【声劇台本】我が名は

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■概要
人数:3人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、時代劇、シリアス

■キャスト
おつう
武蔵
その他

■台本

おつう(N)「それは遥か長い旅路だった。無限とも思えるような時の流れの中で、刹那を生きてきた。すべては、そう、愛しきあの人をこの手で殺すために」

  ザっというおつうの足音。

おつう「やっと見つけました」

武蔵「……」

おつう「さあ、あのときの約束を」

武蔵「ぐるるる……。ぐおおおおおお!」

おつう「やっぱり、墜ちていたのですね」

おつう(N)「剣を極めんとする者が必ず通る剣道、覇剣。覇剣を操れば身体能力の向上、精神の開放など、纏いし者に多大な恩恵を与えてくれる。……だが、一度でも道をそれ、外道へと墜ちる覇剣は魔剣へと変わる。魔剣へ魅入られた者は理性を失い、人を斬ることしか考えられなくなる」

おつう「たけ……いや、武蔵! しっかりしろ! お前が到達したいと願った道は、そこなのか?」

武蔵「うぐぐぐ……」

おつう「気をしっかりと持ってください! 魔剣に魅入られた者など、世間は剣豪とは認めませぬ! あなたが目指した天下無双は、そんなものじゃないはずです!」

武蔵「……天下無双」

おつう「そうです! 幼少より二人で目指した頂、道から逸れれば、到達など夢のまた夢です」

武蔵「天下無双……天下無双天下無双、天下天下天下テンテンテンテンテン」

おつう「武蔵様!」

武蔵「うおおおおお! 我が名は宮本武蔵! 剣の覇道を突き進む者だ!」

おつう「違う! 武蔵様、あなたは……」

武蔵「いざ、尋常にぃ! 勝負ぅ!」

  武蔵が斬りかかり、剣で受けるおつう。

  鍔迫り合い。

おつう「私はおつうです! わからないのですか!?」

武蔵「おつう……」

  靄がかかるようなフオンという音。

  回想。

たけぞう「おつう、俺は剣の道を極めるぜ」

  回想終わり。

おつう「……え? 今のは、あなたの……記憶?」

武蔵「俺は俺は俺は俺は……」

  靄がかかるようなフオンという音。

  回想。

  木剣で切り結ぶおつうと武蔵。

おつう「はああ!」

たけぞう「あめえっ!」

  ガンとたけぞうの木剣がおつうの頭にヒットする。

おつう「痛っ!」

たけぞう「へへっ! これで1298勝0敗だ」

おつう「くっそ! もう一度、勝負!」

たけぞう「ああ、いつでも来な」

  場面転換。

たけぞう「おつう。俺、戦に行こうかと思う」

おつう「戦……ですか?」

たけぞう「ああ、近々、大きな戦があるらしい。俺はそこで手柄を上げ、俺の名を天下に轟かせるつもりだ」

おつう「なら、私も行きます!」

たけぞう「あほう! 女が戦に出られるか」

おつう「……卑怯です。あなただけ、天下無双への道を進めるなんて」

たけぞう「そう拗ねるな。じゃあ、こうしよう。俺は必ず天下無双になって、戻ってくる。その俺に勝てば、お前は天下無双ってことになるじゃないか」

おつう「……なんか、漁夫の利みたいで気にいりませんけど、それで手を打ちます」

たけぞう「言っとくが、俺は今の数千倍強くなる。生半可な稽古じゃ俺に勝てねえぞ」

おつう「いいえ、あなたが戻る時には、完膚なきまでに叩きのめしてみせます!」

たけぞう「ははははは! 楽しみにしてるぞ」

おつう「……だから、必ず天下無双になって生きて帰ってきてください」

たけぞう「ああ! もちろん! 約束だ!」

  場面転換。

  戦場。

  大勢の怒号が周りから聞こえてくる。

  その中で、剣を振るっているたけぞう。

たけぞう「くそ、斬っても斬っても……。ここは地獄か」

侍「うおおおおお!」

たけぞう「ちっ!」

  たけぞうが侍を斬る。

侍「ぐあっ!」

たけぞう「俺は死なねぇぞ! 約束したからな。おつう、待ってろよ」

  場面転換。

  吉岡道場。

武蔵「我が名は宮本武蔵」

清十郎「吉岡清十郎だ」

武蔵「いざ、尋常に勝負!」

清十郎「生きて帰れると思うなよ」

  武蔵と清十郎が切り結ぶ。

  そして、武蔵が清十郎を斬る。

清十郎「ぐあっ!」

  清十郎が倒れる。

武蔵「はあ……はあ……はあ……」

清十郎「む、無念」

武蔵「……あの、吉岡に勝ったぞ。……おつう、これで俺の名もお前に届くか?」

  場面転換。

  森の中を走る武蔵。

  大勢の吉岡道場の者が武蔵を追う。

男「武蔵を探せ! 何としてでも仕留めるのだ! そして、吉岡道場の復興を遂げよ!」

武蔵「約、百人ってところか。おもしれぇ。やってやる」

男「ぐあああ!」

  数人の男たちが倒れる。

武蔵「……こ、これは。体が軽い。相手の動きがゆっくりに見える。……これが剣気か」

  場面転換。

男「くそ……我が吉岡道場が、貴様一人に……」

武蔵「はあ……はあ……はあ。やったぞ。百人の達人を斬った。剣気も自由に操れるようになった。これで天下無双か……? いや、違うな。まだだ。おつう、待ってろよ。俺は最強になって戻るからな」

  場面転換。

  武蔵が斬られ、膝をつく。

武蔵「ぐっ」

  ヒュンヒュンと分銅が回る音。

梅軒「武蔵よ。これが鎖鎌だ。剣相手に慣れ過ぎた貴様では見切れん」

武蔵「こんなところで、死ねるか」

梅軒「終わりだ」

武蔵「くそくそくそくそ! おつう! ……うおおおおおお!」

梅軒「な、なんだ!」

  ドンと解放される音。

梅軒「闇の霧?」

武蔵「我は宮本武蔵……。天下無双を目指す者」

梅軒「なんだ、貴様。物の怪の類か? いいだろう。この俺が始末してくれる!」

武蔵「愚か者めが!」

梅軒「ぐああっ!」

  武蔵があっさりと梅軒を切り伏せる。

武蔵「うおおおおお!」

  回想終わり。

おつう「なるほど……。生きたいという強い意志がお前を外道へと堕としたのだな」

武蔵「ううう……。我の道を塞ぐものは何人たりとも許さん」

  武蔵が剣を振るう。

おつう「……武蔵様。約束でしたね。天下無双になったあなたを私が斬る」

武蔵「我こそが天下無双だ!」

おつう「はああああ!」

  おつうが武蔵を斬る。

武蔵「ぐあっ!」

おつう「さようなら、たけぞう」

   場面転換。

男「それでは、これより巌流島決戦を行う。両者前へ」

小次郎「我が名は佐々木小次郎」

おつう「我が名は……宮本武蔵」

男「それでは! いざ尋常に、勝負!」

小次郎「おおおおおお!」

おつう「はああああああ!」

おつう(N)「あなたは魔剣に魅入られて、墜ちてしまったけれど、あなたの名は私が守っていきます。この天下無双の、宮本武蔵の名を」

終わり

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