エゴの報い
- 2023.04.25
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
流星(りゅうせい) ※年齢は各シーンに記載
凜(りん) ※年齢は各シーンに記載
達人(たつひと) 38歳
祖父 58歳
村人1~3 性別年齢自由※ただし大人
■台本
一発の銃声が鳴り響く。
流星(N)「俺のじいちゃんはマタギだった。と言っても、生粋のマタギではなく、村に獣害があったら対処するという程度のものだ。それでも、じいちゃんのじいちゃんもマタギで色々と教わったのだそうだ」
祖父「いいか、流星。獣は人間じゃない。そこは絶対に忘れるなよ」
流星(N)「じいちゃんは、鹿を撃つときはよく、俺を狩猟に連れて行ってくれた。俺は動物を撃つという行為はあまり好きではなかったけど、山が好きだったから、嬉しかった。じいちゃんは俺の知らない虫や生き物をたくさん知っていた。だから、それを教えて貰うのがとても楽しかったのだ」
祖父「流星。お前は優しすぎる。お前はマタギを継ぐ必要はないからな」
流星(N)「それがじいちゃんと交わした最後の言葉だった。じいちゃんの真意は、いまだによくわからなかったが、元々俺は狩猟には興味がなかった。だから、そもそもマタギになるつもりはなかったのだ」
場面転換。
凜(14)が流星(14)の元に走ってくる。
凜「流星!」
流星「凜? どうした?」
凜「お父さんが、熊狩りに行って、帰って来ないの」
流星「……大丈夫だって。おじさんは凄いベテランのハンターなんだぜ? きっと、山菜取りとかしてるんじゃないのか?」
凜「でも、山に入って2日経ってる」
流星「……」
場面転換。
銃に弾を込めて装弾する音。
凜「流星? 何する気? 警察に任せた方が良いよ」
流星「どうせ警察もどこかのハンターに依頼するだけだ。それだと時間がかかる」
凜「だからって、流星が行くことないよ」
流星「銃の撃ち方はじいちゃんに習ってる。もしかしたら、おじさんの助けになるかもしれない」
凜「でも……」
流星「凜。お前は家で待ってろ」
凜「……」
流星「大丈夫だ。絶対におじさんを見つけて帰って来るから」
凜「うん……。信じてるからね」
場面転換。
山の中を歩く流星。
流星(N)「俺の狩猟の腕は、おじさんの足元にも及ばない。でも、この山の中に関しては、俺は村の誰よりも詳しい。その知識があれば、きっとおじさんの役に立てるはずだ」
ガサガサと歩く流星。
そのとき、銃声が鳴り響き、熊の咆哮が聞こえる。
流星「銃声!?」
流星が音のした方へと歩いていく。
場面転換。
達人「はあ、はあ、はあ……」
そこに流星が走ってくる。
流星「おじさん!」
達人「……ん? 流星か」
流星「うわ、デカい熊。おじさんが撃ったの?」
達人「ああ。かなり手ごわかったな」
流星「危なかったなら、狩るのを止めればよかったのに」
達人「そんなわけにはいかん。危険になりそうな動物は狩っておく。それもマタギの仕事だ」
流星「……まだ何もしてないのに?」
達人「被害が出てからじゃ遅いだろ。……それより、なんで流星がここにいるんだ?」
流星「凜が心配してたよ」
達人「……あ! そうか。夢中になって、時間を忘れてたな」
流星「……はあ。ほら、早く帰るよ。俺も一緒に凜の機嫌、取ってあげるから」
達人「ああ、いつもすまんな」
達人と流星が歩き出す。
すると後ろで子熊の鳴き声が聞こえる。
流星「ん?」
流星(N)「振り向くと、撃たれて死んでいる熊の近くに子熊がいた。額に爪痕のような形に白い毛が生えた子熊だった」
達人「どうした?」
流星「ううん。なんでもない」
流星が再び歩き出す。
場面転換。
流星と凜が歩ている。
凜「ホント、お父さんは困ったもんだよ」
流星「ははは。おじさん、夢中になると見境なくなるから」
凜「心配するこっちの身にもなってよね」
流星「……」
凜「どうしたの?」
流星「あー、いや、凜は先に帰っててくれ。山菜取っていく」
凜「……また、唐突ね。暗くならないうちに切り上げなよ」
流星「ああ」
流星が山に入って行く。
場面転換。
流星が山の中を歩いていく。そして立ち止まる。
流星「……いた」
流星(N)「昨日、見た子熊はいまだに母熊の元で鳴き続けていた」
流星「……お母さんはもう、死んだんだよ」
子熊が泣き続けている。
流星「……なあ、腹減ってねーか?」
ガサガサとポケットを漁る。
流星「お菓子しかないけど……」
子熊の前に置くと、子熊が食べる。
流星「はは。美味しいか?」
流星(N)「ほんの気まぐれだったと思う。俺には両親がいなく、唯一の肉親であるじいちゃんが死んだとき、俺は天涯孤独になった。だから、この子熊と自分を重ねたのかもしれない」
場面転換。
10年後。山の中を歩く流星。
流星「クロウ、いるか?」
すると草むらから熊が出てくる。
流星「おやつ、持ってきたぞ」
熊がすり寄ってくる。お菓子をあげる流星。
流星「はは。ホント、クロウはお菓子が好きだな。子供みたいだ」
流星(N)「俺があの子熊におやつを上げるようになって10年が経つ。あんなに小さかったクロウもすっかりと大きくなった」
熊がすり寄ってくる。
流星「ホント、いつまで経っても、甘えん坊だな、クロウは」
場面転換。
職場から出てくる流星。
流星「それじゃ、お疲れさまでした」
歩き出す流星のところに凜が走ってくる。
凜「流星!」
流星「凜? どうしたんだ?」
凜「よかった。今日は山に入ってなかったわね」
流星「……どういうことだ?」
凜「今日、山に山菜取りに行ってた、山下さんと皆川さんが熊に襲われて亡くなったの」
流星「……え? 熊に?」
凜「今、お父さんたちが熊を狩りに山に入ってるの。だから、お父さんたちが帰って来るまで山に入っちゃダメだからね」
流星「……わかった」
流星(N)「そのとき、すごく嫌な予感がした。……そして、その予感は最悪な形で当たってしまったのだった」
場面転換。
葬儀場。
凜「う、うう……。お父さん、お父さん!」
流星「……凜」
村人1「まさか、達人さんがねぇ」
村人2「おい、代わりのハンターはどうなってるんだ?」
村人1「これでもう5人もやられてるんだ。すぐに来るわけないさ」
村人3「知ってるか? あの熊、すげーデカくて、眉間に変な、爪痕みたいな白い毛が生えてるんだってよ」
流星「……っ!?」
場面転換。
銃に弾を装弾する音。
流星「……クロウ。いや、違うよな」
流星が山の中へ入って行く。
場面転換。
山の中をあるく流星。
流星「クロウ! いるか! クロウ!」
すると森の奥からガサガサと音がする。
流星「クロウ! ……クロウ?」
流星(N)「クロウは人間の腕を咥えていた。そして、俺の目の前でボリボリと食べている」
流星「お、おい……なにやってんだよ?」
熊の咆哮。
流星「うわっ!」
クロウが腕を振るい木をへし折る。
流星「おい、止めろ! クロウ!」
吠えながら暴れているクロウ。
流星「クロウ! 俺だ! わからないのか!?」
聞く耳を持たず、暴れ続けるクロウ。
流星「クロウ! お前、そんなやつじゃないだろ? 正気に戻れ!」
クロウの爪が流星の腕をかすめる。
流星「うわああああ!」
クロウが吠える。
流星「……なんでだよ? 俺はお前をずっと弟のように思ってたんだぞ?」
クロウが流星に噛みつく。
流星「うわああああああああああああ!」
流星(N)「どうして? どうしてだよ?」
回想。
祖父「いいか、流星。獣は人間じゃない。そこは絶対に忘れるなよ」
流星(N)「そうか……。じいちゃんが言ってたのはそういうことだったのか」
クロウが吠える。
流星(N)「愛情を持ってたのは俺だけだったんだな? お前にとって、俺は好物を持ってくるただの動物だったんだ」
クロウが噛みつくことで、肉が裂け、骨がバキバキと折れる。
流星「ぐああああああ!」
クロウが吠える。
流星「……おじさん、凜、ごめん。俺が馬鹿なことをしたばっかりに……」
流星が銃を構える音。
流星「さよなら、クロウ」
ドンという銃声が響く。
クロウの断末魔の咆哮と倒れる音。
流星「……じいちゃん。マタギになるなって意味、今頃わかったよ」
流星がクロウの死体のそばに倒れる。
終わり。