受け継がれていく殺意
- 2023.08.11
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
星那(せいな)
山神(やまがみ)
佳苗(かなえ)
祖母
伽耶(かや)
■台本
祖母「いいかい、星那。私たちの一族は、山神様をこの世から消滅させる運命を持っているんだ。お前の代で……私たちの悲願を達成するんだよ」
星那「はい。わかってます、おばあ様」
星那(N)「私の家系は代々、強力な霊力を持つ、巫女なのだ。私も物心ついたときには、霊力を高める修行の日々を過ごした」
星那「ねえ、お母さん。山神様ってどんなやつなの?」
佳苗「そうね……。とっても、凶悪な存在よ。滅するべき、存在。この世に存在してはいけないの」
星那「おばあ様もお母さんも、山神様と戦ったんだよね?」
佳苗「そうよ。私とお母さんだけじゃないわ。おばあちゃんおばあちゃんよりもずーっと前から、山神様を消滅させるために戦ってきたの」
星那「……そんなにたくさんの人たちでも勝てなかったんだから、私じゃ無理だと思うんだけど」
佳苗「そんなことないわ。星那は10年に一度の才能の持ち主って、みんなからも言われてるでしょ?」
星那「そう言われてもなぁ……」
佳苗「実はね、星那。ここだけの話、山神様はそこまで強くはないのよ」
星那「え? そうなの?」
佳苗「ええ。……私でも十分、消滅させることができる可能性はあったの」
星那「……どうして失敗しちゃったの?」
佳苗「……ねえ、星那。これだけは絶対に忘れないで。山神様は絶対に消滅させるべき存在なの。それをためらってはダメ。星那なら必ずできるわ。だから、お願いね」
星那(N)「お母さんの話はよくわからなかった。そこまで強くないのなら、なぜ、お母さんだけじゃなく、今まで山神様を消滅できる巫女が出て来なかったんだろう? いくら私が10年に1人と言われていたとしても、今までだって、それ以上の天才は出てきたはずなのに……」
場面転換。
祖母「星那。今日で17歳だね?」
星那「はい」
佳苗「私たち、巫女は18歳で霊力のピークを迎えるわ。だから、ちょうど1年後。それが山神様を消滅できる唯一の機会よ。わかってるわね」
星那「はい」
祖母「それじゃ、行ってくるんだよ」
佳苗「気を付けてね」
星那「ねえ、お母さん」
佳苗「どうしたの?」
星那「なんで、1年前から山に入るの? 来年、行けばいいと思うんだけど」
祖母「……それは」
佳苗「行けばわかるわ」
星那「……まあ、いいけど。じゃあ、行ってきます」
佳苗「星那。お願いね」
祖母「私たちが不甲斐なかった分、お前にこんな役目を押し付けてしまって……」
星那「おばあ様、いいのよ。私だって、納得してるんだから。ちゃんとお役目を果たしてきます」
場面転換。
山道を歩く星那。
星那「この辺に社があるって話だけど……あ、あった!」
立ち止まる星那。
星那「うわー。すごい、立派な社。私の家より、立派かも」
山神「……来たか」
星那「きゃあ!」
山神「……佳苗から、私の姿を聞いてなかったのか?」
星那「……え? あ、そういえば……」
星那(N)「突然、社の前に現れたのは、巨大な狼だった。おそらく、この狼が山神様なんだろう。それにしても、どんな姿だったか、聞くのを忘れてた。というか、山神様のことは、ほとんど聞いていない。聞いていても、消滅させるべき存在というだけだった」
山神「ふう。佳苗もそうだったが、お前も、抜けたところがあるようだな」
星那「あなたが、山神様ね?」
山神「ああ」
星那「……悪いけど、死んでもらうわよ。はあああ!」
霊力を高める音。
星那「はっ!」
霊力の玉を飛ばす音と、弾かれる音。
星那「え?」
山神「……お前たち巫女が、最大限に霊力が高まるのは18歳を迎えた後の満月。そう聞いてないか?」
星那「あ。そうだった……」
山神「その日じゃないと、俺を消滅させることはできない」
星那「どうして? 要はあなたを滅するほどの霊力を溜めればいいだけじゃないの?」
山神「何も聞いていないんだな。消滅させるというが、俺はこれでも神だ。巫女がやるのは、神の世界に俺を返すというものだ」
星那「返す……」
山神「そう。この土地から俺という神を剥がし、神の世界へ返す。それをするためには、儀式が必要だ」
星那「土地剥がし……」
山神「そうだ。そのためには、お前がこの地に、少しずつ霊力を込めないとならない。だから、1年前にここに来る必要があるのさ」
星那「……そうだったんだ」
山神「ということで、これから1年間、よろしくな」
場面転換。
朝。スズメの鳴き声。
星那「……」
山神「星那。星那! いつまで寝てるんだ。朝飯の用意が出来てるぞ」
星那「……え?」
ガバっと起き上がる星那。
星那「きゃあああ!」
山神「おいおい。起きてすぐ悲鳴かよ」
星那「あ、あなた、誰?」
山神「へ? 山神だけど……って、もしかして、お前、俺が人の姿になれることを聞いてないのか?」
星那「……聞いてない」
山神「んー。なんで、秘密にするかなぁ」
星那「……」
星那(N)「私の目の前にいるのは、私と同じくらいの年齢の男の子だった」
山神「さ、飯にしようぜ」
星那「……用意してくれたの?」
山神「ん? 1人分作るのも2人分作るのも、手間は変わらないからな」
星那「……」
場面転換。
本を読んでいる星那。
ぺらりとページをめくる音。
星那「……」
山神「なあ、星那。川に釣りにでもいかないか?」
星那「……なんか、調子狂うなぁ」
山神「本なんて、後から読めるだろ。さ、行こうぜ」
星那(N)「山神様は、毎日、社に来ては私を遊びに誘ってくる。私も、一人で時間を持て余しているから、付き合ってあげてるんだけど。……そんなこんなをしているうちに、あっという間に4ヶ月が経過した」
場面転換。
星那「ねえ、山神様」
山神「ん?」
星那「私、あなたを消滅……神の世界に返すためにここに来てるんだけど」
山神「知ってるよ」
星那「憎くないの?」
山神「へ? なんで?」
星那「なんでって……。自分を消滅させようとしてる人を普通、遊びに誘う?」
山神「憎むも何も、俺が望んでることだからな」
星那「え?」
山神「……俺も、長く、この世界にい過ぎた。周りの仲間はとっくに、帰っちまったよ」
星那「そうなんだ……」
山神「だから、霊力の強い、お前たちの一族に手伝ってもらってるってわけだな。だから、逆だろ。恨むのは星那の方じゃないか? こんなことに巻き込まれてさ」
星那「……私は別に」
山神「そっか。お前らって、本当に人がいいよな」
星那「……」
星那(N)「知らなかった。まさか、山神様自身が消滅したがっているなんて。だから、代々、失敗した巫女が生きて戻ってくるんだ。私はずっと不思議だった。戦いに負けた巫女が普通に戻ってくることが。でも、山神様の話を聞いた今、その謎が解けた」
場面転換。
星那「うわー。美味しい」
山神「だろ? 熊って独特な風味があって敬遠されるけど、ちょちょっと特殊なことをすれば、こんなに美味いんだぜ」
星那「うう……。私、山を降りる頃には太りそう」
山神「ははは。健康的でいいんじゃないか?」
星那「うーん」
山神「なあ、星那」
星那「なに?」
山神「……お前なら、できる」
星那「……え? あ、儀式の件か」
山神「ああ。頼んだぞ」
星那「うん。任せといて」
場面転換。
布団で寝ている星那。
星那「はあ、はあ、はあ……」
山神「大丈夫か?」
星那「う、うん……」
山神「これ、熱冷ましだ。飲め」
星那「ありがとう」
山神「明日には熱も下がるさ」
星那「ねえ、山神様」
山神「ん?」
星那「……今日は、一緒にいてくれない?」
山神「……たく、しょうがねーな」
星那(N)「山神様の看病の甲斐があって、私は本当に次の日には体調が戻った。そして、月日は流れ、私は18歳になった」
場面転換。
山神「星那、誕生日おめでとう」
星那「ありがとう!」
山神「はやいなぁ。もう1年か」
星那「そうだよね」
山神「……次の満月だ」
星那「うん。任せて。ちゃんと送ってあげるから」
山神「おう。期待してるぞ」
場面転換。
一人で月を眺めている星那。
星那「……明日、私は山神様を消滅させる。これは山神様が願ったこと……」
場面転換。
星那「……あれ? 山神様、なんで狼の格好なの?」
山神「この方が雰囲気出るだろ?」
星那「う、うん……」
山神「じゃあ、頼んだ」
星那「……うん」
深呼吸をして、静かに霊力を高める。
星那「……」
山神「……」
星那「……」
山神「……星那」
星那「ん?」
山神「1年間、楽しかった。ありがとな。佳苗にもそう伝えておいてくれ」
霊力を溜めるのを止める星那。
山神「……どうした?」
星那「ねえ、どうしても帰りたい?」
山神「え?」
星那「私……山神様を消滅させるなんて……」
山神「……星那」
そのとき、ガキンと何かが割れる音がする。
山神「あっ!」
星那「え?」
山神「結界が割れた」
星那「え? え? ごめん。また、やり直すね」
山神「ダメなんだ」
星那「へ?」
山神「この儀式は人生で一回しかできない儀式なんだ。失敗したら終わりなんだよ」
星那「ええー! なんで? なんでそんな大事なことを黙ってたの?」
山神「知らせれば、緊張で失敗することが多い。だから、そのことは話さないことにしてるんだ」
星那「……そんな。私が躊躇したせいで……」
山神「気にするな。言ったろ? 元々、俺が無理を言って、お前たちの一族に頼んだんだからさ」
星那「ごめん。ごめんね」
山神「だから、いいってば」
星那「私、約束する! 絶対に、山神様を返すって」
山神「いや、だから、一回失敗したら終わりって……」
星那「私の子供がやるよ。そのために、ちゃんと子供を育てる」
山神「……ごめん。また、お前の一族に頼ることになるな」
星那「ううん。私のせいだから……」
星那(N)「どうして、今まで、儀式が失敗していたのか。きっと、代々の巫女は山神様を消滅させることを躊躇したんだろう。だけど、次の代ではきっと、やり遂げてみせる。子供には山神様を消滅させるための存在だとしっかり教えていこう」
場面転換。
伽耶「ねえ、お母さん。山神様ってどんなやつなの?」
星那「そうね……。とっても、凶悪な存在よ。滅するべき、存在。この世に存在してはいけないの」
星那(N)「今度こそ。この子の代で、山神様を返してあげるんだ」
終わり。
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