昔の約束
- 2023.08.10
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
ハル
敏夫(としお)
美玖(みく) 看護師 26歳
医師
■台本
夜景が見える丘。
敏夫は24歳で、ハルは20歳。
敏夫「ハル! 俺と結婚してくれ!」
ハル「もう、随分と急なんだから。ビックリするじゃない」
敏夫「うっ! ……で、ど、どうなんだ?」
ハル「ふふ。お受けします」
敏夫「本当か!?」
ハル「ええ。その代わり、一つ、敏夫さんに条件があります」
敏夫「条件? なんだ?」
ハル「私よりも先に死なないでください」
敏夫「はあ? なんだそりゃ?」
ハル「守れないなら、この話はなかったことに……」
敏夫「あー、わかったわかった! 守る! 守るさ!」
ハル「知ってますか? 男性よりも、女性の方が平均寿命は長いんですよ」
敏夫「え? そうなのか?」
ハル「それでなくても、敏夫さんは私よりも4歳も上ですからね。頑張って、長生きしてください」
敏夫「うっ! わ、わかったよ……」
ハル「ふふ……」
場面転換。
時間経過。50年後。
敏夫が74歳。ハルが70歳。
病室。心電図の音。
ハルが病室にやってくる。
ハル「おはようございます、敏夫さん。今日の体調はどうです?」
敏夫「……」
ハルがベッドの横に座る。
ハル「ねえ、聞いてくださいよ。正幸(まさゆき)が結婚するんですって。早いですよね」
敏夫「……」
ハル「孫って言っても、すぐ大きくなるのよ。もう、ビックリ」
そこに美玖が入って来る。
美玖「あ、ハルさん、こんにちは」
ハル「あらあら、美玖ちゃん。主人がいつもお世話になってます」
美玖「いえいえ」
ハル「主人、私がいないときになにか変わりありませんでしたか?」
美玖「いえ、特には」
ハル「そうですか……」
美玖「あ、でも、その、安定されてますよ」
ハル「……そうですか」
そこに、医師がやってくる。
医師「美玖くん、302号室の患者さんのことなんだけど……」
美玖「今行きます。それじゃ、ハルさん、失礼しますね」
ハル「はい」
美玖が病室から出て行く。
場面転換。
廊下を歩く医師と美玖。
美玖「先生、ハルさんのご主人……敏夫さんなんですけど、意識が戻る可能性ってあるんですか?」
医師「ん? んー。もう5年も意識が戻ってないからな。難しいと思うぞ」
美玖「そう……ですか」
医師「年も年だし……。奥さんだって、早く死んだ方がすっきりするだろ」
美玖「ちょっと、先生!」
医師「おっと! すまん。失言だったな。……けど、奥さんだって、持病持ちだ。いつ、迎えが来たっておかしくない」
美玖「……」
医師「そんな中、毎日、病院と家を往復するのだって、楽じゃないだろう」
美玖「そ、それはそうかもしれませんけど……」
医師「なまじ目が覚めても、5年も寝たきり状態だ。立ち上がることはおろか、起き上がることだって難しい。リハビリだって、大変だなんだぞ」
美玖「……わかりますけど。でも、私はハルさんのためにも、目覚めて欲しいって思います」
医師「はあ……。患者一人に、入れ込み過ぎだ」
美玖「……すみません」
場面転換。
ハルの家。
ボーっとテレビを見ているハル。
ハル「……あ、いけない。もうこんな時間。……ご飯支度しなくっちゃ」
立ち上がるハル。
ハル「……はあ。一人だと、作るのも億劫なのよね。もう、抜いちゃおうかしら」
そのとき、ドクンという鼓動の音が響く。
ハル「うっ! うう……」
胸を抑えて倒れるハル。
ハル「……敏夫……さん」
場面転換。
看護師控室。
美玖「それじゃ、お先に失礼しま……」
そのとき、緊急音が響く。
美玖「え? ……敏夫さん?」
場面転換。
病室内が騒然としている。
心臓マッサージをしている医師。
そこに美玖が入って来る。
美玖「先生! 敏夫さんは?」
医師「すぐに、ハルさんに連絡だ!」
美玖「は、はい……」
場面転換。
ハルの家。
電話のコール音が鳴り響いている。
場面転換。
病院。
美玖「……ハルさん、どうして出てくれないんだろ?」
場面転換。
病室。
心電図のピーという音。
医師「……」
そこに美玖がやってくる。
美玖「先生」
医師「……奥さんは?」
美玖「それが、電話に出なくて」
医師「そうか……」
美玖「敏夫さんは……?」
医師「……」
美玖「……」
場面転換。
足音が聞こえてくる。
敏夫「ハル……」
ハル「あ、敏夫さん」
敏夫「まったく。お前は自分のことになったら、ズボラなんだから」
ハル「あははは。一人だとつい、サボっちゃうんですよね」
敏夫「まあ、俺もお前を責められんな。……5年間も、お前に苦労をかけたな」
ハル「いいえ。苦労なんて一度も思いませんでしたよ」
敏夫「……お前はいつもそうだな。俺のこととなると、甘くなる」
ハル「そうですか?」
敏夫「そうだよ」
ハル「そんなこと言ったら、あなただって……あっ!」
敏夫「どうした?」
ハル「……敏夫さん、頑張ってくれてたんですね?」
敏夫「……」
ハル「私との約束、守ってくれてたんですね?」
敏夫「……結婚するときの約束だっただろ?」
ハル「ふふ。ありがとうございます」
敏夫「さ、それじゃ、行こうか」
ハル「はい」
敏夫とハルが一緒に歩き出す音が響く。
終わり。
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