【ドラマシナリオ】見えない終着駅④

○  渋谷・センター街
康平が行き交う人たちを見ながら歩く。
美咲がやって来て、康平に何かを言う。
康平は首を横に振り、美咲に何か言う。
美咲が肩をすくめる。

○  山手線・東京駅
康平と美咲が並んで歩いている。
ホームで電車を待っている人たちを見て回っている。
美咲が肩を落とした人を見つける。
美咲「やっと、救助デビューの時が来たわ」
康平「え?」
美咲が立ち上がり、肩を落とした人のところまで歩く。
康平も慌てて後を追う。
美咲が、その人の肩を叩く。
美咲「自殺するなら、電車は止めなさい」
康平「……美咲さん、趣旨、違ってる」
振り向くとそれは、啓太だった。
啓太「あれ? 姉さんじゃないっすか。……なんでここに?」
啓太は虚ろな目をして、明らかに疲れ切った顔をしている。
康平「啓太。今日は京葉線の方だよ?」
啓太「え? あっ……。すんませんっす」
美咲「どうしたの? 随分と疲れてるわね」
啓太「いやあ。最近、寝れなくって」
康平「大丈夫? 今日はもう、帰ったら?」
啓太「いや! 平気っす! 今日も、追い詰められた人が、俺を待ってるっすよ!」
ヨロヨロと揺れながら歩いていく啓太。
美咲「いやいや。あんたの方が、追い詰められた顔してるって……」
康平「(啓太の後姿を見て)……」

○  山手線・池袋駅
ホームのベンチに並んで座っている、康平と美咲、啓太。
啓太は腕を組んで、転寝をしている。
康平と美咲はホームを見ている。
不意に、啓太のいびきが大きくなる。
美咲「(呆れて)ったく、何しに来てるんだか」
康平「啓太?」
康平が優しく啓太の肩を叩く。
啓太「(起きて)すいませんっす。俺、寝てないっすよ!」
康平「今日は、もう帰った方がいいよ」
啓太「……けど」
ホームに電車がやってくる。
美咲「寝るなら、家で寝た方がいいって」
啓太「……」
電車の扉が開き、待っていた人たちが入っていく。
康平「ねえ、啓太。何か、悩んでることがあるんじゃない? なにか、大変なことがあったら、言ってよ。手伝うから……」
その時、電車の中に入っていく坂下の姿を見つける。
康平「(坂下を指差して)美咲さん!」
美咲「尾行するよ!」
康平と美咲が立ち上がる。
その瞬間、康平の腕を掴む啓太。
啓太「康平さん! 実は、俺っ……」
康平「ごめん、啓太。後で必ず、話聞くから」
康平と美咲が電車に駆け込んでいく。

○  渋谷・雑居ビル内
十個の机が向かい合わせの状態で置いてある。
しかし、机には坂下を含め、女性一人と二十代中盤の青年しか座っていない。
坂下が電話の対応をしている。
坂下「すぐに、代わりの者を連れて行きますので! ……ええ、二日ほど貰えれば……いえ、明日っ! ……もしもし?」
坂下がため息をついて、受話器を置く。
女性「社長。田原さんが、今月いっぱいで辞めたいそうです」
坂下「ええ!? ちょっと待ってくれよ。今のうちの状況、わかってるの?」

○  同・ビルの前
窓から中の様子を見ている康平と美咲。

○  同・スクランブル交差点
康平と美咲が並んで歩いている。
美咲「人材派遣会社ねえ。ホームページくらい作ればいいのに」
康平「特殊な技能を持った人を派遣してるみたいだからね。直接営業に行って売り込むんじゃないかな」
美咲「要領が悪いだけなんじゃないの? 会社も小さいし、社長本人が営業に回ってるくらいだしさ」
康平「でも、そのおかげで見つけることができたから」
美咲「問題はここから、どうするか、よね」
康平「あんまり大事にはしたくないんだけど」
美咲「あんたねえ。父親の仇でしょ。仕返ししてやるって気概でいきなさいよ」
康平「……そう言われても」
美咲「まあ、勝手に自爆しそうだけど」
康平「……」
康平と美咲が駅に入っていく。

○  大塚駅(深夜)
終電が終わり、ほとんど人がいない中、康平と美咲が改札から出てくる。
その様子を物陰から見ている人影(金田)。
駅を出て、並んで歩く康平と美咲。
康平はスマホで電話をしている。
康平「こっちも終了しました。報告書はいつも通り、明日、事務所に寄ってから提出します。……はい。お疲れ様でした」
康平が通話ボタンを押す。
康平「ふう……」
美咲「今日も、お疲れ」
康平「美咲さんこそ。疲れ溜まってるんじゃない?」
美咲「んー。まあ、ちょっと」
美咲が伸びをするとパキパキと骨が鳴る。
康平「あまり、無理しないでね。活動は休んでも大丈夫だからさ」
美咲「平気だって。どうせ、早く家に帰ったって酒飲んでるだけなんだから。活動してる方が、健康的」
康平がクスリと笑う。
美咲「それにしても、啓太、どうしたんだろうね。あいつが三日も連続で来ないなんて、珍しいんじゃない?」
康平「明日、家に行ってみるよ。なんか、悩んでるみたいだったし」
美咲「あんたこそ、あんまり無理すんじゃないわよ」
康平「(微笑んで)大丈夫だよ」
T字路に差し掛かり、立ち止まる二人。
美咲「なんか、いつも遠回りさせちゃって悪いね」
康平「(首を振って)大した距離じゃないし」
美咲「気を付けてね。じゃあ、お休み」
康平が笑みを浮かべ、右側に曲がる。
康平の後姿を見送ってから、美咲が左側に曲がろうとする。
その時に、金田とすれ違う美咲。
振り返って、金田の方を見る。
美咲「……」

○  通り
街灯がほとんどなく、人通りもない。
その中を一人歩く康平。
金田「おい!」
振り向く康平。
金田が睨みつけてきて、その手にはナイフが握られている。
金田「……お前のせいだ」
康平が身構える。
金田「お前のせいで、家族が……」
康平「お、落ち着てください」
金田「全部、お前のせいだ―!」
金田がナイフを構えて、走ってくる。
慌てて避ける、康平。
だが、その拍子で転んでしまう康平。
金田「死ねー!」
金田がナイフを振り上げる。
康平が腕で顔を防御する。
金田「がっ!」
金田がナイフを落とし、頭を抱えて、しゃがみ込む。
金田の後ろには美咲が立っていて、バックを握り締めている。
美咲の体は少し震えている。
美咲「康平、大丈夫!?」
康平「美咲さん……」
美咲「なんか、おかしな気配がすると思って、戻ってきてみれば……」
金田「うう……くそっ」
金田が四つん這いでナイフを探している。
美咲「えいっ!」
金田の顔面を蹴り上げる美咲。
金田「ぎゃっ!」
仰向けに倒れ、悶絶する金田。
康平「美咲さん、やりすぎじゃない?」
美咲「せ、正当防衛!」
康平「いや、過剰防衛だと思う」

○  同
包丁を奪われ、肩を落としている金田と向かい合う、康平と美咲。
金田「……私は一世一代の大博打をするため、裏のカジノで勝負したんだ。家はもちろん、家族……娘すらも担保にして。だが、私はその勝負に負けた。私は……すべてを失ったんだ」
金田が涙ながらに話す。
美咲「自業自得じゃない。それで、こっちを恨むなんてお門違いでしょ」
金田「違う! 私には金を返す、最後の望みがあったんだ! ……それを、お前らに潰された」
康平「……保険金」
金田「そうだ! 私があのとき、死ぬことができたら、家族は……あんな目に合わなくて済んだんだ!」
康平「……」
美咲「そんなの、逆恨みじゃない。あの日、飛び込みを止めたところで、別の方法で死ねばよかっただけでしょ!」
金田「ど、どうせ、お前らにはわからないんだ。死にたくないのに、死ななきゃいけない人間の気持ちなんて」
康平「!」
金田「せっかく、あのとき、覚悟ができたのに……。あのときなら、死ねたのに……」
美咲「馬鹿じゃないの。大体、あんたが、博打なんてするから……」
金田「黙れ! 何も知らないくせに!」
康平「……」
金田「私だって、あんな勝負……」
金田が康平を睨む。
金田「お前らは、人を助けてるなんて、偽善で悦に入ってるかもしれないけどな! 結局、お前らのやってることは人の人生を弄んでるだけだ!」
康平「!」
金田「絶対に、許さないからな。死ぬまで……いや、死んでも、絶対に。家族全員でお前を恨み続けてやる」
金田が康平たちに背を向け、歩き出す。
美咲「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」
美咲が金田を追おうするが、康平がその肩を掴んで、首を横に振る。
康平「……」
美咲「……康平」

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