【シナリオ長編】病人パパヒーロー!足立一真①

○  丸下警察署
天井から刑事課のプレートが下がる。
刑事課の面々の前で、足立一真(26)が敬礼をしている。
一真「本日付で配属された、足立一真です。一人でも多くの犯罪者を捕まえるため、頑張りたいと思います!」
その目は希望に満ち溢れている。

○  足立家・外観(朝)
T「――10年後」
雄一の声「パパ! ガオレイン始まるよ!」

○  同・廊下
一真がパジャマ姿で走っている。

○  同・リビング
一真が入ってくる。
リビングにはテレビの前に足立雄一(6)が立っている。
テレビには戦隊ものの『ガオレイン』が放送されている。
一真「間に合ったか!?」
雄一「今始まったところ……ガオーレイン!」
テレビの画面と同じ台詞とポーズをする雄一と一真。

○  同・台所
足立千佳が料理をしている。
雄一の声「パパ違う! 腕をもっと、こう!」
一真の声「ん? こうか?」
クスリと笑う、千佳。

○  同・リビング
一真、千佳、雄一がテーブルを囲み、テレビを見ながら朝食を食べている。
テレビでニュースが流れる。
キャスター「昨夜十時頃、駅で刃物を持った男が暴れていましたが、覆面を被った男性により取り押さえられ、怪我人はでませんでした。男性はヒーローを名乗り……」
テレビの画面にはヒーローのようなマスクを被った男の映像が出ている。
雄一「ヒーローだって! かっくいー!」
千佳「今年も、そんな季節かぁ」
一真「毎年、三月から五月くらいは変な犯罪や変な奴らが出てくるよな」
千佳「皆、超能力者って噂なんだよね?」
一真「今回の奴は遠くから物を動かす、サイ……サイコ……」
千佳「サイコキネシス?」
一真「そう。それ。署内じゃ全部トリックだろって言われてる」
テーブルの上の携帯が鳴り、一真がとる。
一真「はい……わかりました。すぐ行きます」
牛乳をグイッと飲み干す一真。

○  同・外観
背広姿の一真がゴミの入ったゴミ袋を持って、出てくる。
ゴミステーションに行くと、芹澤佐知子(48)がごみを捨てている。
一真「芹澤さん、おはようございます」
佐知子「今から仕事? 日曜なのに大変ね」
一真が苦笑いをしながら、ゴミ袋を置く。
佐知子「あ、そうだ。雄ちゃん、家にずっといる? お菓子でも作って、持って行こうと思うんだけど」
一真「いつも、すいません。雄一の面倒を見てもらっちゃって」
佐知子「孫ができたみたいで嬉しいのよね」
一真「……まだ、連絡ないんですか?」
佐知子「(苦笑いして)あのバカ息子、どこ、ほっつき歩いてるんだか。生きてれば、二十九……」
その時、一真がくしゃみをする。
佐知子「あら、風邪?」
一真「署内で早く来いって噂してるんですよ」
ペコリと佐知子に会釈して歩き出す。
もう一度、盛大にくしゃみをする一真。

○  駅
駅内が騒然としている。
キープアウトのテープをくぐる一真
大和田敏夫(45)が駅員に話を聞いている。
一真「大和田さん、遅くなりました」
大和田「おう、一真。もうすぐ鑑識が到着するから、現場に誰も入らないように見張っておいてくれ」
一真「今月で五件目ですよ。同一犯ですかね」
大和田「間違いないな。今回も小型で、怪我人が数人出たくらいだ」
警察官の声「関係者以外は出て下さい」
詩歩の声「話を聞くくらい、問題ないはず」
一真たちが振り向くと、警察官に引っ張られる播磨詩歩(20)の姿が見える。
一真「なんです? あれ?」
大和田「大学生探偵だとよ。他の管轄のところでも、難解な事件を十件以上解決してるって話だ」
一真「ヒーローの次は、探偵ですか……」
大和田「あいつらが犯人捕まえてくれるのはいいが、俺たち警察の逮捕率が下がっててな。署長がやきもきしてるらしいぞ」
一真「一般人が警察気取りですか。悪人を捕まえるのは俺達の……(くしゃみをする)」
大和田「顔赤いぞ。風邪か?」
一真「いえ。大丈夫です……」
フラリとよろけて、売店の前にある鉄の本棚に手を掛かる。
本棚が倒れて、一真も一緒に転ぶ。
大和田「何してるんだ。……ここはもういいから、病院に行って来い」
一真「いえ、平気です」
ヨロヨロと立ち上がる一真。
盛大にくしゃみをして、目をこする。
倒れている本棚の、一真が触れていたところがぐにゃりと曲がっている。

○  多条大学病院・診察室
軍司晃(39)に診察を受けている一真。
軍司「花粉症ですね」
一真「うう。ついにデビューか。……花粉症って熱とか出るんですか?」
軍司「最初の年は発熱する人が多いですよ。薬出しておくので、食後に飲んでください」
軍司に礼をして立ち上がる一真。
軍司「次の方、どうぞ」
ドアが開き、看護師が入ってくる。
フラフラと歩く一真と軽くぶつかる。
転びそうになって、近くの点滴用のキャスターに掴まる一真。
看護師「院長、来客です。また、あの男性なんですけど……」
軍司「今行くよ。部屋に通しておいてくれ」
一真「……」
一息ついて、診察室から出て行く一真
点滴用のキャスターが曲がっている。

○  足立家・リビング
一真が鼻をかんでいる。
テーブルには料理が並んでいて、千佳と雄一が既に椅子に座っている。
席に戻る一真。
千佳「大丈夫? ……って、凄い目、真っ赤」
一真「目を取って、直接洗いたい……」
雄一「パパ。今日ね、芹澤のおばちゃんが、チーズケーキ持ってきてくれた」
一真「そっか。良かったな」
一真が箸を掴むと、べキッと折れる。
一真「うおっ!」
千佳「(立ち上がって)この前買ったばかりなのに。不良品かな」
一真「あ、フォークにしてくれる? なんか、うまく力入んない」

○  商店街
大和田と一真が聞き込みをしている。
一真が視線を動かすと、遠くで聞き込みしている詩歩の姿が見える。
一真「(面白くなさそうに)……」

○  通り
近くに『多条大学病院』と書かれている建物が見える。
鼻をかんでいる一真。
そこにコーヒーと瓶の牛乳を持った大和田がやってくる。
牛乳を一真の方に放り、一真が受け取る。
大和田「まだ、風邪、治らんのか?」
一真「(飲みながら)花粉症です。薬の効果、切れちゃったみたいで……」
くしゃみをして、目をこすると、手を滑らせて、牛乳瓶が落下する。
女性の声「きゃー!」
牛乳瓶が地面に当たって、割れる。
大和田と一真が振り向くと、女性が転んでいて、その前を、フルフェイスメットを被った男が、バイクで走り去ろうとしている。
男の手には女物のバックが握られている。
大和田「お前は被害者の女性の方を……」
大和田がバイクを追って走り出すが、その横を物凄いスピードで追い抜く一真。

○  同
バイクで走ったまま、ひったくり犯の男がメットを開く。
男「へへっ! うまくいったぜ」
チラリと横を向くと、バイクと並走して走っている一真が見える。
男「へ?」
男を掴み、バイクから引きずり降ろす。
バイクが、電柱に当たって大破する。
男「(一真を見上げて)あんた、何者?」
一真は熱で赤い顔で、ボーっとしている。
そして、くしゃみをする。

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