昔の約束

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
ハル
敏夫(としお)
美玖(みく) 看護師 26歳
医師

■台本

夜景が見える丘。

敏夫は24歳で、ハルは20歳。

敏夫「ハル! 俺と結婚してくれ!」

ハル「もう、随分と急なんだから。ビックリするじゃない」

敏夫「うっ! ……で、ど、どうなんだ?」

ハル「ふふ。お受けします」

敏夫「本当か!?」

ハル「ええ。その代わり、一つ、敏夫さんに条件があります」

敏夫「条件? なんだ?」

ハル「私よりも先に死なないでください」

敏夫「はあ? なんだそりゃ?」

ハル「守れないなら、この話はなかったことに……」

敏夫「あー、わかったわかった! 守る! 守るさ!」

ハル「知ってますか? 男性よりも、女性の方が平均寿命は長いんですよ」

敏夫「え? そうなのか?」

ハル「それでなくても、敏夫さんは私よりも4歳も上ですからね。頑張って、長生きしてください」

敏夫「うっ! わ、わかったよ……」

ハル「ふふ……」

場面転換。

時間経過。50年後。

敏夫が74歳。ハルが70歳。

病室。心電図の音。

ハルが病室にやってくる。

ハル「おはようございます、敏夫さん。今日の体調はどうです?」

敏夫「……」

ハルがベッドの横に座る。

ハル「ねえ、聞いてくださいよ。正幸(まさゆき)が結婚するんですって。早いですよね」

敏夫「……」

ハル「孫って言っても、すぐ大きくなるのよ。もう、ビックリ」

そこに美玖が入って来る。

美玖「あ、ハルさん、こんにちは」

ハル「あらあら、美玖ちゃん。主人がいつもお世話になってます」

美玖「いえいえ」

ハル「主人、私がいないときになにか変わりありませんでしたか?」

美玖「いえ、特には」

ハル「そうですか……」

美玖「あ、でも、その、安定されてますよ」

ハル「……そうですか」

そこに、医師がやってくる。

医師「美玖くん、302号室の患者さんのことなんだけど……」

美玖「今行きます。それじゃ、ハルさん、失礼しますね」

ハル「はい」

美玖が病室から出て行く。

場面転換。

廊下を歩く医師と美玖。

美玖「先生、ハルさんのご主人……敏夫さんなんですけど、意識が戻る可能性ってあるんですか?」

医師「ん? んー。もう5年も意識が戻ってないからな。難しいと思うぞ」

美玖「そう……ですか」

医師「年も年だし……。奥さんだって、早く死んだ方がすっきりするだろ」

美玖「ちょっと、先生!」

医師「おっと! すまん。失言だったな。……けど、奥さんだって、持病持ちだ。いつ、迎えが来たっておかしくない」

美玖「……」

医師「そんな中、毎日、病院と家を往復するのだって、楽じゃないだろう」

美玖「そ、それはそうかもしれませんけど……」

医師「なまじ目が覚めても、5年も寝たきり状態だ。立ち上がることはおろか、起き上がることだって難しい。リハビリだって、大変だなんだぞ」

美玖「……わかりますけど。でも、私はハルさんのためにも、目覚めて欲しいって思います」

医師「はあ……。患者一人に、入れ込み過ぎだ」

美玖「……すみません」

場面転換。

ハルの家。

ボーっとテレビを見ているハル。

ハル「……あ、いけない。もうこんな時間。……ご飯支度しなくっちゃ」

立ち上がるハル。

ハル「……はあ。一人だと、作るのも億劫なのよね。もう、抜いちゃおうかしら」

そのとき、ドクンという鼓動の音が響く。

ハル「うっ! うう……」

胸を抑えて倒れるハル。

ハル「……敏夫……さん」

場面転換。

看護師控室。

美玖「それじゃ、お先に失礼しま……」

そのとき、緊急音が響く。

美玖「え? ……敏夫さん?」

場面転換。

病室内が騒然としている。

心臓マッサージをしている医師。

そこに美玖が入って来る。

美玖「先生! 敏夫さんは?」

医師「すぐに、ハルさんに連絡だ!」

美玖「は、はい……」

場面転換。

ハルの家。

電話のコール音が鳴り響いている。

場面転換。

病院。

美玖「……ハルさん、どうして出てくれないんだろ?」

場面転換。

病室。

心電図のピーという音。

医師「……」

そこに美玖がやってくる。

美玖「先生」

医師「……奥さんは?」

美玖「それが、電話に出なくて」

医師「そうか……」

美玖「敏夫さんは……?」

医師「……」

美玖「……」

場面転換。

足音が聞こえてくる。

敏夫「ハル……」

ハル「あ、敏夫さん」

敏夫「まったく。お前は自分のことになったら、ズボラなんだから」

ハル「あははは。一人だとつい、サボっちゃうんですよね」

敏夫「まあ、俺もお前を責められんな。……5年間も、お前に苦労をかけたな」

ハル「いいえ。苦労なんて一度も思いませんでしたよ」

敏夫「……お前はいつもそうだな。俺のこととなると、甘くなる」

ハル「そうですか?」

敏夫「そうだよ」

ハル「そんなこと言ったら、あなただって……あっ!」

敏夫「どうした?」

ハル「……敏夫さん、頑張ってくれてたんですね?」

敏夫「……」

ハル「私との約束、守ってくれてたんですね?」

敏夫「……結婚するときの約束だっただろ?」

ハル「ふふ。ありがとうございます」

敏夫「さ、それじゃ、行こうか」

ハル「はい」

敏夫とハルが一緒に歩き出す音が響く。

終わり。

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