【シナリオ長編】病人パパヒーロー!足立一真③

○  警察署・刑事課
机に突っ伏している一真。
ポンと肩を叩かれ、顔を上げると、大和田が立っている。
牛乳瓶を一真に渡す大和田。
大和田「公務執行妨害は、ちょっとやり過ぎたかもな」
一真「死ぬ思いしたんですよ」
大和田「だけど、あいつは市民に人気があるからな。今も、署に苦情の電話が殺到してるみたいだぞ」
一真「俺は……ただ、仕事をしただけです」
大和田「仕事ねぇ……」
一真「大体、素人がしゃしゃり出るのが悪いんです。被疑者を捕まるのは俺たち、警察の仕事ですよ」
大和田「なあ、一真。俺たちの仕事は犯人を捕まえることじゃない。市民を守ることだ。……違うか?」
一真「……」
大和田「俺はな。その仕事でさえ、別に警察しかやっちゃいけないとも思ってない。誰だっていい。市民が守れればな」
一真「……そんな考えだから、ヒーローなんかに、出し抜かれるんです」
大和田「はっはっは。違いない」
一真「爆弾魔の方は、何か吐きました?」
大和田「未だに黙秘を続けているよ」
一真「動機は何なんですかね?」
大和田「愉快犯の線で詰めてるよ。怨恨にしては、爆弾が小型だし、設置された場所も人が集まる場所から微妙に離れてる」
一真「駅の爆弾も、同じでしたよね?」
大和田「怪我人は出たが死人が出てないのが救いだな」
一真「なるほど。愉快犯ぽいですね」
大和田「いやー、それにしてもあの病院のおかげで助かったよ」
一真「病院……ですか?」
大和田「爆発した現場には、子供を合わせて、約二十人いたんだ。その人数を全部引き取ってくれたんだから、大したものだよ」
一真「どこの病院ですか?」
大和田「多条大学病院だよ。あの病院、前の院長が不祥事やらかして、患者が随分と減ったみたいだが、今の院長になってから評判を取り戻したみたいだ」
一真「あそこは、院長自ら診察してますからね。いい病院だと思いますよ」
大和田「なんだ、行ったことあるのか?」
一真「ええ。前に一度」
大和田「あ、そうだ。ヒーローの日野なんだが、さっき釈放されたぞ」
一真「……そうですか」
大和田「取引したんだろ? 何を聞いたんだ?」
一真「動機とか、その辺、色々ですかね」

○  警察署・取調室(一真の回想)
一真と日野が向かい合って座っている。
日野「花粉のアレルギー反応による、副作用みたいなものかな」
一真「花粉症で超能力に目覚めたってことか」
日野「だから、花粉が飛ぶ、この時期しかヒーローができないんだ」
一真「……どうりで」
日野「動機はストレス解消。……会社では怒られてばっかりだからさー」
一真「で? 仲間とかいるのか?」
日野「……どちらかと言うと、同じ趣味友って感じかな」
一真「どうでもいいけど、そいつらにも、ヒーローを辞めるように言っておいてくれ」
日野「いやー。無理だと思う。別に私がリーダーってわけじゃないし、みんな結構、自由に動いてるし」
一真「……」

○  商店街
野次馬などが集まり、騒がしい。
『KEEP OUT』の黄色いテープ
をくぐる一真。
警察官と話している大和田に駆け寄る。
一真「また爆弾ですか?」
大和田「これで単独犯の線が消えたな」
一真「模倣犯という可能性は?」
大和田「ない。形状が全く同じだからな」
一真「でも、よく、事前に見つけることができましたね」
大和田「あの子のおかげだよ。通報してくれたんだ」
一真「あの子?」
大和田「ほら、探偵の」
大和田が親指で差した方向には、マスクをした詩歩が立っている。
一真「(睨みつけて)……」
大和田「良かったよ。今回は爆発の前に見つけられて。おかげで怪我人がゼロだ」
一真「でも、それってあの人の手柄になるんですよね?」
大和田「おいおい。何を言ってるんだ。誰の手柄とか関係ない……」
一真「ダメですよ。犯人は警察が……俺が捕まえるんだ」
一真が詩歩の方へ歩く。
大和田「お、おい、一真?」
詩歩の前に立つ、一真。
一真「一般人が、あまりでしゃばるな」
詩歩「……」
詩歩は興味なさそうに、歩き出す。
一真「(ムッとして)……」

○  林
くしゃみをしながら、花粉を集めて瓶に入れる一真。
一真「……俺がやる。俺がヒーローになってやるんだ」

○  警察署・刑事課
一真が新聞を見ている。
新聞には『警察お手柄』という記事で、笑顔の一真が写っている。
大和田がやって来て、後ろから新聞を覗き見る。
大和田「おお。記事になってるな」
一真「三面ですけどね」
一真が振り返り、苦笑いする。
大和田「まあ、警察が犯人を捕まえるのは当たり前だからな」
一真「(面白くない)……」
大和田「ああ、あと、いくら犯人だからって怪我をさせたらいかんな」
一真「……捕まえる際に抵抗したので」
大和田「なにも全治一か月の怪我を負わせることないだろ。相手は置き引き犯だぞ」
一真「犯罪者は犯罪者です」
大和田「まったく。最近のお前、どうしちまったんだ? 肩に力入り過ぎてないか?」
一真「それより、捕まえた爆弾犯、何かしゃべりました?」
大和田「いや、今のところ、ずっと黙秘だ」
一真「そう……ですか」

○  通り
男が必死に自転車を漕いでいる。
それを走って追う一真。
一真「待ちやがれっ!」
男「ひー!」
一真が懐から、花粉の入った瓶を取り出し、蓋を開けて花粉を吸いこむ。
一真のスピードが一気に加速し、自転車に追いつく。
一真「おらあー!」
自転車に蹴りを入れると、自転車が大破する。
自転車に乗っていた男も地面をゴロゴロと転がる。
一真が男の手に手錠をかける。
一真「自転車泥棒の現行犯で逮捕する」
誇らしげに笑う一真だったが、大きくくしゃみをする。

○  足立家・リビング
一真がリビングに入ってくる。
一真「ただいまー」
雄一が駆け寄ってくる。
雄一「パパ、お帰りなさい」
一真が顔を上げると、テーブルを囲んでいる、千佳と佐知子の姿が見える。
佐知子「(会釈をして)おじゃましてます」
千佳「芹澤さん、ケーキ持ってきてくれたの」
一真「なんか、いつもすいません」
雄一「パパ! 何持ってるの?」
雄一が一真の持っている表彰状をジロジロと見ている。
一真「表彰状だ!」
バッと広げてみせる。
雄一「ひょうしょうじょ? 何それ?」
千佳「パパ、頑張ったねっていう紙よ」
雄一「じゃあ、パパ、また悪者やっつけたの?」
千佳「パパのお仕事はやっつけるんじゃなくて、捕まえることなのよ」
雄一「えー。面白くなーい」
苦笑して、雄一の頭を撫でる一真。
佐知子「最近、一真さんすごいわね。何かあったのかしら?」
一真「あー、えっと……昔を思い出したといいますか……」
佐知子「昔?」
一真「初めて犯人を逮捕したときのことです。あの時は、自分が警察官になったんだって実感できたんですよね。子供の頃、自分が憧れたヒーローに近づけた気がして……」
佐知子「……」
千佳「もう。またその話? 恥ずかしいから真顔で言わないでよ」
一真「え? 恥ずかしい?」
雄一「パパ、はずかしー」
佐知子「……一真さん。これからも頑張ってくださいね」
一真「はい! 頑張ります!」

○  電車の中
三十代の男性が二十代の女性に痴漢している。
その男性の手を捻り上げる一真。

○  コンビニ
少年が辺りをキョロキョロしながら、ペットボトルのジュースを鞄に入れ、店を出る。
一真が後ろから少年の肩を掴むと、振りほどいて逃げ出す。
落ちていた缶を拾い、少年に目がけて投げる。
かなりのスピードで缶が背中に当たり、少年が悶絶する。

○  駅
酔っぱらった三十代の男が駅員の胸倉を掴んで詰め寄っている。
横から一真が出てきて、酔っぱらいを投げ飛ばす。

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