金銭感覚
- 2023.07.24
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
一成(いっせい) 高校2年生
綾斗(あやと) 高校2年生
女子1~2 高校2年生
男子 高校2年生
店員
店主
■台本
教室内。
一成の周りを多くの人が取り囲んでいる。
女子1「すごーい! 一成君、この時計いくらしたの?」
一成「ん? えーっと、15万だったかな」
女子2「うわー! 高校生で、そんな時計買えちゃうんだ?」
女子1「私だったら、諦めちゃうな」
一成「ふん。俺を貴様らみたいな庶民と一緒にするな。欲しいものは絶対に手に入れる。これが、我が家の家訓だ」
女子たちの黄色い歓声が飛び交う。
綾斗「……けっ。金持ちのボンボンが」
男子1「はあ……。イケメンで金持ちなんて、俺ら一般人はどうあがいても勝てるわけねーよな」
綾斗「どうせ、俺らとは住む世界が違うんだ。無視しとけばいいんだよ。無視しとけば」
男子1「んなこと言って、もし、一成になにか奢ってやるって言われたら、尻尾振るんだろ?」
綾斗「はあ!? バカにすんなよ。誰があんなやつに奢ってもらうかよ。速攻で断るね」
場面転換。
電気屋でウロウロとしている綾斗。
綾斗「うわっ! 新作が出てる。マジかー」
財布を開ける綾斗。
綾斗「……いや、買えるわけねーよな」
そこに一成がやってくる。
一成「ん? ……貴様は?」
綾斗「げっ! 一成」
一成「ふむ。やはり、綾斗か。こんなところで何をやっているんだ?」
綾斗「別に。お前には関係ないだろ」
一成「さっき、そこのイヤホンを手に取ってたみたいだが、買わんのか?」
綾斗「だーかーら、お前には関係ねーだろ」
一成「欲しいんじゃないのか?」
綾斗「うっせーな! 欲しいよ! 欲しいに決まってんだろ!」
一成「なら、なぜ買わん?」
綾斗「てめえと違うんだよ。……金ねーんだからしゃーねーだろ」
一成「その程度の物を買うのにか?」
綾斗「くそ! だから、金持ちは嫌いなんだよ! 俺にとっては高いんだよ」
一成「……そうか。どうやら、庶民との金銭感覚は、俺とは違うみたいだな」
綾斗「……ホント、嫌みな奴だ」
一成「ちなみに、綾斗。お前、いくら持っているんだ?」
綾斗「あん? 3000だけど」
一成「ふむ……。俺が何とかしやろう」
綾斗「え? もしかして、買ってくれたりするのか?」
一成「クラスメイトが困っているのに見過ごせんだろ」
綾斗「おお! さすが一成様! 太っ腹!」
一成「ちょっと、待ってろ」
一成が歩き出し、店員に声をかける。
一成「ちょっといいか?」
店員「はい、なんでしょう?」
それを遠くから見ている綾斗。
綾斗「一成のやつ、なかなかいいところあるな。毛嫌いしてたのがバカみたいだ」
一成が店員を連れて、やってくる。
一成「これだ」
店員「ああ、はい。12000円のサニー製の新作イヤホンですね。お買い上げですか?」
一成「高い」
店員・綾斗「へ?」
一成「聞こえなかったか? こんな値段では話ならんと言っている」
店員「そう言われましても……。この値段でお売りさせていただいているので……」
一成「本当にか?」
店員「え?」
一成「こういうものは値引きできるはずだ」
店員「いや、ですが……」
一成「もういい。他の店で買う」
店員「ちょっとお待ちください。では……これで、どうでしょうか?」
電卓をパチパチと打つ。
一成「ふっ。バカにされたものだな」
店員「……じゃあ、こちらでどうです?」
一成「俺は帝王グループ会長の息子だ」
店員「え?」
一成「もし、俺に気に入れれれば、大口の注文が入る。……そうは考えられないか?」
店員「えっと、少々お待ちください。店長をお呼びします」
一成「急いでいるんだ。すぐに頼む。
店員「ただいま!」
綾斗「……」
場面転換。
一成がやって来る。
一成「待たせたな。税込みで3000円になったぞ」
綾斗「ええ……」
一成「どうした?」
綾斗「いや、てっきり、サクッとそのままの値段で買うと思ってた」
一成「言っただろ。俺は庶民と金銭感覚が違うと。これは12000円の価値がないと思っただけだ。それに、お前は3000円しか持ってないんだろ? だから、力になれるだけ、力になっただけだ」
綾斗「なんつーか、凄いな。金持ちって、値段も見ないでガンガン買うものだと思ってた」
一成「それはただの成金だ。本当の金持ちはいいものをより安く買う。小さい頃から、その感覚を養われて育ってきたんだ」
綾斗「えっと、じゃあ、今日の教室内でみんなに見せてた時計は……?」
一成「定価は30万の時計だ」
綾斗「……3分の1にしたのかよ」
一成「貯めていた金がもうなくなりかけてたからな。それに我が家のモットーは欲しい物を必ず手に入れること、だ。だから、交渉はかなり難儀だったが、手に入れることができたよ」
綾斗「なあ、俺にもやり方を教えてくれよ。それなら、なんでも3分の1の値段で買えるってことだろ?」
一成「わかってないな。なんでもかんでも値下げ交渉をするわけではない。本当に欲しい物、店の妥協ライン、自分が今持っている手札を総合的に見て、値段を頭の中で算出するんだ。一瞬でな」
綾斗「……確かに簡単そうじゃないな」
一成「まあ、これも小さい頃からの勉強のたまものだな」
綾斗「すげえな……」
場面転換。
商店街を歩く、綾斗と一成。
綾斗「今日は、ホント、サンキューな。おかげで新しいイヤホン、ゲットできたよ」
一成「気にするな」
綾斗「あ、そうだ。お礼に、ここのコロッケ、奢ってやるよ」
一成「……コロッケ?」
綾斗「歩きながら食べれるんだよ。おっちゃん、コロッケ2つね」
店主「あいよ!」
コロッケを受け取り、1個を一成に渡す。
綾斗「じゃあ、食おうぜ」
一成「うむ……」
二人とも一口食べる。
綾斗「いやー、やっぱ、ここのコロッケは美味いなー」
一成「こ、これは!?」
綾斗「どうした?」
一成が店主の元へ行く。
一成「店主よ!」
店主「なんだい?」
一成「物凄い美味いコロッケだ」
店主「お、おう。あ、ありがとよ」
一成「一万円だ! 受け取れ」
店主「へ? いや、100円で売ってるもんだから、それは受け取れないよ」
一成「いや、このコロッケには一万円の価値がある。受け取れ」
店主「いや、けど……」
一成「受け取るまで俺は帰らないからな」
綾斗「……やっぱ、金持ちの金銭感覚、わかんねーな」
終わり。