命よりも大切なもの
- 2023.08.07
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
優真(ゆうま) 27歳
栞奈(かんな) 26歳
医師
看護師
■台本
海辺に並んで座る栞奈と優真。
栞奈「ねえ、知ってる? 運命の人に会える確率って0.000003パーセントくらいなんだって」
優真「うーん。数字だけ言われても、よくわからんな」
栞奈「大体、宝くじの1等が当たるのよりも10倍低いって感じかな」
優真「余計わからん。まあ、凄い低いってことはわかった」
栞奈「カジノで億万長者になれる確率は、宝くじの1等が当たるのよりも高いだって。それなら、カジノの方がいいと思わない?」
優真「……何の話だよ? 運命の人に会える確率の話はどこ行ったんだ?」
栞奈「あっ! そうだった」
優真「……」
栞奈「私たちが出会えた確率って、本当に低いって話」
優真「そう考えたら恐ろしい話だな」
栞奈「もし、出会ってなかったら、どうなってたかな、私たち」
優真「……考えたくないな」
栞奈「ねえ、優真」
優真「ん?」
栞奈「命より大切なものってある?」
優真「2人で一緒にいる時間、かな」
栞奈「ふふ。いいね、それ」
優真「栞奈は?」
栞奈「そうだなぁ。優真の幸せ、かな」
優真「なんだそりゃ?」
栞奈「優真が幸せになれるなら、私は死んでもいいってこと」
優真「いやいや。それだと、矛盾するだろ」
栞奈「え? なんで?」
優真「俺は2人でいる時間の方が、命より大事なんだぞ? お前がいなくなったら、俺は生きてられんってことだ」
栞奈「あ、そっか」
優真「ってことで、お前はずっと俺と一緒にいてくれればいいんだよ」
栞奈「でも、私、優真には幸せになってほしいよ?」
優真「お前がいれば幸せだから、心配すんな」
栞奈「……うん!」
場面転換。
結婚式場。
電話のコール音が響く。
そして、ピッと電話がつながる音。
優真「……栞奈、お前、今どこだよ?」
栞奈「うわーん。ごめん。今、式場に向かってる」
優真「衣装合わせは時間がかかるから、3時間は欲しいって言ったの、お前だろ」
栞奈「だから、今、向かってるんだよー」
優真「はあ……。こっちは延長しておくから、ゆっくり来い。汗だくでドレス着るわけにもいかんだろ」
栞奈「うん。そうだね……」
優真「ある程度、こっちで見繕っておくぞ」
栞奈「うん! ありが……」
キキーという車のキューブレーキと、ドンというぶつかる音。
そして、悲鳴が聞こえてくる。
優真「栞奈? 栞奈! 栞奈――!」
場面転換。
病院内。
優真が走って来る。
優真「栞奈!」
心電図の音。
医師「……」
優真「先生、栞奈の容態は?」
医師「……正直に言って、今、生きているのが奇跡と言わざるを得ません。ですが、このままだと……」
優真「そんな……。なにか、何か栞奈を救う方法はないんですか?」
医師「……」
優真「先生!」
医師「栞奈さんは、心臓、肺、肝臓、すい臓……。ほぼ全ての臓器が損傷しています」
優真「移植するしかないってことですか?」
医師「ええ。ですが、一つでさえ、ドナーが回って来ることは難しいんです。そのすべてが揃って提供される確率は天文学的なものです」
優真「……っ」
場面転換。
病室内。
ジッと栞奈を見ている優真。
優真「……すべての臓器が揃う確率は天文学的な確率だってさ。でも、大丈夫だよな。俺とお前は0.000003パーセントの確率で出会えたんだ。……今回だって、きっと……」
場面転換。
見舞いに来ている優真。
優真「栞奈。結婚式の会場さ、延期にしておいたからな。……さすがに3ヶ月後だと、お前、辛いだろ? 来年には、きっとできるさ。ドレスだってさ、凄い良いのがあるんだよ」
栞奈「……」
心電図の音が響く。
場面転換。
部屋の中。
説明を受けている優真。
優真「……なんとか、ならないんですか?」
医師「……そう言われましても」
優真「……」
医師「今、生きているのが奇跡なんです。もう一つ……すべての臓器を提供してくれるドナーが現れるという奇跡がない限り、栞奈さんは助かりません」
優真「……」
場面転換。
病室内。
優真「……栞奈。覚えてるか? 前に話した、俺が、命より大切なものの話。俺、本気だからな。……お前を失うくらいなら」
場面転換。
心電図の音。
病室内。
栞奈「……ここは?」
看護師「先生! 栞奈さんが目覚めました!」
場面転換。
病室内。
栞奈「……じゃあ、優真が私の……ドナーに?」
医者「……」
栞奈「優真は……優真はどこ?」
医者「……」
栞奈「うう……うわあああーーーーーーー!」
場面転換。
泣き続けている栞奈。
栞奈「嫌だよ! なんで!? 私、言ったじゃない! 優真が幸せなら、私の命なんていらないって! なのに! ……優真が死んじゃ、意味ないよ!」
場面転換。
病室。
栞奈「……」
医者「……これはあなた宛てに、優真さんから預かったものです」
栞奈「……手紙?」
場面転換。
病室に一人でいる栞奈。
手紙を開ける。
優真(N)「すまない、栞奈。きっとお前は、俺がこうなるくらいなら、自分が死んだ方がいいなんて思うかもしれないな」
栞奈「……そうだよ」
優真(N)「栞奈はあのときのこと、覚えてるか? 俺が命より大切にしてることの話」
栞奈「うん。……2人で一緒にいる時間……だよね」
優真(N)「だからさ、俺はどうしてもお前を失いたくなかったんだ。たとえ、俺の命を犠牲にしても……」
栞奈「でも……でも……優真がいなかったら、一緒にいられないよ……」
優真(N)「俺は今も、栞奈と一緒にいる」
栞奈「え?」
優真(N)「お前の中に、俺はいる。これからはさ、ずっとずっと、お前と一緒だ。それで、栞奈も言ってたよな? 俺の幸せが栞奈の命よりも大事だって」
栞奈「うん……」
優真(N)「俺、幸せだよ。これからずっと、栞奈と一緒にいられる。栞奈を支え続けられる」
栞奈「う、うう……」
優真(N)「最後にこれだけ言わせてくれ。栞奈。俺と出会ってくれて、ありがとう」
栞奈「うう……」
場面転換。
リハビリ室。
栞奈「わわっ!」
看護師「大丈夫ですか!? やっぱり、リハビリは早いですよ」
栞奈「平気です。私、大切な人に支えられてるんで」
看護師「……栞奈さん」
栞奈「……はあ、はあ、はあ。3ヶ月後にドレス着るんです。優真が選んでくれた、ウェディングドレス」
栞奈(N)「優真。私も……私も同じだよ。出会ってくれて……本当にありがとう……」
終わり。