑。

紫苑「う、うう……」

ポロポロと涙を流す紫苑。

場面転換。
放課後、廊下を歩いている春那。
そこに紫苑が走り寄ってくる。

紫苑「宮下せんせー!」
春那「あら、高梨さん、どうしました?」
紫苑「あー、えっとね」

ポケットをガサガサと探って、ある物を取り出す。

紫苑「はい、これ」
春那「……リップクリーム?」
紫苑「春の新作」
春那「……」
紫苑「先生にあげる」

春那がにこりと微笑む。

春那「ありがとう」

場面転換。
廊下を歩く紫苑。
廊下に置いてあるゴミ箱の前で立ち止まる。
そして、ポケットから口紅を出して、ゴミ箱に入れる。

女子1「おーい、紫苑、行くよー!」
紫苑「今行くー!」

紫苑が女子1と女子2のところへ走り出す。

終わり。

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