爆弾魔の矜持(ボマーのプライド)
- 2023.06.27
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
ヘンリー 42歳
ミア 21歳
ダニエル 21歳
警官 43歳
アナウンサー 26歳
■台本
時計の秒針の音。
そして、カチッという音がする。
同時に爆発音。
場面転換。
遠くで爆発する音がする。
ヘンリー「よし、作戦成功」
場面転換。
ニュース番組。
ナレーター「昨日、爆破されたエクセアカンパニーは地域の政府機関と繋がりがあり、汚職との疑惑が……」
ピッとボタンを押すと同時にテレビが消える。
ミア「やりましたね、ヘンリーさん。世間は爆破された会社の方が悪いって流れですよ」
ヘンリー「爆破はあくまできっかけだよ。これで会社に監査が入れば、エクセアは終わりだろう」
ドアがガチャリと開く音。
ダニエル「ただいま、戻りました」
ヘンリー「お疲れ様、ダニエル。で、どうだった?」
ダニエル「はい。怪我人はゼロでした」
ミア「すごい! 完璧ですね!」
ヘンリー「人を傷付けず、あくまで世の中の悪を破壊する。それが、俺たちの仕事だ。忘れるなよ」
ダニエル・ミア「はい!」
場面転換。
賑わっている遊園地の中。
園内を箒で掃いている音。
ヘンリー「……」
そこにダニエルがやって来る。
ダニエル「(小声で)爆弾の設置、完了しました」
ヘンリー「うむ」
ダニエルが通り過ぎていく。
ヘンリー「……」
ダニエルとは違う方向へ歩き去っていく。
場面転換。
遊園地の入口。
ヘンリーが出てくる。
ミア「あ、ヘンリーさんお疲れ様です」
ヘンリー「ああ。ダニエルは?」
ミア「もう少しで出てくると思います」
ヘンリー「そうか……」
ミア「それで、この遊園地にはどんな悪があるんですか?」
ヘンリー「従業員を奴隷のように使っているんだ。あとは、裏で財界と繋がっていて、日夜、違法な接待が行われている」
ミア「あー、それは爆破した方がいいですね」
ヘンリー「ああ。本当は木っ端微塵にしたいところだがな。万が一のこともあるから、メリーゴーランドだけで済ませてやるさ」
ミア「さすがヘンリーさんです。それで、爆破はいつにするんですか?」
ヘンリー「朝の5時だ」
ミア「え? そんな時間なんですか?」
ヘンリー「接待をしている人間もいるかもしれんからな」
ミア「あー、そっか。それもそうですよね」
その時、ドンという爆発音がする。
ヘンリー「な、なんだ!?」
ミア「爆発です! あっちの方角から煙が……」
ヘンリー「……」
ミア「もしかして、誤爆ですかね?」
ヘンリー「いや、メリーゴーランドは逆側だ。それにあの煙からして、うちの爆弾じゃない」
ミア「え? それじゃ……」
ヘンリー「……」
ヘンリーが無線を入れる。
ヘンリー「ダニエルか? こっちには戻らずに、至急、調べて欲しいことがある」
場面転換。
慌ただしい遊園地内。
警備員「慌てないでください! 列になって、順番に進んでください!」
客たちが大騒ぎしている。
そんな中、園内を移動するヘンリーたち。
ヘンリー「……で、どうだった?」
ダニエル「はい。どうやら、強請りのようです。他に複数の爆弾を仕掛けたから、その場所を教えて惜しければ、2000万、用意しろとのことです」
ミア「……じゃあ、偶然、私たちとターゲットが被ったってこと?」
ダニエル「みたいだな」
ミア「どうします?」
ヘンリー「決まっている。阻止するぞ」
ダニエル「え?」
ミア「どうせ爆破するんですから、そいつらに任せればいいと思うんですけど」
ヘンリー「忘れるなと言ったはずだ。我々は怪我人を出さずに、悪だけを爆破する。……この犯人のやり方だと、絶対に怪我人が出る。下手をすると死人もな」
ダニエル「……なるほど」
ミア「でも、阻止ってどうやってやるんですか?」
ヘンリー「我々は爆弾のプロだ。作ることができるなら、解体だって出来る」
ダニエル「そうですね。爆弾と言ってもバリエーションは限られてますので」
ミア「でも、どこに仕掛けられているかわからなければ、解体のしようがないんじゃ……」
ヘンリー「大丈夫だ。最初の爆発から見て、犯人は安い爆薬を使っている。大した威力がない。そう考えると、園の端に仕掛けるとは思えない」
ミア「確かに……」
ヘンリー「しかも、爆発の威力よりも派手な爆発の方を重視して作られている。そこから考えると、相手はかなりの自己顕示力が強い奴だとわかる。となれば、園の中心付近にあると思っていいだろう」
ダニエル「さすがです!」
ヘンリー「よし、じゃあ、いくぞ」
ミア「はい!」
3人が移動していく。
場面転換。
観覧車内。
ヘンリー「やはり、観覧車内か」
ダニエル「この園の推しですからね」
ミア「それを破壊すればかなり目立ちますもんね」
ヘンリー「ああ。じゃあ、解体を始めるぞ」
ダニエル「はい!」
ミア「サポートします!」
場面転換。
ヘンリー「ふう。まあ、なかなかの作りだったな。まだまだ甘いところも多かったが」
ダニエル「ヘンリーさんの作ったものと比べると、やはり芸術性に欠けてますね」
ヘンリー「まあ、目的が違うからな。……よし、じゃあ、行くぞ」
ダニエル・ミア「はい」
場面転換。
3人が園内を歩いている。
ダニエル「予告の時刻です。……ふふ。爆発しないから犯人は慌ててるでしょうね」
ヘンリー「ふん。プライドがない爆弾魔など迷惑なだけだからな」
そこに警官たちがやってくる。
警官1「いたぞ! こっちだ!」
ヘンリー「なっ!」
多くの警官に囲まれるヘンリーたち。
ヘンリー「な、なぜだ?」
警官1「園内は、すべての客はもう避難済みだ」
ヘンリー「……あっ」
場面転換。
パトカーの中。
ダニエル「……くっ! 我々は高貴な目的のために活動していたのに」
ミア「そうよ。今回だって、逆に爆破を阻止したのよ。悪を切る、正義の爆弾魔なんだから!」
警官1「はいはい。話は署で聞くから」
ヘンリー「……」
ミア「ヘンリーさんも何か言ってくださいよ」
そのとき、無線が入る。
警官1「はい。……え? はい、はい……。わかりました」
パトカーが止まる。
ミア「え? なに?」
警官1「犯人が捕まったそうだ。悪かったな。降りていいぞ」
ダニエル「そんな勝手な……」
警官1「はいはい。じゃ、降りてくれ」
場面転換。
パトカーから降ろされる。
ダニエル「なんだよ。勝手だな」
ミア「私たち、爆弾魔って言ってたのに、対して調べもしないで降ろされちゃったね」
ヘンリー「……そうか」
ダニエル「ヘンリーさん?」
ヘンリー「爆弾魔の矜持なんて、一般人から見れば、ただの自己満足なのかもしれないな……」
ダニエル・ミア「……」
終わり。