山に住む鬼

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、童話、コメディ

■キャスト

新之助(しんのすけ)
ナレーション

■台本

ナレーション「昔々あるところに、化けるだけが取り柄のとてもとても弱い鬼がおりました。その鬼は巨大な虎や龍に化けて、山に入ってきた旅人を脅かしては金品を奪って生活していたそうな。ですが、そんな悪さばかりをする鬼を退治しようとするものが現れ始めたのです」

山奥。

鬼「はあ……。お腹減ったわねー。最近、私のことが噂になり始めたせいか、なかなか旅人が通らないし……」

そこに、一人の足音が近づいてくる。

鬼「あ、しめしめ。馬鹿な旅人がやってきたみたいね。思いっきり脅かして、荷物、全部奪い取ってやるわ」

足音がどんどん近づいてくる。

鬼「よーし! 今日は虎に化けて……っと」

ドロンと化ける音が響く。

鬼「うごおおおお! 死にたくなかったら、荷物を置いていけー!」
新之助「……」
鬼「……おい、聞いているのか? さっさと荷物を置いて失せろ」
新之助「ふふ」
鬼「何がおかしい!」
新之助「なるほどなるほど。弱い鬼ほど、よく吠えるとはいったものだ」
鬼「……どういうこと?」
新之助「お主、鬼だろ? しかも、化けるだけしか能がない」
鬼「……さあ、どうかしら?」
新之助「はあ……。なぜ、バレバレの嘘を突き通せると思うのだ?」
鬼「嘘とは限らないでしょ? 本物の虎だったらどうするのよ?」
新之助「はっはっは。本物の虎はしゃべらないのだよ」
鬼「あっ……」
新之助「あと、お主が化けるしか能がないと思う理由も教えてやろうか?」
鬼「……なによ?」
新之助「もし、強い鬼の場合、わざわざ化けるようなことはしない。強い鬼が化けるときは逃げるときくらいか」
鬼「……」
新之助「さてと。種明かしは終わりだ。退治させてもらうぞ」
鬼「ちょ、ちょっと待ってよ! 見逃して」
新之助「ダメだ。お主はやり過ぎた。お前が脅した旅人は30を超えるだろう?」
鬼「で、でも。食べていくのに仕方なかったのよ」
新之助「知らん。そんなことを言えば、貧乏人は犯罪をし放題という理論になる」
鬼「じゃあ、どうすればよかったのよ。鬼を雇ってくるところなんてないじゃない」
新之助「ふむ……。人間に化けて、雇ってもらえばいいんじゃないか?」
鬼「……あっ! そっか。確かにそうね。そうするわ。じゃあ、さっそく行ってくるわね。バイバイ」
新之助「待たれよ!」
鬼「うっ!」
新之助「逃がさんと言ったはずだ」
鬼「ちょっと待って! 助かる機会をちょうだい!」
新之助「機会……だと?」
鬼「これから化けてみせるから、それが見事だって思ったら、見逃して」
新之助「ふむ。なるほど。面白い」
鬼「でしょ? 何か化けて欲しいものの
希望はある?」
新之助「では、豆になれるか?」
鬼「豆? そんなの簡単よ。じゃあ、いくわよ……」

少しの間。

新之助「どうした?」
鬼「あのさ、豆に化けたら、そのまま食べるつもりじゃないの?」
新之助「ほう。気づいたか」
鬼「危ない危ない」
新之助「では、巨大な龍に化けられるか?」
鬼「龍? そんなの得意よ。じゃあ、いくわよ……」

ドロンと化ける音。

新之助「おお、これは大きいな」
鬼「うふふふふふ」
新之助「どうした?」
鬼「考えてみたら、これだけ大きければ、逆にあんたを食べることもできるんじゃないかしら?」
新之助「ほう、面白い。では食べてみるがよい」
鬼「じゃあ、いただきまー……」
新之助「どうした?」
鬼「ちょっと待って。まさか、私が食べた後、胃の中で暴れるつもりじゃないでしょうね?」
新之助「ほう、企みがバレてしまったか」
鬼「……危ない危ない」
新之助「さてと。そろそろ飽きてきた。斬らせてもらう」
鬼「ちょ、ちょっと待って!」
新之助「問答無用!」
鬼「きゃあーーー!」

ドロンと変身が解ける音。

鬼「あっ! 変身が解けちゃった」
新之助「なっ!?」
鬼「こうなったら、鳥に化けて逃げるしか……」
新之助「……」
鬼「あれ? どうしたの?」
新之助「綺麗だ」
鬼「へ?」
新之助「めっちゃ、俺の好みだ」
鬼「は?」
新之助「頼む、俺と結婚してくれ」
鬼「……いや、それはどうだろ? マズくない?」
新之助「頼む!」
鬼「いやぁ……ちょっとね」
新之助「そ、そうだ。これ! 有名な卸問屋の絹だ。これをやろう」
鬼「えー。いいの? じゃあ、もらっちゃおうかな」
新之助「では、結婚してくれるか?」
鬼「いや、それとこれとは別の話だけど」
新之助「くそ……。これじゃ足りないのか! ええい。ちょっと待ってろ!」

新之助が走り去っていく。

鬼「……なんなの?」

場面転換。
新之助が荷車を押して、やってくる。

新之助「鬼よ、いるか!」
鬼「あら、いらっしゃい」
新之助「見てくれ! 今日は良いコメと魚があるんだ!」
鬼「へー、美味しそう。ありがとう」
新之助「えへへへ」

ナレーション「化けるしか能のない鬼は、侍に貢いでもらって食べていけるようになりました。こうして、山を通る旅人は襲われなくなったのだそうな。めでたしめでたし」

終わり。

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