風邪薬
- 2024.01.15
- ボイスドラマ(10分) 退避

■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
綾人(あやと)
柚月羽(ゆづは)
母親
■台本
綾人(8)が熱にうなされている。
綾人「はあ、はあ、はあ……」
ガラガラとドアが開く音。
母親が入って来る。
母親「綾人……大丈夫?」
綾人「う、うん……」
母親「ごめんね……」
綾人「ううん。大丈夫だよ、お母さん」
母親「綾人。お母さんね、お薬作ったんだ。ちょっと飲んでみてくれない?」
綾人「うん」
場面転換。
大学の教室内。
柚月羽(ゆづは)が声をかけてくる。
柚月羽「綾人。今日の夜、飲み会あるんだけど行かない?」
綾人「ごめん。今日はバイト」
柚月羽「えー。今日も? ホント、綾人って講義とバイトの繰り返しの毎日だよね」
綾人「あはは……」
柚月羽「じゃあさ、今度の連休は? やっぱり、バイト?」
綾人「いや、その日は実家に帰るつもり」
柚月羽「……そっか」
綾人「ごめんな。また誘って」
柚月羽「誘っても、来ることないじゃん」
綾人「……ごめん」
場面転換。
ガチャリとドアが開く音。
綾人「ただいまー」
綾人が家に入り、リビングのドアを開ける。
綾人「母さん、ただいま」
母親「あら、綾人。お帰りなさい」
綾人「母さん、また痩せたんじゃない? ちゃんと食べてる?」
母親「大丈夫よ。今、ダイエットしてるの」
綾人「……いつもガリガリじゃん」
母親「今日は何食べたい? 好きな物作るよ」
綾人「あるものでいいよ」
母親「うーん。……って言っても、何もないからなぁ。買い物付き合ってくれる?」
綾人「別にいいけど……。母さん、顔、赤くない?」
母親「え? そう?」
綾人が近づき、額に手を当てる。
綾人「やっぱり、熱ある。風邪じゃない?」
母親「ううん。大丈夫よ」
綾人「……そういって、いつも無理するんだから。ご飯支度は俺がするから、寝ててよ」
母親「大丈夫なのに……」
場面転換。
母親が寝ている。
母親「はあ、はあ、はあ……」
綾人「母さん、やっぱり、病院行こうよ」
母親「ううん。これくらい大丈夫」
綾人「大丈夫って、40度もあるんだよ?」
母親「その体温計、壊れてるのよ」
綾人「だとしても、熱あるんだから、行こうってば」
母親「……ねえ、綾人。覚えてる? あんたが、こうやって熱出した時のこと?」
綾人「え? あ、うん。まあ……」
母親「あのとき、うちにはお金が無くて……。まあ、今もだけど。それで、私は綾人を病院に連れて行けなかった」
綾人「別にいいよ。そんな昔のこと」
母親「だから、こんな程度で私が病院になんか行けないよ」
綾人「気にしてなんか、ないのに……」
母親「とにかく、行かないから。それに2、3日寝てたら治るから大丈夫」
綾人「……」
場面転換。
母親の寝室から出てくる綾人。
綾人「はあ……。言いだしたら、頑固だからな、母さんは。昔のことなんか気にしてないのに……。って、あ、そうだ」
場面転換。
インターフォンの音と、ドアが開く音。
綾人「はい……」
柚月羽「やっほー。来たよ」
綾人「あっ……」
柚月羽「講義を休むなんて珍しいね。なんかあったの……って、なに、その恰好?」
綾人「あー、いや、ちょっと山に行こうと思ってさ」
柚月羽「山?」
場面転換。
山道を歩く音。
綾人「……手伝ってもらって、ごめんね」
柚月羽「別にいいけど、なんで、野草?」
綾人「昔、俺が酷い風邪を引いたとき、母さんが薬を作ってくれたんだ。その薬が凄く効いてさ。風邪なんてすぐ治っちゃったんだ」
柚月羽「へー。それで、その薬を、今度は綾人が作ろうと」
綾人「うん」
柚月羽「どんな野草かわかってるの?」
綾人「家でメモを見つけたんだ」
柚月羽「オッケー。じゃあ、手分けして探そう」
綾人「ありがとう。今度、なんか奢るよ」
柚月羽「ううん。別にいいよ」
綾人「いや、それじゃ悪いし」
柚月羽「なら、綾人のお母さんに会わせてよ」
綾人「へ? なんで?」
場面転換。
ゴリゴリと野草を煎じている綾人たち。
柚月羽「あのさ、綾人」
綾人「ん?」
柚月羽「これ、ネットで調べたけど、風邪に効くなんて効果なさそうだけど」
綾人「え? そうなの?」
柚月羽「ホントに、これで合ってる?」
綾人「合ってるはずだけど……」
柚月羽「ふーん……」
場面転換。
母親が寝ている。
母親「はあ、はあ、はあ……」
ガラガラとドアが開く音。
綾人「母さん、具合どう?」
母親「大丈夫……」
綾人「全然、大丈夫じゃなさそうなんだけど。やっぱり、病院……」
母親「行かなくて大丈夫だから」
綾人「はあ……。そういうと思った。じゃあさ、薬だけでも飲んでくれない?」
母親「飲んでるわよ。市販の」
綾人「そうじゃなくて、これ」
綾人が作った薬を出す。
母親「あ、これって……」
綾人「そう。昔、母さんが作ってくれた薬だよ」
母親「……作ってくれたんだ。ありがとう」
綾人「飲める?」
母親「うん」
母親が薬を飲む。
母親「うっ、苦い」
綾人「でしょ? すごい苦かったんだ」
母親「でも、効くのよね、これ」
綾人「うん。あのときも、一発で治ったからね」
場面転換。
インターフォンの音の後、ドアが開く音。
綾人「母さん、来たよ」
母親が歩いてくる。
母親「あら、いらっしゃい。……そこは?」
柚月羽「こんにちは」
綾人「大学の友達」
母親「そう。上がってちょうだい」
場面転換。
母親がお茶とお菓子を持ってくる。
母親「はい、どうぞ」
柚月羽「あ、お構いなく」
綾人「風邪、すっかり良くなったみたいだね」
母親「おかげさまで」
綾人「あ、そうだ。俺の部屋にあった本って残ってる? 持って帰りたいんだけど」
母親「そのままにしてるわよ」
綾人「ありがと」
綾人がリビングを出て行く。
柚月羽「あの薬、効き目抜群だったんですね」
母親「え?」
柚月羽「あの野草を集めるの、鉄だったんですよ」
母親「あら、そうなの? ありがとう」
柚月羽「あれって、家に代々伝わる薬だったりするんですか?」
母親「ふふ。……あの子には内緒にしてくれる?」
柚月羽「は、はあ……」
母親「あれ、実は適当に作っただけなのよ」
柚月羽「へ? でも、その薬で綾人は風邪が治ったって……」
母親「ふふ。思い込みの力ってすごいわよね」
柚月羽「プラシーボ効果ってやつですか。……あれ? でも」
母親「なに?」
柚月羽「それなら、お母さんの風邪はどうして治ったんですか?」
母親「……あの子が私のために必死に作ってくれた薬だもの。嬉しくって、風邪なんて吹き飛んじゃうわよ」
柚月羽「ああー。なるほど……」
ガチャリとドアが開き、綾人が戻って来る。
綾人「あったあった。……ん? どうしたの、二人とも。ニヤニヤして」
柚月羽「なんでない」
母親「ふふ。なんでもないわ」
綾人「……いや、絶対うそでしょ」
母親「二人だの秘密。ね?」
柚月羽「はい」
綾人「……?」
終わり。
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