【長編シナリオ】人生オークション③

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○  裕介のアパート・部屋
私服姿の裕介がベッドに寝転がる。
裕介「あーあ、やってらんね」
ポケットから携帯を出して番号を押す。
裕介「あ、敏也? 飯食いに行かね?」
敏也の声「仕事中」
ブツッと電話を切られる。
電話を放り投げる裕介。
裕介「ホント、やってらんね」

○  ファミレス(夜)
裕介と武史が向かい合って座っている。
裕介「最近、敏也、付き合い悪いよな」
武史「まあ、就職したから仕方ないって」
裕介「武史は? どうなの? 前に職決まりそうって言ってたじゃん」
武史「今のところ、まだ契約社員だよ。でも、もう少しで社員になれそう」
裕介「……なんだよ。お前もかよ。裏切り者」
武史「裕介はどうなの? 最近、バイトもしてないみたいだけど」
裕介「うるさいな。放っておけよ」
武史「もう少し考えた方がいいよ。裕介、時々、無茶するからさ。……大学のことだって」
裕介「はあ? 説教かよ? お前、自分はちゃんと大学卒業したからって自慢か?」
武史「いや、そうじゃなくってさ」
裕介「もういい。お前と話してても楽しくねえわ」
裕介が立ち上がり、ポケットから財布を出す。
最後の千円札を出して、歩き始める。

○  裕介のアパート・部屋
パソコンに向かっている裕介。
裕介「くそ、もう売る思い出なくなってきた」
チラリと桜井との写真が目に入る。
ブンブンと頭を横に振る。
その時、携帯に電話がかかってくる。
裕介「なんだよ、こんな時間に」
敏也の声「裕介……ごめん。来週の温泉旅行なんだけどさ、行けなさそう」
裕介「はあ? 元々、お前が言い出したことだろ!」
敏也の声「だから、ごめんって」
裕介「もういい」
裕介が携帯を切る。
裕介「ふざけんなよ……」
怒った顔をした裕介がパソコンの画面に向かう。

○  街中・公園横の通り
パチンコ屋から裕介が出てくる。
歩きながら、携帯を取り出し、電話を掛ける。
呼び出しコールが長く続き、留守番電話に切り替わる。
通話を切る裕介。
再び、違う番号にかけるが、またも電話に出ない。
不思議そうに首を傾げながら携帯をポケットの中にしまう。
いつもの牛丼屋に入っていく裕介。
向かいの公園のベンチには木原が座っている。

○  同(雨)
パチンコ屋から出てくる裕介。
傘をさし、歩きながらポケットから携帯を取り出す。
電話を掛けるが、今度は話し中のアナウンスが流れる。
一度、通話を切り、違う番号にかける。
だが、同じように話し中のアナウンスが流れる。
裕介「……え?」

○  同
パチンコ屋から慌てた様子で出てくる裕介。
辺りを見渡してから、走る。
牛丼屋まで走り、店の中に入っていく。

○  牛丼屋
店内を見渡す裕介。
カウンターに座る敏也と武史を見つける。
二人に歩み寄る裕介。
裕介「お前らさ、なんの嫌がらせだよ」
裕介に話しかけられた敏也と武史はポカンと裕介を見上げる。
裕介「携帯も、着信拒否してるだろ!」
敏也と武史が顔を見合わせる。
敏也「武史の知り合い?」
武史「いや、違う」
裕介「は? いやいや。冗談にしてもエグイって。やめろよ」
敏也「もしかして、悪戯電話してるのお前? あれ、なんのつもり?」
武史「誰から、俺らの番号聞いたの?」
裕介「お前ら、ふざけんなって!」
そこに店員がやってくる。
店員「あの……お客様。他のお客様のご迷惑になるので……」
敏也「だってさ。俺たちも迷惑だから、出てってくんない?」
裕介「……敏也」
がっくりと肩を落とす裕介。

○  パチンコ屋・店内
休憩所で敏也と武史、そして見知らぬ男(34)が談笑している。
敏也「でさ、そいつ肩を落として店から出て行ったんだよ。キモかったよな、武史?」
武史「何がしたかったんだろ?」
男「最近、そういう奴が多いみたいだぞ。見知らぬ奴が話しかけてくるんだって」
敏也「確か、前にも見たよな、変なカップル。いつもの牛丼屋でさ」
武史「……そういえば、あったね。そんな事」
敏也「お前も一緒だったよな?」
男「……そうだっけ?」
敏也「あれ? 違ったか」
そこに裕介が歩み寄る。
男の前に立つ。
裕介「ちょっと、話があるんですけど」
敏也「あ、お前! この前の……」
武史「しつこいね。警察、呼ぶ?」
男「いや、いいよ。ちょっと待ってて。すぐ戻る」
裕介と男が店の外へと歩く。

○  同・駐車場
裕介が男に詰め寄る。
裕介「あなたが俺の思い出を買った人ですね」
男「本当はこうやって、買った人間に干渉するのは禁止なんだけどね。まあ、今回だけは大目に見てあげるよ」
裕介「思い出、返してくれませんか? 金なら戻します」
男「やっぱり。そう言うと思った」
裕介「俺、こうなると思ってなくて……。あいつら、大事な友達なんです。だから、お願いします!」
男「無理だよ」
裕介「……え?」
男「説明、読んでないの? 思い出って、中古で売ったり買ったりできないんだよ」
裕介「……」
男「あのオークションは人生を売るんだ。君の人生は一回きり。だから、思い出も一回きりなんだよ。売ってしまったら、それっきりさ」
裕介「そんなっ!」
男「言っておくけど、二度と俺たちの前に現れるなよ。次は通報するから」
裕介「待ってくれよ!」
裕介が男の肩を掴む。
裕介「頼むよ! 俺、あいつらしか友達いないんだ!」
男「それを、金で売ったんだ?」
裕介「いや、そうじゃなくって。あれは少しむしゃくしゃしてて……。とにかく、こんなことになるなんて思ってなかったんだ!」
男「もう、遅いよ。頑張って、また友達作るんだね。……あ、君も買ったら? 思い出」
男が裕介の手を振り払って歩いていく。
裕介「……」

○  裕介のアパート・部屋(夜)
裕介が虚ろな目をしてゲームをしている。
周りには弁当の空箱やカップ麺の容器が多数転がっている。
ため息をついて、コントローラを放り捨てる。
画面ではプレイヤーが敵にやられて『ゲームオーバー』という文字が出る。
立ち上がって、ベッドの上に寝転がる。
裕介「ダりぃ……」
突如、パッと部屋の電気が消える。
裕介「え?」
起き上がって、部屋を見渡す。
ゲームやテレビ、そして冷蔵庫の電源も切れている。
裕介「……?」

○  同
ブレーカーを見上げる裕介。
ブレーカーは落ちてない。
裕介「あっ! 電気代払ってねーや」

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