【声劇台本】その心、お届けします
- 2020.11.15
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
蒼空
悠里
啓子
美奈子
その他
■台本
颯爽と自転車を走らせる音。
蒼空「っと、ここだ」
ブレーキをかけて、止まる。
蒼空「よし、時間ピッタリ」
歩いて、チャイムを押す。
インターフォンから男の声。
男の声「なに?」
蒼空「ご注文をお届けに参りました」
男「……」
ブツリとインターフォンが切れる。
そして、ドアが乱暴に開かれる。
蒼空「ご利用ありがとうございます、お届け者を……」
男「いいから早く頂戴」
蒼空「あ、申し訳ありません」
蒼空が荷物を男に渡す。
男「ちっ、遅ぇよ!」
バタンとドアが乱暴に閉められる。
蒼空(N)「俺の名前は海原蒼空(かいばらそら)。配達を専門とした依頼を受ける仕事をしている。配達なら割と何でも請け負う。今のはハンバーガーのセットを渡したのだ。このご時世だからなのか、最近は結構、食べ物を運ぶことが多くなっている。さっきみたいに理不尽なことを言われることも多いが、俺はこの仕事を誇りを持ってやっている」
蒼空「えっと、次は……」
携帯を操作する蒼空。
蒼空「げっ! マジか……」
場面転換。
自転車を走らせる蒼空。
蒼空「焦らず、慎重に……。でも、できるだけ急ぐんだ……。って、待てよ」
自転車を止める蒼空。
蒼空「確かこの先、昨日から工事してたよな。ってなると……二つ先を右折して……いや、ダメだ。この時間は買い物帰りの主婦が道を塞いでいることが多い……。なら、ちょっと遠回りになるけど、次は左折したほうがよさそうだな」
再び、自転車を走らせる蒼空。
場面転換。
自転車を止める蒼空。
蒼空「あっぶねえ。ギリだよ。……また怒られるかな」
インターホンを押す蒼空
女「はーい」
ドアが開く。
蒼空「ご依頼ありがとうございます。お届け物をお持ちしました」
女「あら、ご苦労様。美香。ケーキ来たわよー」
美香「ホント? やったー!」
ガサガサと箱を開ける音。
女「もう、ダメじゃない。食べるのは晩御飯食べてからなんだから」
美香「はーい」
女「あら、ケーキ、全然、崩れてないわね。私が車で買ってきても、少し崩れるのに」
蒼空「細心の注意を払いましたので」
女「ありがとう。今日はあの子の誕生日なの。もし、またお届けものがあったら、あなたに依頼させていただくわね」
蒼空「はい! ありがとうございます!」
蒼空(N)「お客さんの笑顔が見れる。そんなときは、この仕事をやっていて心底よかったと思える瞬間だ」
そのとき、携帯が鳴り、通話ボタンを押す蒼空。
蒼空「はい?」
啓子「蒼空くん。今、特殊な依頼が来たんだけど……どうする? なんか、すごい時間がないみたいで、正直、蒼空くんでも厳しいかも」
蒼空「場所、どこですか?」
啓子「三島町なんだけど、そこで荷物を受け取って、宮下町まで届けないといけないの。しかも、時間は4時だって。普通なら絶対無理だけど……だから蒼空くんに依頼が来たんだと思う」
蒼空「わかりました、受けます」
啓子「本当に大丈夫? 蒼空くんでも厳しいと思うよ」
蒼空「とりあえず、携帯に住所送っておいてください」
ピッと携帯を切り、すぐさま自転車を走らせる。
場面転換。
自転車を止めて、走って家の前までいく。
そして、チャイムを押す蒼空。
蒼空「(息が切れ切れで)お届け物を取りにきました」
美弥子「待ってたわ! これよ! お願い! 急いでください!」
蒼空「わ、わかりました!」
荷物を受け取って、自転車に乗る。
蒼空「(深呼吸して)よし、来るまでに最短で行けるルートはシミュレーションできてる。後は……どれだけ、想定外のことが起こるかだけど、こればっかりは行ってみないとわからないからな」
蒼空が爆走を始める。
場面転換。
自転車を走らせる蒼空。
人々の間を縫うように進む。
女2「きゃあ!」
蒼空「すみません!」
男2「気を付けろ!」
蒼空「すみません!」
男3「おい、ここ、家の敷地内だぞ!」
蒼空「緊急なんです! すみません!」
自転車を走らせる蒼空。
蒼空「ここまでは、想定内。そして……」
賑わう商店街。
蒼空「ここからが本当の勝負だ」
自転車を走らせる蒼空。
場面転換。
自転車を止める蒼空。
蒼空「はあ……はあ……はあ……」
フラフラとなりながら、チャイムを押す。
すぐにバンとドアが開く。
蒼空「お、お届け物を……」
悠里「ありがとう! 早く、もらえるかしら!」
蒼空「あ、はい……」
悠里が蒼空から荷物を受け取って、家内へと走る。
悠里「おじいちゃん! 届いたわよ! 食べたいって言っていた、美弥子さんのおかゆよ!」
おじいさん「あ、ああ……」
悠里「ゆっくり食べて」
おじいちゃんがおかゆを一口食べる。
おじいさん「……ああ、美味しい。美弥子さんの味だ……。はは……。これで、思い残すことはないよ……」
悠里「う、うう……」
場面転換。
悠里「ごめんなさい。待たせてしまいましたね」
蒼空「いえ……」
悠里「本当にありがとう。あなたのおかげで、おじいちゃん、最後に食べたいものを食べられたわ。とっても満足そうだった……」
蒼空「……またのご利用をお待ちしてます」
蒼空(N)「俺の仕事はただ、物を届けるだけじゃない。その物にこもった、心も一緒に届ける仕事 だ。だから、俺はこの仕事に誇りを持ってやることができるんだ」
終わり
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