【シナリオブログ】龍は左手でサイを振る①

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人物表

凛  (22)旅芸人
新兵衛(16)賭博師

龍鬼 (30)伝説のツボ振り師
浩蔵 (40)黒龍組の組長

源八 (48)町人

その他

○  賭場
T「江戸時代。とある賭場」
一枚の畳の上に皿に乗った蝋燭と二つの小さなサイコロとツボが置いてある。
  明かりが蝋燭だけのため、部屋は薄暗い。
  着物を着た賭博師姿の凛(20)が黒い人影と向かい合って座っている。
  向かいの人影は男だということはわかるが、顔は薄暗いため見えない。
  凛がサイコロとツボを手に持つ。
凛「入ります」
  素早い手つきでサイコロをツボに入れて振り、畳の上にバンとツボを置く。
凛「半か丁か?」
男「は、半!」
凛「半……ですね?」
男「い、いやっ、丁だ!」
  凛がニッと笑みを浮かべ、ツボを上げる。
  サイコロの目は『一』と『三』。
凛「サンピンの半!」
男「そ、そんな……」
  賭場の戸が開かれ、光が入ってくる。
  凛が向かいの相手の顔見て、愕然とする。
  そこにいたのは凛の父親(38)だった。
  凛の父親の方も凛を見て驚く。
凛の父「……凛」
凛「親父。……どうして?」
  賭場の若い衆が入ってきて、凛の父を連れて行く。
凛の父「凛っ!」
若い衆「おらっ! 来い!」
凛「親父! 親父ー!」

タイトル「龍は左手でサイを振る」

〇 街外れ
T「――二年後――」
  男の旅芸人のような格好をした凛(22)が大通りを闊歩している。
男の子の声「待てー」
女の子の声「きゃー。あはは」
凛「ん?」
  凛が声のする方向に目を向ける。
  すると男の子(8)と女の子(5)が広場で追いかけっこをしている。
  凛が目を細めて、その様子を見る。
    ×    ×     ×
  凛の回想。
男と女が大道芸をしていて、大勢の街人や子供たちが歓声をあげて見ている。
遠くから見ている、凛(6)と父親。
凛の父「(頭なでて)良いかい、凛。娯楽というものは、時に人の心をダメにする。けれどそれを恐れてはいけない。人を楽しませること。それが私たちの仕事だ。それだけは絶対に忘れてはいけないよ」
凛「うん! わかったっ!」
  にっこりと笑い、頷く凛。
    ×    ×     ×
  凛がニッと笑い、広場の方へ歩き出す。
凛「いっちょ、盛り上げてやっか」

○  街外れ・広場
男の子と女の子が凛を見ている。
女の子の方は棒が付いた飴を舐めている。
  凛の右手のひらには包帯が巻いてある。
凛「(右手を広げて)よく見てろよ、ガキ共。手には何も無いな?」
女の子「うん。ないー!」
  凛が右手を握る。
凛「いーち、にーの、さんっ!」
  手のひらを開く凛。
すると花がポンと現れる。
女の子「うわー。花が出てきた」
凛「しかも、だ!」
  凛が右手の指を動かすと花がフワフワと浮き始める。
女の子「浮いたぁ! お姉ちゃん、すごーい」
凛「だろ? な? よし! じゃあ、金出せ」
  凛が左手をバッと前に出す。
男の子「えー。お金なんてないよ」
凛「母ちゃんからもらって来い。お前は……それよこせ」
  凛が女の子のくわえていた飴を取る。
女の子「あー、私のアメー」
凛「タダで芸を観ようなんざ、甘いんだよ」
男の子「なんだよ。姉ちゃんが勝手にやったんだろ。僕たちやってなんて言ってない」
凛「うっせー。ガキ!」
男の子「どうせ、その手に巻いてる包帯の中から花出したんだろ? それに浮いたのは糸でも使ったんだ」
凛「ちっ、最近のガキは生意気で嫌になるぜ」
女の子「えーん。私のアメー」
男の子「おい! アメ返せよ!」
凛「(男の子の頭をつかんで)いいからお前は、金か食いもん持って来い。いいな?」

〇 同・道
歩きながら、豆を見てため息をつく凛。
凛「ちっ! あのガキ、豆粒一個って……。三日ぶりの飯がこれかよ」
  大豆一粒を口に放り込んで食べる。
娘「ありがとうございましたー」
  蕎麦屋の娘が客を見送っている。
凛「おっと、情報収集、情報収集!」
  凛が娘の方に歩み寄っていく。
凛「なあ、ちょっといいか?」
娘「はい?」
凛「(鼻を動かし)うわ、いい匂いだな」
娘「(笑って)どうぞ、食べていってください。うちの蕎麦は町一番って評判なんですよ」
凛「本当か?」
  凛が懐から財布を出して中を覗く。
  三文しかない。
凛「(財布をしまいながら)……今度にしておく。で、話は変わるけど、最近、この街に旅芸人が来なかったか?」
娘「旅芸人ですか? ……見てませんね」
凛「ふーん。じゃあさ、旅人が集まりそうな場所ってあるか?」
娘「えーと……賭場、ですかね」
凛「(嫌な表情で)賭場……か」
娘「はい。この街は賭場が有名ですから」
凛「変な町だな。……でも、まあ、念のため見てみるか。その賭場ってどこだ?」
娘「それはですね……」

〇 賭場の近くの通り
  凛が辺りを見渡しながら歩いている。
凛「この辺のはずなんだけどな……」
  その時、男が二人、裏通りへ入っていく。
男1「早くしろ! 始まっちまうぞ!」
男2「新兵衛さん、大丈夫かな……」
凛「お? あそこか?」
  裏通りに入って行く凛。

〇 賭場
  新兵衛(16)と龍鬼(30)が向かい合っている。
  二人の目の前には盆茣蓙(ぼんござ)があり、その上にサイコロとザルで作られたツボが乗っている。
  新兵衛の隣には源八(48)が座っている。その後ろには大勢の町人。
  龍鬼の後ろに浩蔵(40)が座って、二人の様子を見ている。
源八「落ち着いていけよ、新兵衛」
新兵衛「はい、源さん」
町人1「こんなイカサマ賭博師なんか、やっちまえ!」
町人2「黒龍組は、この街から出て行け!」
  浩蔵がスッと立ち上がる。
浩蔵「それでは改めて、条件を確認させていただきますよ。この私、黒龍組組長、浩蔵が負ければこの街にある私の賭場を閉鎖し、賭けに負けた方々の証文も差し上げます」
  浩蔵が懐から束の証文を出す。
浩蔵「ただし、私たちが勝てば、この賭場をいただきます。あなたの家が代々守ってきたという、この賭場をね」
新兵衛「……(うなづく)」
浩蔵「私は経営者でありますが、賭博に関しては素人同然。ですから代役を立てさせていただきました」
  龍鬼をチラリと見て、ニヤリと笑う。
浩蔵「この……龍鬼にね」
  龍鬼の名前を聞いた町人たちが驚く。
源八「龍鬼? 伝説のツボ振りのか!」
  龍鬼の右手の甲に龍の刺青が彫ってある。
町人1「間違ねえ! あの右手の龍の刺青」
町人3「龍鬼って言えば、振った後のサイの目も自由に操るって噂だぜ……」
町人2「なんで、そんな奴がこの街にいるんだよ」
  不安そうな顔をする新兵衛。
浩蔵「一度受けた賭けからは逃げない。それが賭博師……ですよね?」
新兵衛「も、もちろんです!」
龍鬼「(馬鹿にしたように)くっくっく」
新兵衛「……(睨みつける)」
  町人たちの後ろから凛が入ってくる。
腕組をして壁にもたれ掛かりながら、新兵衛と龍鬼を見比べる凛。
浩蔵「勝負は半丁でいいでしょうか?」
新兵衛「賭け金が無くなった方が負け……ですね?」
龍鬼「それだと時間が掛かり過ぎるし、賭け金に差があるからな。君に不利だろう?」
新兵衛「それならどうするんです?」
龍鬼「互いに半丁を当てる。交互にサイを振り、それを五回行う。多く当てた方が勝ち。どうだ?」
新兵衛「……いいですよ」
凛「……(龍鬼をジッと見て)」
源八「お、おい。新兵衛!」
新兵衛「これは心理戦です。大丈夫。僕に任せてください」
龍鬼「(つぶやくように)心理戦ね……(ニヤっと笑う)先に俺からでいいか?」
新兵衛「どうぞ」
龍鬼がツボにサイコロを入れ振り、畳の上にバンと置く。
龍鬼「半か丁か?」
新兵衛「……半」
龍鬼がニィっと笑い、ツボをあげる。
サイコロの目は『一』と『三』。
源八「サンピンの半だ! やった」
龍鬼「次はあんたの番だ」
  龍鬼がツボを新兵衛に渡す。
  深呼吸し、目をカッと見開く新兵衛。
新兵衛「入ります」
  龍鬼が目を閉じる。
  鮮やかな手つきでツボにサイコロを入れて振り、畳の上にバンと置く新兵衛。
新兵衛「半か丁か?」
  スッと目を開く龍鬼。
龍鬼「シロクの丁」
新兵衛「……え?」
凛「……」
  壁にもたれかかっている凛が龍鬼をジッと見る。
龍鬼「気にするな。数当ては、ついでだ」
  新兵衛の頬から汗が一筋流れる。
  震える手でツボをあげる新兵衛。
  サイコロの目は『四』と『六』。
  見物者たちがざわめく。
町人2「シロクの丁だ!」
町人3「馬鹿な! なんでサイの目まで、分かんだよ」
源八「ど、どうせマグレさ。気にするな」
新兵衛「(震えながら)は、はい」
龍鬼「お互い当てたな。じゃあ、次は俺だな」
  龍鬼がツボを掴む。

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