【シナリオブログ】妖怪退治は放課後に 第2話⑥
- 2018.07.29
- シナリオ本編
○ シーン 14
夜。鈴虫と蛙が鳴いている。
そこに、ゴンという殴る音が響く。
和馬「痛い! どうして、殴るんですか!」
夏姫「お前な……。困ったことがあるなら、相談しろって言っただろ」
和馬「いや、夏姫先輩に心配かけたくなかったんですよ」
夏姫「(もう一回殴る)お前が、俺の心配するなんざ、千年早ぇ」
和馬「ううぅ……。千愛先輩、どうして夏姫先輩を呼んだんですか?」
千愛「今回は、人手がいるのよ」
和馬「だからって、こんな危険なことを……」
千愛「大丈夫よ。夏姫の服と手には、特別な符を貼り付けてるから。それで妖怪の攻撃は、ほとんど無効できるし、攻撃力も上がってるわ」
和馬「……その符。僕には、ついてないんですけど?」
千愛「高いのよ。値段が」
和馬「……」
夏姫「まったく、困ってるなら早く言えってんだ。こんな楽しい……いや、大変なことになってるなら、すぐに手を貸すのによ」
和馬「でも先輩、幽霊は嫌いって言ってたじゃないですか」
夏姫「馬鹿野郎! 嫌いなのは、幽霊だけだ。妖怪は、全力で殴れるから、逆に好きなくらいだっ!」
和馬「……悔しい。少し、格好良いと思っちゃいましたよ」
千愛「救いようがないわね」
その時、不吉な足音が、聞こえてくる。
和馬「うわっ、千愛先輩、妖怪が群れをなして、来ましたよ」
夏姫「来た、来た。なあ、千愛、あの妖怪ども、もう襲ってもいいのか?」
和馬「夏姫先輩、凶暴すぎて、どっちが妖怪か分らない状態になってますよ」
千愛「まだよ。もう少し待って。……和馬くん、もう学園内には誰もいないのよね?」
和馬「はい。何回も確認しました。少なくても、東棟には、誰もいません」
千愛「そう。……それなら、この場にいるのは、私たちと犯人だけってことね。うまくあぶり出せるかしら」
和馬「……あっ、見てください。光の道が消えましたよ。これって……」
千愛「そう。妖怪が集まったら、霊力のエネルギーの道を消す。いきなり、食料が無くなった妖怪はどうすると思う?」
和馬「えっと、それは……諦めて帰るか、他に食べ物を探す……って、まさか」
千愛「そう。ほとんどの妖怪は、元の場所に帰るわ。でも、一部の妖怪は、瑠璃の球の力に導かれる。もしくは霊力の強い人間を襲う」
妖怪1「ギギギ?」
千愛「こっちに、気づいたようね」
和馬「うわぁ、来たぁ」
妖怪たちが、集団で襲いかかってくる。
妖怪たち「ギギギギィィィー」
夏姫「おらおらおらぁー」
夏姫と妖怪のバトルが繰り広げられる。
夏姫「よし、いいぞ。やっぱり、人間とは違うな。戦い甲斐があるぜ!」
夏姫の圧勝のムード。
和馬「……夏姫先輩一人で、全部倒しちゃいそうですね」
千愛「高い符を買う必要、なかったわね」
その時、地を震わすような、ズンズンという足音が聞こえてくる。
和馬「な、なんですか! あのデカイ、毛むくじゃらの巨人は!」
千愛「なっ! ……あれは、悪路王」
和馬「悪路……王?」
千愛「元は蝦夷の大酋長だったの。岩手県の山で暴れまわって、坂上田村麻呂に首をはねられたけど、怨念が強くて、妖怪にまでなったって話よ」
和馬「強そうですよ……」
千愛「随分と、古い、厄介なものを呼び出したものね。今日の装備じゃ、分が悪いわ」
夏姫「なんだぁ? 図体がでかけりゃ、勝てるってか? 馬鹿言ってるんじゃねえぞ」
夏姫が悪路王に向って走る。
千愛「夏姫、ダメよ!」
悪路王が、夏姫を巨大な腕で殴りつける。
夏姫「ぐっ! うわっ」
和馬「夏姫先輩!」
夏姫が吹き飛ばされる。
それを見て、和馬が飛び出す。
千愛「和馬くん、危険よ!」
和馬「先輩、大丈夫ですか? さ、立って」
夏姫「ば、馬鹿。和馬、あぶねえ!」
悪路王が和馬たちの方に迫る。
夏姫「和馬、逃げろ! 俺に構うな」
和馬「嫌です」
夏姫「命令だ!」
和馬「聞けません。僕は……もう、あの時の僕じゃないんですから」
夏姫「あの時?」
悪路王の足音が、ドンドン近づいて来る。同時に、手塚が、物陰から飛び出す。
手塚「待て! 話が違う。夏姫には、手を出さない約束じゃないか」
和馬「……手塚先輩?」
手塚「襲うのは、芹澤だけって話だろ。どういうことだ!」
夏姫「……学?」
和馬たちのところに、千愛が走りよってくる。
千愛「ごめんなさい、和馬くん。少しだけ封印を解かせてもらうわね」
和馬「え? 封印?」
千愛「首筋に紋印を書くから、動かないで」
和馬「先輩の血で? って、何か体が熱くなってきましたよ」
千愛「よし、これでいいわ。和馬くん、目をつぶって、私の両肩に手を添えて。早く!」
和馬「え? あ、はい」
千愛「……斬」
悪路王が、断末魔を上げて、木っ端微塵に砕け散る。
和馬「うわ……。熱が一気に引いた。それになんか、一気に疲れが……」
千愛「霊力を消費したからよ。それより、うまく犯人をあぶり出せたわね」
手塚「うう……(うな垂れる)」
和馬「手塚先輩が、犯人だったんですか?」
夏姫「おい、学。どういうことだ?」
手塚「……」
和馬「手塚先輩が、どうして僕を……」
手塚「……」
千愛「あなただけじゃないわね」
和馬「え?」
千愛「和馬くんを狙った人物と、百鬼夜行を仕組んだ人物は別よ。恐らく、別の黒幕がいるはず」
夏姫「おい、そうなのか?」
手塚「……」
夏姫「学。お前、変わっちまったな。昔は、そんな奴じゃなかっただろ」
手塚「変わったのは、どっちだよ! 夏姫、お前は、俺の後をずっと着いてきていた。俺、約束しただろ。お前をずっと守ってやるって。それなのに、どうして、俺の前からいなくなったんだよ!」
夏姫「……学」
手塚「ずっと探してたんだ。あの事件の後、お前が引っ越して……。どこに行ったか、調べて、会いに行こうとしたんだ」
夏姫「あの頃は、何回も引っ越してからな」
手塚「もう諦めかけてた。そんな時、偶然、お前とこの学園で会えた。……運命だと思ったよ。それなのにお前は、まるで俺を避けるようにした」
夏姫「……それは」
手塚「それで、俺の代わりに、お前の隣には、こいつ……芹澤和馬がいたんだ」
和馬「手塚先輩……」
手塚「どうしてだ? なんで、こいつじゃないとダメなんだ。どうして、俺じゃダメなんだよ」
夏姫「……」
手塚「俺の方が、ずっと役にたつ。俺の方が、ずっとお前のことを知ってるんだ」
夏姫「それは、違うぞ」
手塚「え?」
夏姫「(笑って)和馬はすごく役にたつ奴だ。こうみえても、結構、根性あるんだぜ、こいつ」
和馬「……夏姫先輩」
夏姫「学、避けるようなことして、悪かった。昔の俺と、決別したかったんだ。でも、もし、お前が許してくれるなら、また、昔のようになりたい」
手塚「……夏姫」
夏姫「ちっ、恥ずかしいな。さ、俺はもう帰るぞ」
夏姫が歩き出す。
千愛「いいの? 一発くらい殴らなくて」
夏姫「これは、学と和馬の問題だ。あとは、和馬に任せるよ」
夏姫が去っていく。
和馬「……夏姫先輩は、僕の憧れなんです」
手塚「え?」
和馬「憧れで、そして、目標なんです」
手塚「……」
和馬「僕は、小さい頃から、ずっと争いごとから逃げてきた。目のまで、苛められている人がいても、目をそらして来た。そんな時です。夏姫先輩に出会ったのは。先輩は、どんなに不利な状況でも、逃げないで立ち向かっていった。そんな姿を見て思ったんです。格好良いなって。ああなりたいって」
手塚「……そうか」
和馬「僕は、まだ夏姫先輩と対等に歩けません。だから、対等に肩を並べて歩きたい。ただ、それだけなんです」
手塚「……芹澤くん」
和馬「僕も帰ります。(歩き出し、立ち止まる)あっ、僕以外の生徒を巻き込まないようにしてくれて、ありがとうございました」
再び、歩き出す和馬。
手塚「……完敗だ。器が違うな」
千愛「そうね」
いきなり、千愛が手塚の頬を叩く。
千愛「みんな、お人よしばっかりなんだから。これくらいの罰がないと、あなたも、二人と顔を合わせられないでしょ」
手塚「……あんたも、お人よしだな」
千愛「言っておくわ。今度、私の所有物に手を出したら、霊体も残さないから」
手塚「ふふ。夏姫よりも、迫力があるな」
千愛「あら。あんな、人外みたいなのと比較されるなんて、心外ね」
○ シーン 15
翌朝の聖将学園。生研の部室。
ドアが開き、和馬が入ってくる。
和馬「おはようございます」
夏姫「おう! 昨日は大変だったな」
和馬「先輩こそ、大丈夫ですか?」
夏姫「ああ。あれくらい、平気だ」
和馬「そうですか。良かった」
夏姫「和馬。……俺な」
和馬「なんですか?」
夏姫「俺……家族全員、死んでんだ」
和馬「……え?」
夏姫「俺以外の家族は、みんな殺されたんだ」
和馬「殺された?」
夏姫「……その頃の記憶はあまり、残ってねぇんだけどな。きっと熊か、何かだと思う。山で、いきなりなんかに襲われたんだ」
和馬「……」
夏姫「……俺さ、誰も守れなかったんだ。大好きだった、家族を、誰一人……」
和馬「夏姫先輩……」
夏姫「だから、強くなろうって決めた。今度何かあった時、絶対に全員助けるって」
和馬「……」
夏姫「いや、これは建前だな。……本当は、弱い自分を忘れたかっただけなんだ」
和馬「……」
夏姫「和馬。お前が、俺に憧れてるのは、知ってた。だから、この話をしたら、幻滅されるのが怖かったんだ。お前を使って、自分は強い存在、憧れるほどの存在だって証明し続けたかっただけなんだ。……悪いな。今まで、黙ってて」
和馬「……変わりませんよ」
夏姫「え?」
和馬「僕は、今の夏姫先輩に憧れてるんです。夏姫先輩は、僕の目標。それは、絶対に変わりません」
夏姫「(笑って)そっか。……よし、じゃあ、さっそく学園内の見回りでもいくか!」
和馬「え? ちょ、ちょっと待ってください。僕、今来たばかりでって、うわぁー」
夏姫にズルズルと引きずられていく和馬。
和馬(N)「その時の僕は、すっかり忘れていた。この事件は、まだ終わっていないということに……」
おわり
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