テレワーク

テレワーク

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■概要
人数:2人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代劇

■キャスト
矢井田 藍子(26)
海藤 拓也(29)

キーボードを打ち込む音。
 
藍子「(打ち終わって)ふー。なんとか2章、書き終わったぁ……」

  そこに電話のコール音が鳴る。

藍子「(取って)はい」

  以降、電話でのやり取り。

拓也「どうも、海藤です」
藍子「あ、ちょうど今、こちらから電話しようかと思ってたんです」
拓也「ということは……進んだってことですか?」
藍子「ええ。2章が終わりました」
拓也「よかったぁ! このペースならなんとか間に合いそうですね」
藍子「頑張ります」
拓也「もし、行き詰ったらいつでも連絡くださいね。本当にいつでも大丈夫ですから」
藍子「いえ、そんな、悪いですよ。週に一回、ミーティングの時間を取ってもらえるだけで十分ですから」
拓也「……そうですか。また、先生とは朝まで話し合いしたいですよ」
藍子「はは……。でも、こんな時期ですから」
拓也「そ、そうですよね……」
藍子「それじゃ、この後、すぐにメールで送りますね」
拓也「わかりました。よろしくお願いします」
藍子「それじゃ、失礼します」
拓也「あ、あの、矢井田さん! 僕、あの話、諦めてませんから」
藍子「ごめんなさい。今は執筆に集中したいんです……」
拓也「す、すいません。そうですよね」
藍子「あの……私、海藤さんには感謝してますから」
拓也「……仕事ですから。あと、今回、デビューが決まったのは、矢井田さんの頑張りがあったからです。僕は関係ありませんから、自信もってください」
藍子「ありがとうございます」
拓也「では、原稿、待ってます」
藍子「はい。すぐに送ります。それじゃ」

  電話を切る藍子。

藍子「……そろそろ、限界かなぁ。ううん、ここで諦めちゃダメだよね。せっかく掴んだチャンスだもん。……私、頑張るからね、お姉ちゃん」

  カタカタとキーボードを打つ音。
  ぴたりと、音が止む。

藍子「……ダメだ、上手く繋がらない……。もう少し細かいメモ、残ってないかな? もう一回、フォルダ内を探して……」

  電話のコール音が鳴る。

藍子「はい、矢井田です」
拓也「海藤です」
藍子「すいません! あと、もう少し待っていただけませんか? もう少しで、いい案が浮かびそうなんです」
拓也「その件なのですが、トリックの部分の、康太が電車に乗るところを、車に変えませんか? そうすれば、4章の祥子の移動が……」
藍子「ごめんなさい! 最初に作ったプロットの内容で行きたいんです」
拓也「で、でも、それだと」
藍子「お願いします! 極力、変えたくないんです」
拓也「……わかりました。でも、矢井田さん、変わりましたね。前なら、僕の意見も聞いてくれて……二人三脚で作っていってる感じがしましたけど……」
藍子「……」
拓也「あの、矢井田さん……いや、響子さん、僕は」
藍子「海藤さん! ごめんなさい。終わったら全部、話します……」
拓也「え?」
藍子「だから、今は作品に集中させてもらえませんか?」
拓也「……わかりました。でも、一人で抱え込まないでくださいね。何か困ったことがあれば何でも相談してください」
藍子「ありがとうございます」

  電話を切る藍子。

藍子「……海藤さん、良い人だね。お姉ちゃんが好きになるのもわかるよ。だからこそ、絶対に完成させるからね」

  カタカタとキーボードを叩く音。
  そして、勢いよく、エンターを叩く。

藍子「やったぁ! 完成したぁ! さっそく、連絡しなくっちゃ」

  藍子が電話をかける。

拓也「はい、海藤です」
藍子「完成しました!」
拓也「本当ですか! おめでとうございます」

藍子(N)「こうして、小説が完成し、発売された」

拓也「矢井田さん、好評で、増版が決まりました!」
藍子「本当ですか!」
拓也「それで、次回作の件ですが……」
藍子「あの、海藤さん、お話があるんです」
拓也「はい……。なんですか?」
藍子「私、藍子です」
拓也「……え?」
藍子「黙っていてごめんなさい」
拓也「……どういう……ことですか?」
藍子「姉の響子は、3ヶ月前に事故で……」
拓也「そんな!」
藍子「……海藤さんには話そうか迷ったんですけど……どうしても、姉の小説を出したかったから……」
拓也「……」
藍子「デビューは姉の夢でしたから」
拓也「……うう、響子さんは、ずっと嬉しそうに語ってました。いつか、絶対にデビューするんだって」
藍子「姉の名前で、姉が作ったプロットで完成させたかったんです」
拓也「……」
藍子「人と会わないようにする、この時期なら、姉の名前で小説を完成できるんじゃないかって。……姉と声も似てるし」
拓也「……そうだったんですか」
藍子「最後に、姉からの伝言です。もし、デビューできたら、海藤さんのプロポーズを受けます」
拓也「う、うう……」
藍子「今まで、本当にありがとうございました。海藤さんのおかげで、完成させることができました。それじゃ、さよなら」

  電話を切る藍子。

藍子(N)「こうして、私のテレワークと、芽生えた淡い恋は終わりを遂げたのだった」

終わり