【オリジナルドラマシナリオ】ホロケウの雄叫び②

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  外に出て、数歩歩く弥生。
  すると、直ぐ近くで熊とオオカミの唸る声が聞こえてくる。

弥生「え?」

弥生(N)「熊とオオカミが対峙していた。熊は身を屈めているけど、恐らくは体長は三メートルで、体重は四百キロほどありそう。……あれはヒグマだ。そのヒグマに向かい合っているのは犬……? ううん」

弥生「オオカミ……」

  その時、クテキラ(25)が叫ぶ。

クテキラ「ラメトク、行け!」

弥生(N)「叫んだのは青年だった。黒の下地に、白と赤の記号のような模様の入った、浴衣のような服を着ている。さらに、その上には、動物の皮を羽織っていた。そして、外国人のように顔の彫りが深い。恐らく、彼はアイヌ人だ」

  ヒグマが吠え、オオカミがヒグマに向かって走る。戦い始めるヒグマとオオカミ。

弥生(N)「彼の声が戦闘開始の合図だったかのように、ヒグマとオオカミが争い始める。ヒグマが振り下ろす鋭い爪をひらりと躱し、喉元に噛みつくオオカミ。そんな攻防を三度ほど繰り返した後、ヒグマは威嚇のように吠えて逃げ去ってしまった」

弥生「……今の、なに?」

  弥生が尻餅をつく。
  その弥生にオオカミが近寄ってくる。

弥生「……オオカミ?」

弥生(N)「私に近づいてきたオオカミは、私をジッと見たかと思うと、ペロペロと頬を舐めてきた」

弥生「きゃっ! くすぐったい」
クテキラ「君、誰?」
弥生「え? あ、私は高坂弥生。大学院生です。あなたは……?」
クテキラ「クテキラ」
弥生「クテキラ……」
クテキラ「弥生、ホロケウに認められた」
弥生「ホロケウ……オオカミのことね? やっぱり、この子、オオカミなんだ!」
クテキラ「村に案内する。ここ、まだ、危険」
弥生「……村?」

弥生とクテキラ、オオカミが並んで歩く。

弥生(N)「クテキラと名乗る青年の後ろを歩く。その際も、オオカミは私の横をぴったりと寄り添うようにして歩いている。さっき、クテキラさんはオオカミだと言っていた。やっぱり、オオカミは絶滅していなかったんだ。教授の仮説は正しかったんだ」

弥生「あの……このオオカミなんですけど」
クテキラ「名前はラメトク」
弥生「ラメトク……」
クテキラ「着いた。ここ」

弥生(N)「村というよりは集落に近かった。木造で小さい家。屋根は藁ぶきで、雪を積もらせないため、急な角度になっている。一目見ただけで、古い様式の家だとわかった。そんな家が、八軒ほど集まっている」

  そのとき、離れたところから声がする。

アイヌの青年「神の国へ。先祖の国へ。行かれることになっているが、良い土産を……」
弥生「あれは……?」
クテキラ「イョイタッコテ……葬式」
弥生「お葬式……」

弥生(N)「村の中央に、キャンプファイヤーのように大きな火が燃えている。その炎の前に、十数人の男女が立っていた。みんな、クテキラさんと同じ格好をしている」

クテキラ「熊に襲われて、子供が死んだ」
弥生「熊って、まさか……さっきの?」
クテキラ「いや、違う熊」

  そこへ山桐耕介(82)が駆け寄る。

耕介「クテキラ。どうだった?」
クテキラ「熊は山に逃げた」
耕介「そうか。それならひとまずは安心……。もしかして、弥生くんか?」
弥生「……教授? 教授! やっぱり、生きてたんですね!」
耕介「……」
弥生「(涙ぐんで)良かった! 本当に良かったです! 私、絶対、教授が生きてるって信じてました」
耕介「……弥生くん。君も……来てしまったんだな……」
弥生「……教授?」
耕介「弥生くん。よく聞いてくれ。ここは……その……違う世界なんだ。日本ではない。……地球ですらないんだ」
弥生「何を言ってるんですか……?」

  そこへ一匹のオオカミと、二匹の子供のオオカミが駆け寄って来る。
  オオカミが吠え、それに応えるようにラメトクが吠える。

弥生「オオカミが三頭……」
耕介「オマ。その子供のアシリとチュプだ」
弥生「教授の言ってたことは本当だったんだね。オオカミはまだ絶滅してなかった」
耕介「いや。……さっきも言ったが、ここは違う世界。つまり、こちらの世界ではオオカミが生き残っていただけだ」
弥生「とにかく、教授、帰りましょう。今なら、まだ大学も待ってくれてます」
耕介「帰れないんだ」
弥生「……え?」
耕介「弥生くん。私はこの世界から、帰らなかったんではない。帰れなかったんだ」
弥生「……そんな。あの洞窟から戻れば、帰れるんじゃないんですか?」
耕介「……弥生くん。色々あって、疲れただろう? 少し休んだ方がいい。明日もう一度、洞窟に行こう」

  部屋の中。
オオカミの遠吠えが聞こえてくる。

弥生「……オオカミの遠吠え」

  スマホを操作するプッシュ音が響く。
  しかし、何も反応がない。

弥生「アンテナが途切れてる。スマホ……。ダメ、か。やっぱり、教授の言ったことって……」

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