才能と諦めのタイミング
- 2024.03.19
- 映像系(10分~30分) 退避

■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ドラマ、漫画、現代、シリアス
■キャスト
氷空(そら)
一美(かずみ)
良平(りょうへい)
男の子
クラスメイト1~3
浩介(こうすけ)
■台本
〇道場
大勢の小学生たちが空手の練習をしている。
その中で氷空(そら)(8)が空手の組み手をしている。
相手も氷空と同年代。
そして、その様子を見ている良平(32)と一美(27)。
氷空が相手に正拳突きをする。
氷空「やあ!」
しかし相手に捌かれ、逆に正拳突きをされる。
男の子「はっ!」
男の子の正拳突きが氷空の胸に当たり、思わず崩れ落ち、片膝をついています。
氷空「うう……」
良平「氷空! 立てるか?」
氷空「う、うう……」
氷空が立とうとするが、立てない。
良平「もういい、下がって休め」
氷空「……」
氷空が俯いて立ち上がり、壁際の方へ歩いていく。
そんな様子を悲しそうな目で見ている一美。
そして、良平の方を見る。
一美「あの、師範代。ちょっと、その……厳しすぎるんじゃないんですか?」
良平「あのですね、先生。氷空の相手だって同じ8歳なんですよ」
一美「で、でも……」
良平「……」
一美「私は氷空くんに、少しでも自分に自信を持ってもらいたくて、空手を勧めたんです」
良平「先生。あなたの言いたいことはわかります。確かに練習すれば、誰だって強くはなれます。ですがね、先生。空手の世界ではみんな練習してる。……このままじゃ、氷空には、逆に自信を喪失してしまうんじゃないんですかね」
一美「……」
壁際に座って、落ち込んでいる氷空。
〇小学校・校門前
多くの生徒たちが下校している。
その中で氷空が一人で歩いている。
氷空「……」
すると後ろからクラスメイト数人が走って来る。
そして、クラスメイト1が後ろから、氷空のランドセルに向かって、蹴りを放つ。
クラスメイト1「おらあ!」
氷空「うわっ!」
氷空が派手に転ぶ。
他のクラスメイト達が笑う。
クラスメイト1「おい、どうした、氷空? 得意の空手で反撃してみろよ」
氷空「うう……」
立ち上がり、正拳突きをする氷空。
しかし、簡単に避けられてしまう。
クラスメイト1「おらおらおら」
逆に殴られる氷空。
クラスメイト2「ぎゃははは。弱ぇ!」
氷空「うわーー!」
やけくそで拳を振り回すが当たらない。
そして後ろからクラスメイト2に蹴られて、前のめりに倒れる。
そこに一美が走って来る。
一美「ちょっと! なにやってるの!」
クラスメイト1「遊んでただけだよ」
一美「嘘言いなさい!」
クラスメイト2「ホントだって。氷空だってやり返してたんだから」
一美「……でも、大勢で一人を囲むなんて卑怯じゃない」
クラスメイト1「だって、こいつ空手習ってんるんだろ? それなら、2体1でちょうどいいんじゃないの?」
一美「……」
クラスメイト2「そうだよ。氷空は格闘技ならってんだからさ。こっちは素人なんだ」
一美「もう、口だけは達者なんだから……」
〇道場
氷空以外にはまだ誰もいない。
そんな中、氷空が泣きながら正拳突きをしている。
〇同
組み手をしている氷空。
やっぱり、組手で負けてしまう。
〇同
みんな帰った後、壁際で落ち込んでいる氷空。
そこに良平と一美が近づいていく。
良平「悔しいか、氷空?」
氷空「……僕、もう空手辞める」
一美「ちょっと、氷空くん」
氷空「やっぱり、僕なんかが続けても、ダメなんだ」
良平「前も同じこと言ってたが、今回は本当に辞めるのか?」
氷空「……」
頷く氷空。
一美「氷空くん……」
良平「わかった」
一美「え? で、でも……」
良平「その代わり、あと一ヶ月頑張ってみろ」
氷空「え?」
良平「もし、それでもダメだったら、辞める。それでどうだ?」
氷空「……」
頷く氷空。
良平「よし、じゃあ、明日から猛特訓だ。今日はもう遅い。帰ってゆっくり休め」
氷空が立ち上がり、道場から出て行く。
一美「あの、師範代。……一ヶ月の特訓で氷空くんは強くなれるんですか?」
良平「いえ、無理ですね」
一美「なら、なんであんなことを?」
良平「正直に言って、氷空には空手の才能がない」
一美「……」
良平「だったら、早めに諦めさせてやるっていうのも優しさじゃないですか?」
一美「でも……」
良平「一ヶ月、特訓してダメだったら、気持ち的にも諦めがつく。諦めの切っ掛けを作ってやる。それが、俺にできる全てです」
一美「……」
〇道場
良平と氷空が空手の特訓をしている。
それを見ている一美。
〇道場
良平と氷空が空手の猛特訓をしている。
それを見ている一美。
〇同
氷空が泣いているが、良平が叱咤する。
氷空が涙を拭いて、再び特訓を始める。
それを見ている一美。
〇同
大勢の生徒たちが並んで立っている。
良平「よし、今日は試合をやるぞ」
一同「押忍!」
良平「氷空!」
氷空「押忍!」
氷空が前に出てくる。
良平「浩介!」
浩介「押忍!」
浩介が前に出てくる。
浩介は氷空よりも二回りくらい大きい。
良平「お前たちから組手だ」
氷空「お、押忍!」
浩介「押忍!」
〇同
氷空と浩介が準備をしている。
それを見ている良平の元にやってくる一美。
一美「あの……いくらなんでも、あの子が相手なんて……」
良平「いいんですよ。あれだけ特訓した上で、大差で負けた方が諦めがつくってわけです」
一美「……」
良平「よし、やるぞ! 二人とも、出て来い」
そう言われて氷空と浩介が出てきて向かい合う。
良平「構えて、はじめ!」
良平の掛け声で氷空と浩介が構える。
浩介「やあ!」
浩介が正拳突きをする。
すると氷空がそれを捌いて、逆に正拳突きをする。
氷空「はっ!」
氷空の正拳突きが浩介の胸にヒットし、浩介が蹲る。
良平「……え?」
〇道場
大勢の生徒たちが組手をしている。
それを見ている良平と一美。
氷空「やあ!」
氷空の上段蹴りが相手に当たり、相手が蹲る。
氷空が残心の構えを取る。
氷空の表情は生き生きしている。
一美「……氷空くん、才能がないんでしったっけ?」
良平「……」
苦笑いをして、頭を掻く良平。
氷空が次の相手も、圧倒している。
終わり。