【ドラマシナリオ】見えない終着駅⑥

【ドラマシナリオ】見えない終着駅⑥

○  渋谷駅・ホーム
康平がぼんやりとした表情で、命警備隊のバッチを見ている。
ふと、顔を上げた瞬間、目を見開いて、立ち止まる康平。
視線の先には坂下の姿がある。
坂下の顔は青ざめ、悲痛な表情を浮かべている。
康平「……」
ゆっくりと坂下の方へと歩いていく。
坂下「(呟き)……もう、終わりだ」
康平が坂下の後ろに立つ。
駅員「電車が参ります。白線より下がってお待ちください」
坂下が一歩、前に出る。
康平「……(黙って見ている)」
坂下が目をつぶり、下唇を噛む。
康平が命警備隊のバッチを放し、バッチが床に落ちる。
康平「……」
康平が右手を開いて、坂下の背中へと伸ばす。
電車がやってくる。
坂下が目を開く。その眼には決意が込められている。
そして、電車へと飛び込もうとする。
康平「……」
押そうとする、康平の手が坂下の背中へと迫る。
坂下が前のめりで電車に突っ込もうとした、その時、肩が捕まれる。
坂下の前を電車が通過していく。
振り向くと、そこには康平の姿がある。
坂下「(驚いて)……君は」
康平「(坂下を睨んで)……」

○  公園(夜)
康平と坂下がベンチに並んで座っている。
公園には康平と坂下の二人しかいない。
坂下「まさか、重三さんの息子さんとこんなところで会うとはね」
康平「……僕のこと、覚えてるんですか?」
坂下「そりゃそうさ。お世話になった人の息子さんだからね」
康平「でも、あなたは、そのお世話になった人を裏切った……」
坂下「……」
康平「あの後、父が自殺したことは?」
坂下「ニュースで見たよ」
康平「……」
二人の沈黙が続く。
坂下「一つ、質問に答えて貰っても?」
康平「……なんですか?」
坂下「どうして、俺を助けたんだ?」
康平「……」
坂下「放っておけば、俺は自殺していた。君にとってはお父さんの仇だろう。黙ってるだけで復讐を果たせたはずだ」
康平「……正直、ギリギリまで迷いました。父と同じ目に合えばいい。いや、いっそ僕の手で、とも考えました」
坂下「それなら……」
康平「正直、自分でもわかりません。ただ、父の命を吸った人間が、簡単にその命を捨てるのが許せないと……そう思いました」
坂下「……」
康平「最初は、あなたがなぜ、父を裏切ったのかを聞きたかった。だけど、それは、例え、どんな理由があったとしても、僕は納得できないと思います」
坂下「……そうだろうな」
康平「僕はあなたのことは許せません。この先、怨むことを止めません。だから、あなたには、そのことを知りながら、どんなことがあっても生き抜いてもらいたい。……それが、僕なりの復讐です」
坂下「……ふふ。厳しいな。本当に厳しい。世の中には死ぬより辛いこともある」
康平「だからこそ、死ぬことは許しません」
坂下「……わかった」
坂下が立ち上がり、歩き始める。
が、ピタリと立ち止まる。
坂下「こんな俺の言葉なんか受け取りたくないだろうし、的外れかもしれないが、言わせてくれ」
康平「……」
坂下「ありがとう」
再び、坂下が歩き始める。
康平「(坂下の後姿を見て)……」
康平がポケットからバッチを出す。
康平「(バッチをジッと見て)……」
携帯を取り出し、電話をかける康平。
康平「……美咲さん。僕、命警備隊を辞めるよ。……うん。ごめん。人を助けるってこと、少し考えたいんだ……」
電話を切る、康平。
立ち上がり、バッチをベンチに置く。
そして、そのまま歩き去っていく康平。

○  上野駅・ホーム
男が疲れ切った顔をしてホームで電車を待っている。
駅員「電車が参ります。白線より下がってお待ちください」
男がフラリと前に出る。
電車がやってきて、男がその電車に飛び込もうとする。
そのとき、後ろから肩を掴まれる。
目の前を電車が通っていく。
振り向くと、そこには康平の姿がある。
康平「大丈夫ですか?」
男「あ、あの……」
康平「悩みがあるなら、聞きますよ」
微笑みかける康平。

終わり

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