【ラジオドラマ短編シナリオ】約束
- 2018.07.08
- ボイスドラマ(10分)
■概要
主要人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
三浦 一輝(17)
三浦 一輝(5) 一輝の子供時代
神代 美冬(14) 一輝の幼馴染
美冬の母(28)
その他
・こちらの作品はボイスドラマになっております。
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■台本
○ シーン 1
夜の海辺。
波の音と、三浦一輝が砂の上を歩く音。
立ち止まって座り込む。
一輝「……美冬。やっぱり、お前は……。いや、大丈夫だよな? 生きてるよな?」
一輝が立ち上がり、再び歩きはじめる。
一輝(N)「美冬は、俺より五つ下の幼馴染だ。あいつと初めて会ったのは、雪の降る朝のことだった……」
× × ×
一輝の回想。
赤ちゃんの泣き声が響く。
五歳の頃の一輝が、不思議そうに言う。
一輝「どうして、泣いてるの? どこか、痛いの?」
美冬の母「そうじゃないの。寂しくて、泣いてるのよ」
一輝「寂しい?」
美冬の母「そう。この子の父親がね、事故で死んじゃったの。だから、寂しくて泣いてるんだと思う」
一輝「じゃあ、僕がお父さんになってあげる」
美冬の母「え?」
一輝「ずっと、この子を守ってあげる」
美冬の母「……ありがとう。君、名前は?」
一輝「一輝」
美冬の母「それじゃ一輝君。美冬をお願いね」
一輝「うん!」
× × ×
回想終わり。
一輝が砂の上を歩く音。
一輝(N)「そう。あの日から、俺は、どんなことがあっても、美冬を守るって決めたんだ。……それなのに。それなのに……」
一輝が歩くのをピタリと止める。
一輝(N)「二年前……。夏休みに、美冬と二人で海に行った。日帰りで、すぐに帰ってくるつもりだった……」
× × ×
一輝の回想。
観光客でにぎわう海辺。
美冬がはしゃいで、走る。
美冬「お兄ちゃん、早く!」
一輝「おい、美冬、待てって。そんなにはしゃぐと、転ぶぞ」
美冬「だいじょーぶだって……きゃっ」
美冬が砂の上で、転ぶ。
美冬「いてて……」
一輝「ほら、言わんこっちゃない」
美冬「(立ち上がって)……あのさぁ、せっかく海に来てるんだから、もう少しはしゃいだら?」
一輝「俺は美冬と違って、子供じゃないから、そんなにテンション高くなれねえよ」
美冬「ぶぅ……。どうせ、美冬は子供ですよーだっ(速足で歩いていく)」
一輝「(慌てて追って)お、おい。そんなに怒るなよ。冗談だって。悪かったよ」
美冬「(立ち止まって)許してあげるから、お願い、一つ聞いてくれる?」
一輝「……いいけど、なんだ?」
美冬「あの、洞窟に一緒に行ってくれない?」
一輝「……洞窟?」
美冬「そう。あの、遠くに見える島にある、洞窟。竜神様が住んでるんだって」
一輝「……竜神様? 随分と胡散臭い話だな。大体、あの島まで、結構遠いぞ。泳いでなんて無理だし、船を借りて行くにしても、危険過ぎる」
美冬「行ってくれないなら、許してあげない。もう、口も聞いてあげない」
一輝「あー、分かったよ。じゃあ、ボート借りて来るから、ちょっと待ってろ」
美冬「わーい。ありがとう、お兄ちゃん」
一輝(N)「本当は、あの時、美冬に嫌われてもいいから、止めるべきだったんだ」
ボートを、一輝が漕いでいる。
ギシギシと音を立てる、ボート。
一輝「うわっ、結構、揺れるな」
美冬「(ちょっと、不安で)波も高くなってきたね」
一輝「やっぱり、戻ろう。危険だ」
美冬「ダメ! 絶対、行くのっ!」
一輝「……なんでだよ。どうせ、竜神様なんて、嘘に決まってるんだからさ」
美冬「二人で、あの洞窟に行ったらね。……その二人は、結ばれて、ずっと一緒にいられるんだって」
一輝「……」
美冬「……だから、絶対、お兄ちゃんと一緒に行きたいの」
一輝「美冬……」
大きな波が二人の乗るボートを襲う。
一輝「うわっ」
美冬「きゃっ!」
一輝「美冬、俺の手を離すなよ!」
美冬「う、うん」
さらに大きな波が襲ってくる。
船が転倒する。
二人が、海に投げ出される。
一輝「(必死に泳ぎながら)美冬、大丈夫だからな。俺にしっかり捕まってろよ。絶対に、お前は守ってやるからな」
美冬「……お兄ちゃん」
大きな波が無情にも、二人を飲み込む。
一輝「……美冬」
一輝(N)「気が付いたら、俺は、岩場に投げ出されていた。しっかり、つかんでいたはずの、美冬の手は……美冬の姿は見当たらなかった」
× × ×
回想終わり。
ザクザクと砂の上を歩く、一輝。
一輝(N)「地元警察は、一週間、遭難者を探したが、結局、見つけることはできなかった」
一輝「……美冬」
一輝(N)「ずっと、守るって約束したのに。俺は、その約束を守ることができなかった」
ザクザクと歩く一輝。
一輝(N)「あの事故から二年。いつも、この時期になると、俺はこの浜辺に来ている。ここに来れば、美冬に会える。そんな気がしていたからだ。……いや、違うな。美冬を探してさまよっていた時に聞いた、あの噂を確かめるために、俺はここに来ているんだろう」
× × ×
一輝の回想。
観光客の話声。
男客「なあ、知ってるか? この辺に幽霊が出るって話」
女客「なに? やだ、私を怖がらせて、どうする気?」
男客「まあ、聞けって。二年前に、ここで一組のカップルが事故に遭ったらしんだよ」
女客「うわっ、やっぱり、それって死んだの?」
男客「ああ。一人は助かったらしいんだけどよ、死んだ方が未練を残して、幽霊になって夜な夜な浜辺をうろついてるんだって」
女客「キャー、怖いっ」
一輝「……」
× × ×
回想終わり。
静かな浜辺をザクザク歩く、一輝。
一輝(N)「幽霊でもいい。とにかく美冬に会いたかった。会って、謝りたかった。守ってやれなくてごめんって、一言、言いたかった」
一輝「美冬。どこにいるんだ。いるんだろ? 出てきてくれ」
ふと、一輝の足が止まる。
一輝「……もしかして、あの洞窟に?」
○ シーン 2
ボートを漕ぐ一輝。
一輝「見えた。あの洞窟だ」
必死に漕ぐ、一輝。
○ シーン 3
洞窟内を歩く、一輝。
一輝「美冬―。いるか?」
歩き続ける、一輝。だが、立ち止まる。
一輝「行き止まりか。いるわけ、ないよな」
その時、後ろから足音が聞こえる。
美冬「……お兄ちゃん?」
一輝「え?」
一輝(N)「振り向くと、そこに美冬の姿があった。少し日に焼けて、背も随分と伸びている」
一輝「美冬。お前、たくましくなったな」
美冬「(涙声で)二年ぶりに会ったのに、それ? それに、全然、褒めてないよ」
一輝「……ごめん」
美冬「……お兄ちゃんは、全然、変わってないね。あの時のまま……」
一輝「生きてて、くれたんだな」
美冬「……うん。あの時ね、お兄ちゃんが、私を船の上に押し上げてくれたんだよ」
一輝「……そっか」
美冬「うん。美冬は、お兄ちゃんに助けてもらったの」
一輝「……俺は、お前を助けることができたんだな」
美冬「そうだよ。だからね……(涙をこらえて)もう、いいんだよ」
一輝「……」
美冬「美冬はね。これから、お兄ちゃんがいなくても、ちゃんと生きていくよ。お兄ちゃんに助けてもらった命、ちゃんと大事にするよ」
一輝「……ああ」
美冬「(泣きながら)ありがとう。お兄ちゃん」
一輝「ありがとうな、美冬。生きててくれて」
美冬「お兄ちゃん、お兄ちゃん(泣き崩れて)」
一輝(N)「これで俺は、心おきなく、成仏できる。さようなら、美冬。そして、今までありがとう」
おわり
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