【声劇台本】少し変わった秘密のコレクション
- 2019.05.31
- ボイスドラマ(10分)
■概要
主要人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
ビリー
コリン
デレク
ニーナ
悪魔
■台本
ビリー(N)「俺の名前はビリー。実は俺には少し変わった趣味がある。……それは人のトラウマを集めることだ」
道を歩くビリー。
ビリー「あー、今日も疲れたなぁ」
そこにコリンが走ってくる。
コリン「よお、ビリー、この後なにかあるか?」
ビリー「いや、このまま帰るつもりだけど」
コリン「なら、デレクの家に遊びに行こうぜ」
ビリー「え? けど、デレクって今日、休みのはずじゃ……」
コリン「だからさ。お見舞いに行って、元気付けてやろうぜ」
ビリー「ただの風邪じゃないの?」
コリン「いや、それがさ、あいつ外が怖いって言って、家から出たがらないんだってよ」
ビリー「ふーん。なにがあったのかな?」
コリン「ま、直接聞いてみようぜ」
ビリーがピタリと立ち止まる。
コリン「ん? どうした、ビリー?」
ビリー「いや、この家って、いっつもカーテン閉まってるよな。人住んでるのか?」
コリン「あー、ここな。なんでも、一家惨殺されて、女の子が一人だけ生き残ったって話だぞ」
ビリー「……ふーん」
コリン「それより、行くぞ」
ビリー「ああ」
場面転換。
家のチャイムを鳴らす。
コリン「こんにちは。デレクくん、いますか?」
デレクの母「あら、コリンくんとビリーくん。来てくれたのね。デレクは部屋にいるから、行ってあげて」
コリン「お邪魔しまーす」
場面転換。
コリン「で? 何があったんだ?」
デレク「それがさ……俺、蜂に刺されたんだよ」
ビリー「蜂?」
デレク「うん。それがこれくらいデカくてさ」
コリン「うっそだあ。そんな大きい蜂なんか、いないって」
デレク「俺見たんだよって、言うか、ほら、見ろよ、これ。刺された痕!」
ビリー「うわ……」
コリン「これは、エグイな」
デレク「あの蜂、俺を狙ってたんだ。俺、もう外に出れねえよ」
コリン「んな馬鹿な。大丈夫だって。蜂がそんなに頭いいわけないだろ?」
デレク「うるさい! お前らは刺されてないから、そんなこと言えるんだ!」
ビリー「まあ、落ち着けって」
コリン「そうだよ。お前、このまま家にこもってて学校、どうすんだ?」
デレク「なんだよ、お前らは俺に死ねって言うのか?」
ビリー「いや、そうじゃなくって」
デレク「もういい! 帰れ!」
コリン「……デレク」
場面転換。
ビリーとコリンが並んで歩く。
コリン「……デレク、余程怖かったんだろうな」
ビリー「それは楽しみだ」
コリン「え?」
ビリー「ううん。何でもない」
ビリー(N)「その夜、俺はさっそく行動を開始する。ベッドの中で目を瞑り、起き上がると幽体離脱ができる。これは夢の中で行動するって感じ。この状態になったら、俺は人の記憶に入れるようになる」
ブーンと蜂が飛ぶ音。
デレク「うわっ! 来るな! 来るなっ!」
ビリー(N)「俺はさっそく、デレクの記憶に入った。というよりは夢の中に入るという感じが近い。……たしかに、デレクは頭と同じくらいの大きさの蜂に襲われている。だが、これは本人の思い込み……つまりトラウマなので、本来と違うことが多い。多分、この蜂もこんなに大きくはないはずだ。けど、それくらいデレクが怖かったんだろう」
デレク「止めろ! 止めろー!」
ビリー(N)「巨大な針で刺されるデレク。うん。これは凄い恐怖だ。つまり、強いトラウマ。実に俺好みだ。それじゃ、デレク、お前のトラウマ、貰うぞ」
パンと乾いた音がする。
ビリー(N)「こうして、トラウマのシーンのところで手を叩くと、メダルになる。これを集めるのが、俺の趣味と言うわけだ」
学校のチャイム。
デレク「おはよう、ビリー、コリン」
コリン「あれ? デレク、お前、外に出て大丈夫なのか?」
デレク「ん? なにが?」
コリン「いや、なにがって……」
ビリー「まあ、いいじゃん。ちゃんと学校にきたんだからさ」
コリン「まあ、そりゃそうだけど……」
ビリー(N)「トラウマをメダルにすると、そのトラウマは本人の中から消えてしまう。つまり、俺はメダルだけではなく、トラウマそのものを貰うというわけだ。そして、どうしてこんな趣味を持ったのか。きっとそれは俺が記憶喪失だからなのだろう。俺には今から約一年より前の記憶がない。住む家と莫大な金だけが残されている。それしか、わかることはないのだった。家族はいない。どうしていないかも、俺は覚えてはいない」
ビリー、コリン、デレクが歩いている。
デレク「今日さ、俺ん家寄ってかね? うちの母ちゃんが、なんだか知らないけど二人にお礼したいってさ」
コリン「ふーん。まあ、いいけど。ビリーも行くだろ?」
ビリー「ああ」
ピタリとデレクが立ち止まる。
デレク「あ、そういえば、俺、今日の朝、ここの家の人見たんだ」
コリン「え? マジで?」
デレク「マジマジ! すげー、綺麗な人だった」
ビリー「やっぱり、病気っぽい感じだったのか?」
デレク「んー。なんか、顔がやつれてて、精神的に病んでそうだったけど、病気って感じじゃなかったぞ」
コリン「美人だったなら、一目見てみたいな」
ビリー(N)「それはほんの出来心だった。きっと、この家に住んでいる女の人は何かしらトラウマがあって、家から出て来ないんじゃないかと思ったからだ。だから俺は、その日の夜、その女の人の記憶の中へと入った」
ニーナ「ビリー、なんてことを……」
ビリー「ニーナお姉ちゃん……。ボク、まさか本当だなんて思わなかったんだ!」
悪魔「くくくく。悪魔に、そんなつもりはなかったが通用するとでも思っているのか?」
ビリー(N)「なんだこれは? どうして、この女の中に、俺が出てくる?」
ニーナ「ビリーのお父さんとお母さんを返して」
悪魔「無理だ。この坊やは両親の魂を犠牲にして、他人の記憶を奪う能力と大金を得たんだ」
ビリー「うう……僕が? 願ったから? あああああ! 嘘だ、嘘だ、嘘だ! 僕はお母さんんとお父さんにプレゼントをあげたかっただけなのに! うああああ!」
悪魔「あははははは! 狂っちまったか! まあ、そりゃそうだよなぁ。自分が両親を殺したようなもんだからな」
ニーナ「ねえ、私とも契約することはできる?」
悪魔「ん? 別に構わんぜ。何を対価にして、何を得たい?」
ニーナ「渡す者は私の寿命。欲しい能力はビリーと同じ、記憶を奪う能力」
悪魔「いいだろう……。それなら、お前の寿命、30年ってところだ」
ニーナ「いいわ。お願い」
ビリー「あっ、ああ……あああーー!」
ニーナ「早くして!」
悪魔「わかったよ! ほらよ」
ニーナ「いい? ビリー。私があなたの記憶を貰うわ。今までの記憶は無くなるけど、ちゃんと生きなさい」
ビリー「……」
ニーナ「それじゃね、さよなら、ビリー」
ビリー(N)「……そんな馬鹿な。俺は……」
ビリーが走る足音。
家のチャイムを鳴らす。
ビリー「出てくれ! 頼む、出てきてくれよ!」
女性「あら、そこの家の子なら、今朝亡くなったわよ」
ビリー「え?」
女性「なんでも心臓発作らしいわ。若いのに、可愛そうに……」
ビリー「うう。そんな……。うわあーーー!」
ビリー(N)「俺は結局、命の恩人である、この家の人にお礼の一つも言えなかった……。全てを知った俺は死のうかとも思ったが、あの人の最後の希望である、生きてという言葉を守ろうと思う。そして、これからは、トラウマに悩まされる人を救っていこう。それが、唯一、俺にできることなのだろう」
終わり
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