小さなサンタクロース

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
伊央里(いおり) 35歳
恵茉(えま) 4歳
保育士
店長
リーダー

■台本

料理を作っている伊央里。

伊央里「恵茉―。そろそろ起きなさい」

とコトコと恵茉がやってくる。

恵茉「おはよー、ママ」
伊央里「あら、もう顔洗ってたのね。偉い偉い」
恵茉「えへへ」
伊央里「それじゃ、朝ごはん食べよっか」
恵茉「ねえ、ママ。連絡帳見てくれた?」
伊央里「あ、忘れてた」

パタパタと走って恵茉のカバンを漁る。

恵茉「恵茉、先にご飯食べてるね」
伊央里「お願い―。……えーっと」

連絡帳を開いて見る伊央里。

伊央里「あ、そっか。今月はクリスマスか」
恵茉「幼稚園でパーティがあって、みんなとプレゼント交換するのー」
伊央里「そっか。じゃあ、お母さん、なんかプレゼント買っておくね」
恵茉「ありがとー」

伊央里(N)「思わぬ出費だけど、仕方ない。あと、恵茉用のプレゼントも買わなくっちゃ」

場面転換。
伊央里と恵茉が待っていると、迎えのバスが来て、保育士が降りてくる。

保育士「おはようございまーす」
伊央里「今日も、よろしくお願いします」
保育士「ふふ。恵茉ちゃんは、しっかりしてて、園じゃ、全然、手がかかりませんよ」
伊央里「親ばかかもしれませんが、家でもそうなんですよ」
保育士「偉いですね」
伊央里「はい。あの子は私の誇りです」
保育士「……ですが、その」
伊央里「なんですか?」
保育士「恵茉ちゃん、時々、園でも寂しそうな顔をするんです」
伊央里「……」
保育士「もしかすると、明るい顔とは反面に、寂しがってるのかもしれません」
伊央里「そう……ですよね」

場面転換。
スーパーの事務所内。

店長「ええ? シフトを増やしてほしい?」
伊央里「はい……。そのなんとかお願いできないでしょうか?」
店長「んー。急に言われてもねぇ」
伊央里「単発でもいいんです。なるべく多く入りたいんですけど」
店長「んー。じゃあ、知り合いでケーキ屋をやってる人がいるんだけど、ビラ配りのバイトを募集してたから、やってみるかい?」
伊央里「お願いします!」

場面転換。
清掃会社の事務所。

リーダー「ええ? シフトを増やしたい?」
伊央里「はい。何とかお願いできませんか?」
リーダー「でも、坂上さん、すでに掛け持ちしてるんでしょ? これ以上、仕事増やしたら、倒れちゃうよ」
伊央里「一ヶ月間だけでいいんですけど……」
リーダー「ああー。クリスマスだもんね。色々出費があるのか」
伊央里「……はい」
リーダー「うん。わかった。坂上さんにはいつも頑張ってもらってるからね。なるべく、シフトを入れるように配置するよ」
伊央里「ありがとうございます!」

場面転換。
ガチャっとドアが開いて、家に入って来る。

伊央里「ただいまー」
恵茉「おかえりなさーい」
伊央里「すぐ晩御飯作るね」
恵茉「ううん。大丈夫。ご飯に卵かけて食べた」
伊央里「え?」
恵茉「だから平気」
伊央里「……ありがと、恵茉」

場面転換。
机に突っ伏して、居眠りしてる伊央里。

伊央里「……ん? あ、居眠りしちゃってた。後片付けして寝ないと」

立ち上がって、キッチンに向かう。

伊央里「あ……。洗い物終わってる。恵茉がやってくれたのかな? 明日、お礼言わないと」

歩いて、恵茉の部屋を見る。

伊央里「あれ? まだ、起きてる? 恵茉―? まだ、起きてるの?」
恵茉「あ、ママ。うん、ちょっとね。眠れなくて」
伊央里「そっか。でも、頑張って寝なさいよ」
恵茉「うん……」

場面転換。
幼稚園内。
クリスマスソングが流れている。

保育士「じゃあ、音楽に合わせて、プレゼントを隣の人に渡してね。音楽が止まったら、プレゼントを渡すのもストップしてね」

場面転換。
道を走る伊央里。

伊央里「……遅くなっちゃった。恵茉、怒ってるかな?」

立ち止まってドアの鍵を開けて中に入る伊央里。

伊央里「恵茉―。ごめんね」

靴を脱いで家の中に入る。

伊央里「……そっか。もう寝ちゃったよね。ケーキは明日、一緒に食べよっと」

ケーキを冷蔵庫へ持っていく伊央里。

伊央里「……念のため、ご飯作っておいてよかった」

ため息をつく伊央里。

伊央里(N)「……ごめんね、恵茉。せっかくのクリスマスなんだから、もっと豪華なもの作っておけばよかったね」

伊央里「あ、そうだ」

伊央里(N)「クリスマスプレゼントを恵茉の枕元に置いておかなくっちゃ。……恵茉、喜んでくれるかな?」

場面転換。
朝。目覚まし時計が鳴る。

伊央里「ん、んー! もう、朝か……」

ベッドから起き上がる伊央里。

伊央里「え? あれ? これって……」

場面転換。
リビングのドアが開く音。

伊央里「あれ? 恵茉、もう起きてたの?」
恵茉「えへへへ。ママ! 見て! サンタさんからプレゼント貰った」
伊央里「そっか。よかったね」
恵茉「うん!」
伊央里「あのね、恵茉。実は、お母さんも、サンタさんからプレゼント貰っちゃった。手作りのアクセサリー」
恵茉「わー、凄いね! 嬉しい?」
伊央里「うん。すっごく」
恵茉「えへへ」

伊央里(N)「プレゼントの箱の中には手紙が添えられていた。『いつもがんばっているので、プレゼントをあげます。サンタより』と」

伊央里(N)「最近、恵茉が遅くまで起きていたのは、きっとこれを作るためだったんだろう。まさか、この年になって、子供からクリスマスプレゼントを貰うだなんて」

伊央里(N)「この小さなサンタクロースは私に幸せをプレゼントしてくれた。そして、本当の幸せはプレゼントじゃなく、想いなんだと知ることができた」

伊央里(N)「来年のクリスマスは、豪華なプレゼントじゃなく、恵茉と一緒にクリスマスを祝う時間を大切にしよう」

終わり。

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