風邪薬

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
綾人(あやと)
柚月羽(ゆづは)
母親

■台本

綾人(8)が熱にうなされている。

綾人「はあ、はあ、はあ……」

ガラガラとドアが開く音。

母親が入って来る。

母親「綾人……大丈夫?」

綾人「う、うん……」

母親「ごめんね……」

綾人「ううん。大丈夫だよ、お母さん」

母親「綾人。お母さんね、お薬作ったんだ。ちょっと飲んでみてくれない?」

綾人「うん」

場面転換。

大学の教室内。

柚月羽(ゆづは)が声をかけてくる。

柚月羽「綾人。今日の夜、飲み会あるんだけど行かない?」

綾人「ごめん。今日はバイト」

柚月羽「えー。今日も? ホント、綾人って講義とバイトの繰り返しの毎日だよね」

綾人「あはは……」

柚月羽「じゃあさ、今度の連休は? やっぱり、バイト?」

綾人「いや、その日は実家に帰るつもり」

柚月羽「……そっか」

綾人「ごめんな。また誘って」

柚月羽「誘っても、来ることないじゃん」

綾人「……ごめん」

場面転換。

ガチャリとドアが開く音。

綾人「ただいまー」

綾人が家に入り、リビングのドアを開ける。

綾人「母さん、ただいま」

母親「あら、綾人。お帰りなさい」

綾人「母さん、また痩せたんじゃない? ちゃんと食べてる?」

母親「大丈夫よ。今、ダイエットしてるの」

綾人「……いつもガリガリじゃん」

母親「今日は何食べたい? 好きな物作るよ」

綾人「あるものでいいよ」

母親「うーん。……って言っても、何もないからなぁ。買い物付き合ってくれる?」

綾人「別にいいけど……。母さん、顔、赤くない?」

母親「え? そう?」

綾人が近づき、額に手を当てる。

綾人「やっぱり、熱ある。風邪じゃない?」

母親「ううん。大丈夫よ」

綾人「……そういって、いつも無理するんだから。ご飯支度は俺がするから、寝ててよ」

母親「大丈夫なのに……」

場面転換。

母親が寝ている。

母親「はあ、はあ、はあ……」

綾人「母さん、やっぱり、病院行こうよ」

母親「ううん。これくらい大丈夫」

綾人「大丈夫って、40度もあるんだよ?」

母親「その体温計、壊れてるのよ」

綾人「だとしても、熱あるんだから、行こうってば」

母親「……ねえ、綾人。覚えてる? あんたが、こうやって熱出した時のこと?」

綾人「え? あ、うん。まあ……」

母親「あのとき、うちにはお金が無くて……。まあ、今もだけど。それで、私は綾人を病院に連れて行けなかった」

綾人「別にいいよ。そんな昔のこと」

母親「だから、こんな程度で私が病院になんか行けないよ」

綾人「気にしてなんか、ないのに……」

母親「とにかく、行かないから。それに2、3日寝てたら治るから大丈夫」

綾人「……」

場面転換。

母親の寝室から出てくる綾人。

綾人「はあ……。言いだしたら、頑固だからな、母さんは。昔のことなんか気にしてないのに……。って、あ、そうだ」

場面転換。

インターフォンの音と、ドアが開く音。

綾人「はい……」

柚月羽「やっほー。来たよ」

綾人「あっ……」

柚月羽「講義を休むなんて珍しいね。なんかあったの……って、なに、その恰好?」

綾人「あー、いや、ちょっと山に行こうと思ってさ」

柚月羽「山?」

場面転換。

山道を歩く音。

綾人「……手伝ってもらって、ごめんね」

柚月羽「別にいいけど、なんで、野草?」

綾人「昔、俺が酷い風邪を引いたとき、母さんが薬を作ってくれたんだ。その薬が凄く効いてさ。風邪なんてすぐ治っちゃったんだ」

柚月羽「へー。それで、その薬を、今度は綾人が作ろうと」

綾人「うん」

柚月羽「どんな野草かわかってるの?」

綾人「家でメモを見つけたんだ」

柚月羽「オッケー。じゃあ、手分けして探そう」

綾人「ありがとう。今度、なんか奢るよ」

柚月羽「ううん。別にいいよ」

綾人「いや、それじゃ悪いし」

柚月羽「なら、綾人のお母さんに会わせてよ」

綾人「へ? なんで?」

場面転換。

ゴリゴリと野草を煎じている綾人たち。

柚月羽「あのさ、綾人」

綾人「ん?」

柚月羽「これ、ネットで調べたけど、風邪に効くなんて効果なさそうだけど」

綾人「え? そうなの?」

柚月羽「ホントに、これで合ってる?」

綾人「合ってるはずだけど……」

柚月羽「ふーん……」

場面転換。

母親が寝ている。

母親「はあ、はあ、はあ……」

ガラガラとドアが開く音。

綾人「母さん、具合どう?」

母親「大丈夫……」

綾人「全然、大丈夫じゃなさそうなんだけど。やっぱり、病院……」

母親「行かなくて大丈夫だから」

綾人「はあ……。そういうと思った。じゃあさ、薬だけでも飲んでくれない?」

母親「飲んでるわよ。市販の」

綾人「そうじゃなくて、これ」

綾人が作った薬を出す。

母親「あ、これって……」

綾人「そう。昔、母さんが作ってくれた薬だよ」

母親「……作ってくれたんだ。ありがとう」

綾人「飲める?」

母親「うん」

母親が薬を飲む。

母親「うっ、苦い」

綾人「でしょ? すごい苦かったんだ」

母親「でも、効くのよね、これ」

綾人「うん。あのときも、一発で治ったからね」

場面転換。

インターフォンの音の後、ドアが開く音。

綾人「母さん、来たよ」

母親が歩いてくる。

母親「あら、いらっしゃい。……そこは?」

柚月羽「こんにちは」

綾人「大学の友達」

母親「そう。上がってちょうだい」

場面転換。

母親がお茶とお菓子を持ってくる。

母親「はい、どうぞ」

柚月羽「あ、お構いなく」

綾人「風邪、すっかり良くなったみたいだね」

母親「おかげさまで」

綾人「あ、そうだ。俺の部屋にあった本って残ってる? 持って帰りたいんだけど」

母親「そのままにしてるわよ」

綾人「ありがと」

綾人がリビングを出て行く。

柚月羽「あの薬、効き目抜群だったんですね」

母親「え?」

柚月羽「あの野草を集めるの、鉄だったんですよ」

母親「あら、そうなの? ありがとう」

柚月羽「あれって、家に代々伝わる薬だったりするんですか?」

母親「ふふ。……あの子には内緒にしてくれる?」

柚月羽「は、はあ……」

母親「あれ、実は適当に作っただけなのよ」

柚月羽「へ? でも、その薬で綾人は風邪が治ったって……」

母親「ふふ。思い込みの力ってすごいわよね」

柚月羽「プラシーボ効果ってやつですか。……あれ? でも」

母親「なに?」

柚月羽「それなら、お母さんの風邪はどうして治ったんですか?」

母親「……あの子が私のために必死に作ってくれた薬だもの。嬉しくって、風邪なんて吹き飛んじゃうわよ」

柚月羽「ああー。なるほど……」

ガチャリとドアが開き、綾人が戻って来る。

綾人「あったあった。……ん? どうしたの、二人とも。ニヤニヤして」

柚月羽「なんでない」

母親「ふふ。なんでもないわ」

綾人「……いや、絶対うそでしょ」

母親「二人だの秘密。ね?」

柚月羽「はい」

綾人「……?」

終わり。

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