爆弾魔の矜持(ボマーのプライド)

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
ヘンリー 42歳
ミア 21歳
ダニエル 21歳
警官 43歳
アナウンサー 26歳

■台本

時計の秒針の音。

そして、カチッという音がする。

同時に爆発音。

場面転換。

遠くで爆発する音がする。

ヘンリー「よし、作戦成功」

場面転換。

ニュース番組。

ナレーター「昨日、爆破されたエクセアカンパニーは地域の政府機関と繋がりがあり、汚職との疑惑が……」

ピッとボタンを押すと同時にテレビが消える。

ミア「やりましたね、ヘンリーさん。世間は爆破された会社の方が悪いって流れですよ」

ヘンリー「爆破はあくまできっかけだよ。これで会社に監査が入れば、エクセアは終わりだろう」

ドアがガチャリと開く音。

ダニエル「ただいま、戻りました」

ヘンリー「お疲れ様、ダニエル。で、どうだった?」

ダニエル「はい。怪我人はゼロでした」

ミア「すごい! 完璧ですね!」

ヘンリー「人を傷付けず、あくまで世の中の悪を破壊する。それが、俺たちの仕事だ。忘れるなよ」

ダニエル・ミア「はい!」

場面転換。

賑わっている遊園地の中。

園内を箒で掃いている音。

ヘンリー「……」

そこにダニエルがやって来る。

ダニエル「(小声で)爆弾の設置、完了しました」

ヘンリー「うむ」

ダニエルが通り過ぎていく。

ヘンリー「……」

ダニエルとは違う方向へ歩き去っていく。

場面転換。

遊園地の入口。

ヘンリーが出てくる。

ミア「あ、ヘンリーさんお疲れ様です」

ヘンリー「ああ。ダニエルは?」

ミア「もう少しで出てくると思います」

ヘンリー「そうか……」

ミア「それで、この遊園地にはどんな悪があるんですか?」

ヘンリー「従業員を奴隷のように使っているんだ。あとは、裏で財界と繋がっていて、日夜、違法な接待が行われている」

ミア「あー、それは爆破した方がいいですね」

ヘンリー「ああ。本当は木っ端微塵にしたいところだがな。万が一のこともあるから、メリーゴーランドだけで済ませてやるさ」

ミア「さすがヘンリーさんです。それで、爆破はいつにするんですか?」

ヘンリー「朝の5時だ」

ミア「え? そんな時間なんですか?」

ヘンリー「接待をしている人間もいるかもしれんからな」

ミア「あー、そっか。それもそうですよね」

その時、ドンという爆発音がする。

ヘンリー「な、なんだ!?」

ミア「爆発です! あっちの方角から煙が……」

ヘンリー「……」

ミア「もしかして、誤爆ですかね?」

ヘンリー「いや、メリーゴーランドは逆側だ。それにあの煙からして、うちの爆弾じゃない」

ミア「え? それじゃ……」

ヘンリー「……」

ヘンリーが無線を入れる。

ヘンリー「ダニエルか? こっちには戻らずに、至急、調べて欲しいことがある」

場面転換。

慌ただしい遊園地内。

警備員「慌てないでください! 列になって、順番に進んでください!」

客たちが大騒ぎしている。

そんな中、園内を移動するヘンリーたち。

ヘンリー「……で、どうだった?」

ダニエル「はい。どうやら、強請りのようです。他に複数の爆弾を仕掛けたから、その場所を教えて惜しければ、2000万、用意しろとのことです」

ミア「……じゃあ、偶然、私たちとターゲットが被ったってこと?」

ダニエル「みたいだな」

ミア「どうします?」

ヘンリー「決まっている。阻止するぞ」

ダニエル「え?」

ミア「どうせ爆破するんですから、そいつらに任せればいいと思うんですけど」

ヘンリー「忘れるなと言ったはずだ。我々は怪我人を出さずに、悪だけを爆破する。……この犯人のやり方だと、絶対に怪我人が出る。下手をすると死人もな」

ダニエル「……なるほど」

ミア「でも、阻止ってどうやってやるんですか?」

ヘンリー「我々は爆弾のプロだ。作ることができるなら、解体だって出来る」

ダニエル「そうですね。爆弾と言ってもバリエーションは限られてますので」

ミア「でも、どこに仕掛けられているかわからなければ、解体のしようがないんじゃ……」

ヘンリー「大丈夫だ。最初の爆発から見て、犯人は安い爆薬を使っている。大した威力がない。そう考えると、園の端に仕掛けるとは思えない」

ミア「確かに……」

ヘンリー「しかも、爆発の威力よりも派手な爆発の方を重視して作られている。そこから考えると、相手はかなりの自己顕示力が強い奴だとわかる。となれば、園の中心付近にあると思っていいだろう」

ダニエル「さすがです!」

ヘンリー「よし、じゃあ、いくぞ」

ミア「はい!」

3人が移動していく。

場面転換。

観覧車内。

ヘンリー「やはり、観覧車内か」

ダニエル「この園の推しですからね」

ミア「それを破壊すればかなり目立ちますもんね」

ヘンリー「ああ。じゃあ、解体を始めるぞ」

ダニエル「はい!」

ミア「サポートします!」

場面転換。

ヘンリー「ふう。まあ、なかなかの作りだったな。まだまだ甘いところも多かったが」

ダニエル「ヘンリーさんの作ったものと比べると、やはり芸術性に欠けてますね」

ヘンリー「まあ、目的が違うからな。……よし、じゃあ、行くぞ」

ダニエル・ミア「はい」

場面転換。

3人が園内を歩いている。

ダニエル「予告の時刻です。……ふふ。爆発しないから犯人は慌ててるでしょうね」

ヘンリー「ふん。プライドがない爆弾魔など迷惑なだけだからな」

そこに警官たちがやってくる。

警官1「いたぞ! こっちだ!」

ヘンリー「なっ!」

多くの警官に囲まれるヘンリーたち。

ヘンリー「な、なぜだ?」

警官1「園内は、すべての客はもう避難済みだ」

ヘンリー「……あっ」

場面転換。

パトカーの中。

ダニエル「……くっ! 我々は高貴な目的のために活動していたのに」

ミア「そうよ。今回だって、逆に爆破を阻止したのよ。悪を切る、正義の爆弾魔なんだから!」

警官1「はいはい。話は署で聞くから」

ヘンリー「……」

ミア「ヘンリーさんも何か言ってくださいよ」

そのとき、無線が入る。

警官1「はい。……え? はい、はい……。わかりました」

パトカーが止まる。

ミア「え? なに?」

警官1「犯人が捕まったそうだ。悪かったな。降りていいぞ」

ダニエル「そんな勝手な……」

警官1「はいはい。じゃ、降りてくれ」

場面転換。

パトカーから降ろされる。

ダニエル「なんだよ。勝手だな」

ミア「私たち、爆弾魔って言ってたのに、対して調べもしないで降ろされちゃったね」

ヘンリー「……そうか」

ダニエル「ヘンリーさん?」

ヘンリー「爆弾魔の矜持なんて、一般人から見れば、ただの自己満足なのかもしれないな……」

ダニエル・ミア「……」

終わり。

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