【シナリオブログ】龍は左手でサイを振る②

〇 同
新兵衛「丁!」
龍鬼がツボをあげるとサイコロの目は『一』と『四』。
龍鬼「(ニッと笑い)シッピンの半」

〇 同
スッと目を開く龍鬼。
龍鬼「ニゾロの丁」
新兵衛がツボをあげるとサイコロの目は二つとも『ニ』。
新兵衛「ニ……ニゾロの丁」
×    ×     ×
暗転
×    ×     ×
新兵衛「(顔面蒼白)……」
スッと目を開く龍鬼。
龍鬼「これで俺が当てれば、勝ちが決定するのだが……」
新兵衛は震えながらうつむいている。
龍鬼「(ニッと笑い)サンゾロの丁」
新兵衛がビクリと震える。
浩蔵「どうしたんです? さっさと開けてくださいよ」
新兵衛が震える手でツボをあげる。
サイコロの目は二つとも『三』。
見物者たちがどよめく。
浩蔵「はっはっは! これで今日から、この賭場は私のもの。黒龍組のものだ!」
膝の上で拳を握り締め震えている新兵衛。
浩蔵「さっさと出て行かねえか!」
浩蔵が新兵衛を殴りつける。
凛「(新兵衛を見て)……」
新兵衛は悔しそうに唇を噛んでいる。
凛が興味なさそうに、賭場から出ていく。

〇 街道
どんよりと曇っている空。
街を歩く凛。
噂話をする町人たち。
町娘「新兵衛ちゃんが負けったって」
女1「相手は龍鬼っていう伝説のツボ振り師だったみたいよ」
男1「いくら新兵衛の腕が良いっていっても、勝つのは無理だったんだ」
男2「この街は終わりだ。黒龍組に仕切られちまう」
女2「新兵衛ちゃん、馬鹿なこと考えなきゃいいけど……」
黙って道を歩く凛。
すると、ポツポツと雨が降ってくる。
凛「ちっ!(辺りを見回す)」
くたびれた廃屋(新兵衛の家)が見える。
凛「お! 廃屋か。天の助け!」
廃屋の方へと走って行く凛。

〇 新兵衛の家・玄関
大降りの雨。
ずぶ濡れの凛が玄関先に立っている。
戸に手をかけるが、開かない。
鍵がかかっている。
凛「あん? 鍵がかかってやがる。廃屋のくせに生意気だな」
戸に蹴りを入れると、戸が壊れる。
凛「よし」
戸を引き剥がして、中に入っていく。

〇 同・居間
全身びしょ濡れの凛が入ってくる。
凛「(くしゃみ)うう、風邪ひいちまうぜ」
凛が着物を脱ぐ。
下着姿の凛。胸にはサラシを巻いている。
着物を絞り、柱に着物を掛ける。
居間の中を見渡す凛。
ほとんど物が無いが、綺麗に掃除されている。
凛「結構いいところじゃねえか。よし、しばらくはここに住むか」
その時、玄関の方から声がする。
新兵衛の声「ああ! 玄関の戸が!」
凛「ん?」
ドタドタと走ってくる音。
新兵衛が居間に入ってくる。
新兵衛「な、なんですか、あなたは!」
凛「(振り向いて)あん?」
新兵衛が凛の姿を見て驚く。
新兵衛「な、なんて格好してるんですか!」
凛「ん?(自分の格好を見る)ああ。服が雨で濡れちまってな。干してる最中だ」
新兵衛「ちょ、ちょっと待っててください」
新兵衛が走って居間から出ていく。
凛「……慌ただしい奴だな」

〇 同
凛が男物の着物を着ている。
凛「おお! 良い服だな」
新兵衛「すいません、父さんの服で。女性のものがなくて……」
凛「悪ぃな、こんな良い物もらっちまって」
新兵衛「あげるとは言ってません!」
凛「……ところで」
新兵衛「なんですか?」
凛「お前、誰だ?」
新兵衛「こっちが聞きたいですよ!」
凛「私は凛。この家の者だ」
新兵衛「……え?」
凛「ったく! 勝手に人の家にあがりこんできやがって。強盗かと思ったぜ」
新兵衛「いやいや! ここ、僕の家ですよ」
凛「ああん? 私が先に見つけたんだぞ!」
新兵衛「先に見つけたって……何言ってるんですか! この家は代々受け継がれてきた、僕の所有物です」
凛「この廃屋が、か?」
新兵衛「失礼なこと言わないでください! そりゃ、少し、ガタはきてますけど……」
風で家がギシギシと音を立てる。
天井から雨漏りしてきている。
凛「……少し、か?」
新兵衛「そ、それより、凛さん、どうやってこの家に入って来ました?」
凛「ん? 普通に。玄関から。戸を破って」
新兵衛「そういうのは普通って言いません!大体、何で鍵がかかっているのに、家に入ってくるんですか!」
凛「(面倒くさそうに)あー、分かった。じゃあ、ここはお前の家ってことでいいや」
新兵衛「でいいやって……」
凛「なあ、それより何か食いもんねえか? 腹減ってんだ」
新兵衛「……話が噛み合わない」
がっくりとうなだれる新兵衛。

〇 同(朝)
スズメが鳴きながら、庭を跳ねている。
縁側で座って、芸の練習をしている凛。
右手から花や花札などを出している。
そこに新兵衛がやってくる。
新兵衛「おはようございます、凛さん」
凛「おお、新兵衛。今日の朝飯はなんだ?」
新兵衛「お隣さんからいただいた、大根の煮物ですよ」
凛「またかよ。たまには、贅沢なもんでも食わせろよ」
新兵衛「凛さんが家賃を払ってくれるっていうなら、いいですよ」
凛「ちっ、しけてやがんな」
新兵衛「それじゃ、支度をしてきますね」
新兵衛が歩き出す。
凛「新兵衛。お前、これからどうするんだ?」
新兵衛「え?(立ち止まる)」
凛「……」
×    ×     ×
凛の回想。
賭場。
新兵衛が膝の上で拳を握り締め震えている。
×    ×     ×
凛「いや、なんでもねえ。さ、飯、飯」
凛が立ち上がり、歩き出す。

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