【声劇台本】血筋と才能
- 2020.12.08
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
ナタリー
女店主
女賢者
老婆
■台本
木の扉が開き、ナタリーが入ってくる。
ナタリー「こんにちはー」
女店主「はーい」
奥から女店主がやってくる。
女店主「いらっしゃい。って、あら、見ない顔だね」
ナタリー「あ、はい。私、世界を回りながら本を書いてるナタリーと言います」
女店主「へー、若くて、しかも女の子が旅を、ねえ。まあいいさ、お金さえ払ってくれればお客さんには変わりないからね」
ナタリー「……あの、少しお話を聞きたいんですけど」
女店主「ここは教会じゃなく、武器屋だよ。話なんて商品は売ってないんだ」
ナタリー「え、えーと……じゃあ、このナイフをください」
女店主「毎度。それじゃ、お客さんとは営業トークをしないとね。何が聞きたいんだい?」
ナタリー「あの、このお店って、伝説の剣を打ったって聞いたんですけど……」
女店主「ああ。あたいの爺さんが打ったっていう話だね。まあ、あたい生まれてないから、親父から聞いた話になるけど」
ナタリー「このお店は代々、鍛冶師の家系なんですか?」
女店主「ん? どういうことだい?」
ナタリー「えっと、私、血筋と才能の因果関係について証明しようと思って調べているんです」
女店主「血筋と才能ねえ……」
ナタリー「つまり、伝説の剣を作るほどの技術は、どのように生まれたのかなと思いまして。例えば、血筋ではなく、弟子を雇って技術を継承したとか」
女店主「そういう点で言うと、うちは血筋になるかねぇ。代々、直系の血筋の人間がこの店を受け継いでいるみたいだし」
ナタリー「なるほど……」
女店主「ちなみに、弟子も取って技術は教えていたみたいだよ。うちに伝わる家訓が、一番優秀なものに、家を継がせる、だった、からね。ただ、やっぱり、一番優秀なのはうちの家系だから、この店を受け継げたって話さ」
ナタリー「やっぱり! 血筋と一緒に才能も受け継がれるってわけですね」
女店主「まあ、その代わり、重圧もすごかったみたいだけどね」
ナタリー「重圧……ですか?」
女店主「先祖代々、ずっと直系の人間が家を継いできたんだ。自分の代で途切れさせるわけにはいかないって。そりゃ死に物狂いで修行したって話だよ」
ナタリー「女将さんも苦労したんですか?」
女店主「あたいかい? あたいは継ぐ人間がいないから、仕方なくって感じさ。平和になった今、武器屋なんて需要が少なくなった職業なんて、誰もなろうとしないさ」
ナタリー「そうですか……。ありがとうございました。参考にさせてもらいます」
女店主「はいよ。気を付けて行きな」
場面転換。
山道を歩くナタリー。
ナタリー「はあ、はあ、はあ……。この辺のはずなんだけど……あ、あった」
場面転換。
コンコンとノックの音。
女賢者「開いてるよ」
ナタリー「失礼します……」
扉を開けて、家の中に入るナタリー。
ナタリー「あ、あの……」
女賢者「ちょっと待っておくれ。もう少しで完成……」
ボンと爆発する音。
ナタリー「きゃっ!」
女賢者「ひゃっひゃっひゃ。また失敗かい……。まあ、いいさ。で、こんな山奥に人だなんて珍しいねぇ」
ナタリー「あの、私、本を書いているものなんですけど、ここに大賢者様が住んでいると聞いてきまして。お話を聞かせていただけませんか?」
女賢者「ふむ。まさか、ただってわけじゃないだろうね?」
ナタリー「あ、はい。これ……お酒です」
女賢者「ひゃっひゃっひゃ! わかってるじゃないか!」
ナタリーから酒を奪って飲む女賢者。
ナタリー「あっ! それ、賢者様のお土産なのに……」
女賢者「で? なんだい? 話って」
ナタリー「え、あ、はい。賢者様に勇者様のことをお聞きしたくて。……いらっしゃいますか?」
女賢者「何言ってんだい。いるだろ、目の前に」
ナタリー「あ、あなたが賢者様、ですか?」
女賢者「女だとは思わなかった、と?」
ナタリー「いや、その……すみません」
女賢者「ひゃっひゃっひゃ! いいさ、慣れてる。で? 勇者の何が聞きたいんだい?」
ナタリー「賢者様は勇者に、伝説の魔法を教えたと聞きました」
女賢者「ああ、間違いないね」
ナタリー「その魔法は誰でも覚えられるものなんですか?」
女賢者「どういうことだい?」
ナタリー「つまり、特別な血や才能がないと覚えられないとか」
女賢者「特別な才能か……。そうだねぇ。確かに、あいつの才能は特別だったよ」
ナタリー「やっぱり!」
女賢者「お嬢ちゃん。魔法を使うのに必要なものはなんだかわかるかい?」
ナタリー「えっと……特別な才能……血筋、とかでしょうか?」
女賢者「つまり、お嬢ちゃんの理論では、魔法使いは魔法使いの血筋がないと使えないってことだね?」
ナタリー「違うんですか?」
女賢者「魔法は知識。魔力は気力だよ」
ナタリー「え?」
女賢者「つまり、魔法使いになるなんて、そんなに難しいわけじゃないってわけさ」
ナタリー「では、伝説の魔法も誰でも覚えられるってことですか?」
女賢者「それは違う。あの魔法だけは特別さ。特別な才能がなければ到底、覚えられるものじゃない」
ナタリー「なるほどなるほど。じゃあ、魔法を使うこと自体は難しいものじゃないけど、伝説の魔法は特別な血筋がないと覚えられない……と」
女賢者「お嬢ちゃんは、随分と血筋というものにこだわるねぇ」
ナタリー「え? あ、はい。人は生まれつき、平等ではありません。貧富の差はもちろん、体格や頭の良さ、そして才能もです」
女賢者「ふむ。それは人が生きる上での真理だね」
ナタリー「私の祖母は学者でした。ですが、女ということで研究内容は認められず、誰にも評価されずに亡くなりました。祖母は本当に凄い人でした。その祖母の血を受け継ぐ私が、祖母のすごさを証明してみせます。才能を受け継いだからこそ、私はここまで来られたんです」
女賢者「なるほどねぇ。それじゃ、次はここに行くと良い。この手紙を渡せば、そいつは勇者のことを何でも話してくれるさ」
ナタリー「ありがとうございます!」
場面転換。
ナタリー「失礼します」
扉を開けて、ナタリーが部屋に入る。
老婆「あら、客人ですか。珍しいですね」
ナタリー「あ、どうぞ、そのまま寝ていてください」
老婆「すみません。最近は足腰も弱ってきてしまって」
ナタリー「あの、私、賢者様から紹介されて来ました。あなたが勇者様のことを何でも話してくれると聞きまして。これが、紹介状です」
老婆「(手紙を読み)なるほど……。わかりました。何でもお答えしましょう」
ナタリー「それでは、勇者様の家系のことをお聞きしてもいいでしょうか?」
老婆「勇者の父親は、王に使える騎士団の団長を務めていました。……いえ、父親というより、代々、団長の座を子に受け継いでいました」
ナタリー「やっぱり! 勇者様は優秀な……特別な血統を持っていたんですね」
老婆「父は一族の中でも、数百年に一人と言われるほどの剣の才能を持っていました。大陸の人間で父の名を知らないものはいないというほどに」
ナタリー「その血を、才能を勇者様が受け継いだんですね」
老婆「ですが、そんな父にも一つだけ大きな悩みがありました」
ナタリー「悩み……ですか?」
老婆「それは子宝に恵まれなかったこと」
ナタリー「え? でも……」
老婆「そんな中、父はある日、森で一人の女の赤子と出会います。その赤子は生まれてすぐに、山に捨てられ、狼によって育てられていました。見つけたときは、言葉をしゃべられないどころか、日本の足で立って歩くことすらできない状態でした」
ナタリー「……?」
老婆「そんな女の子を連れて帰り、自分の子供として育てます。最初は病弱で屋敷内から出さなかったと周りに言い、徹底的に人間としての知識と礼儀を叩きこんでくれました」
ナタリー「ちょっと待ってください。何の話を……」
老婆「焦ってはいけません。もう少しだけ話を聞いてください。その女の子は父に感謝し、父の名を汚さぬよう努力しました。ですが、剣の腕は父の足元にも及びません。当然、戦場で武勲をあげることなんて、不可能でした」
ナタリー「でも、女の子、だったんですよね? 戦場には出れないんじゃ……」
老婆「自ら男として偽ったのです。父は病弱な私を心配して、周りには女と言っていたと。だから本当は男なんだと言って、父に黙って騎士団に入りました」
ナタリー「……」
老婆「そのことを聞いた父は激怒しました。でも、その女の子はとにかく、父に恩返しをしたかったんです。こんな自分を拾い、我が子として育ててくれたことに。武勲を焦った女の子は、周りに黙って旅に出ました。……魔王を倒す旅に」
ナタリー「え……。それじゃ、勇者様は女で……特別な血筋で反い……ってことですか?」
老婆「ええ」
ナタリー「でも、賢者様が特別な才能がないと、伝説の魔法を覚えられないと……」
老婆「特別な才能……ですか。そうですね。賢者様はずっと言ってくれました。あなたは、人が絶望して諦めることでも前を見続け、やり遂げる強い心があると。そして、それがあなたの特別な才能だと言ってくれました」
ナタリー「待ってください……。えっと、それじゃ、あなたが」
老婆「ええ。世間では勇者と呼ばれた者です」
ナタリー「そんな……血と才能は関係ないってことですか? それじゃ、私は……」
老婆「あなたが、祖母を思う気持ちは痛いほどわかります。かつての私がそうだったように」
ナタリー「……」
老婆「私が魔王を倒し、意気揚々と家に帰ったとき、なんと言われたかわかりますか?」
ナタリー「いえ……」
老婆「頬を叩かれて、馬鹿者と叱られました」
ナタリー「え?」
老婆「そして、心配したと泣かれました。父は家の名のことなど関係ないと、ただ幸せになってほしかったと言っていました」
ナタリー「……」
老婆「最初は……拾ったときは家を残すためだったかもしれません。ですが、子として注いでくれた愛情は、親そのものでした」
ナタリー「……」
老婆「きっと、あなたの祖母は、自分の才能を証明してほしいとは思ってないでしょう。あなたには自分の好きな道を歩み、幸せになって欲しい、そう思っているんじゃないでしょうか?」
ナタリー「う、うう……」
老婆「あなたの才能と努力はあなただけのものです。あなたはあなたの道を進みなさい」
ナタリー「……ありがとうございます。私、進んでみます。私だけの道を」
終わり。
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