古い感性

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ドラマ、舞台、現代、シリアス

■キャスト
彰(あきら)
女の人
母親
隆司(たかし)
面接官
先輩
後輩
社員

■台本

彰が5歳の頃。

女の人「へー。彰くんがそれ描いたの?」

彰「うん!」

女の人「すごいね。彰くんは、絵がうまいから、将来は画家か、デザイナーかな」

彰「えへへ」

彰が17歳の頃。

彰(N)「俺は昔からデザインをするのが好きだった。俺がデザインしたもので、みんなが喜んでくれる。それが凄く嬉しかった」

彰の部屋。

彰がハサミで布を切っている音。

部屋の外から、母親の声がする。

母親の声「彰―。隆司君が遊びに来たわよー」

彰「んー。あげてー」

母親の声「ったく。ごめんね、勝手に上がって」

隆司「はい、おじゃましーます」

隆司が歩いてくる音。

ガチャリとドアが開く。

隆司「おーっす。遊びに来たぞ」

彰「おう……」

隆司「……なにやってんだ?」

彰「Tシャツを作ってる」

隆司「へー」

作業を続けている彰。

隆司「買えばいいじゃん」

彰「いや、単にTシャツ作ってるんじゃなくて、デザインTシャツを作ってるんだよ」

隆司「ふーん」

彰「見ろよ、これ! いいデザインだろ?」

隆司「うーん……」

彰「なんだよ?」

隆司「なんか、古臭い感じだな」

彰「……え?」

隆司「なんか、ダサいぞ」

彰「……」

隆司「お前さー。自分でデザインするんじゃなくて、売ってるの買えよ。お前の私服、ダサいって、学校でも有名だぞ」

彰「そ、そうなのか……?」

隆司「ああ……」

彰(N)「……いつからだっただろうか。俺がデザインすると、喜ばれなくなった。……そして、今では喜ばれるどころか、迷惑そうにされるようになった」

5年後。

面接をしている彰。

彰「デザインが好きなんです! よろしくお願いいたします!」

面接官「うーん。正直、君がデザインしたものは、いまいちだね」

彰「……そ、そうですか」

面接官「そこでどうかな? まずは見習いでうちで勉強してみない?」

彰「は、はい! よろしくお願いいたします!」

彰(N)「就職は難航していた。30社受けて、全部落ちた。周りからはデザイン系の会社は諦めた方がいいと言われていた頃だった。だから、たとえ、見習いで給料が安くても嬉しかったんだ」

5年後。

机に座り、デザインを描いている彰。

彰「……よし、できた。明日、これで提案してみよう」

ドアの向こうから話し声が聞こえてくる。

後輩の声「高山先輩、昨日出したデザイン、見てもらえました?」

先輩の声「ああ。主任も気に入ったみたいで、次のプロジェクトで使うって話だぞ」

後輩の声「っしゃー!」

先輩の声「俺もだけど、主任はお前に期待しているぞ。センスが良いってさ」

後輩の声「ははは。昔から、センスはいいって言われてんですよね」

先輩の声「おいおい、調子に乗るなよ」

後輩の声「そういえば、アッキー先輩って、大丈夫なんですか? 入社して5年間、まだ一回もデザイン採用されてないんですよね?」

先輩の声「あー、いや、あいつは見習いだから」

後輩の声「いやいや、5年でまだ見習いって……」

先輩「しょうがねーよ。あいつ、センス古いから」

後輩の声「……なんで、デザインの仕事、続けてるんですかね? 辛いだけなのに」

先輩の声「さあな」

後輩の声「それより、高山先輩、飲みに行きませんか? 先輩の奢りで」

先輩の声「はいはい。ったく、しかたねーな」

二人の足音が遠くなっていく。

彰「……っ。う、うう……」

泣き出しそうなのを必死でこらえている彰。

場面転換。

彰「……え? く、クビですか?」

主任「クビじゃないさ。異動だよ、異動」

彰「でも、デザインはできない部署ですよね?」

主任「まあな」

彰「それじゃ、意味ありません」

主任「なら、辞めろ」

彰「え?」

主任「お前、センスないよ。これ以上、この業界にいても、辛くなるだけだぞ」

彰「……」

彰(N)「10年近く続けていたデザイン部を追い出されてしまった。でも、辞めないでいれば、また、デザインの仕事を任されるかもしれない。俺はその可能性を信じて、会社に残る今年にした」

場面転換。

10年後。

社員「主任、先方との打ち合わせ終わりました」

彰「どうだった?」

社員「主任からいただいた資料でプレゼンして、上手くいきました」

彰「そっか。よかったな」

社員「主任のおかげですね」

彰「いや、君の手柄だよ」

社員「……」

彰「どうした?」

社員「なんで、主任は主任のままなんですかね?」

彰「どういうことだ?」

社員「主任はこっちの部署に来て、今まで凄い業績をあげてきました。もう、とっくに専務にくらいになってもよくないですか?」

彰「はははは。元々、俺は左遷されてきたからね。あんまり、出世させたくないのさ」

社員「なんですか、それ。納得できません」

彰「けど、ま、俺はこの部署がいいんだ。制作じゃないけど、デザインに関われるからね」

社員「主任って、前はデザイン部だったんでしたっけ?」

彰「ああ。5年間、ずっと見習いだったけどね」

社員「ええ!?」

彰「それくらい、俺のデザインはダサかったんだよ」

社員「……そうだったんですか」

彰「けど、まあ、今でも諦めきれずに、家でデザインをし続けてるんだけどね」

社員「それ、提案してみたらどうですか?」

彰「そんなことしたら、デザイン部から、苦情が山のように来るよ」

社員「そうですかね?」

彰「そうだよ……」

場面転換。

ドアが開き、社員が入って来る。

社員「主任、大変です」

彰「どうした?」

社員「デザイン部がしくじりました」

彰「どういうことだ?」

社員「発注しておいたデザインが漏れてたらしく、デザインが出来上がってませんでした」

彰「……納期は? どのくらい伸ばせる?」

社員「伸ばせるも何も、明日、イベントですよ?」

彰「……そのことは先方には?」

社員「まだ、話してません」

彰「……今から、謝罪に行くぞ」

社員「それより、主任のデザインを出しませんか?」

彰「え? いや、無理だろ」

社員「今からデザインする方が無理ですよ」

彰「けど……」

社員「発注漏れよりも、クォリティが低い方がまだマシですよ」

彰「クォリティが低いって……」

社員「あ、すみません!」

彰「まあ、いい。確かに、言う通り、そっち方面で怒られた方がよさそうだ」

社員「じゃあ、主任のデザインを持って行ってきますね」

彰「俺も、行くよ」

社員「いえ、俺だけで行きます。自分のデザインの酷評を聞くのは辛いでしょうから」

彰「……」

社員「あ、すみません」

彰「まあ、いい。じゃあ、任せた」

社員「行ってきます」

場面転換。

社員「主任、忘れ物ないですか?」

彰「お世話になったな」

社員「いえ。お世話になったのは俺の方です」

彰「……10年か。長かったような、短かったような」

ガチャリとドアが開く。

社員2「あ、ここにいたんですね。今、新たな会社の営業が来てます」

彰「え? また?」

社員「さすが主任。あ、いや、今はもうデザイン部部長でしたね」

彰「はははは。なんだかなぁ」

社員「まさか、大ヒットするとは思いませんでしたね」

彰「俺もびっくりだ。なんでだろうな」

社員「あ、よく、流行は繰り返すって言うじゃないですか。きっと主任の古い感性が、回り回って追いついたんですよ、きっと」

彰「それ、誉め言葉になってないぞ」

社員「ははは。さ、行ってください」

彰「お、そうだな。じゃあ、頼んだぞ」

彰(N)「古いって言われ続けて、30年。それでも続けていてよかったと思う」

終わり。

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