【声劇台本】幸せのカギシッポ
- 2020.12.13
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
フー
碧(あおい)
■台本
フー(N)「私は生まれてすぐに捨てられた。理由はシッポが折れていたから。そんな他愛のない理由。だけど、そのときはとにかく怖くて、お腹が減って、不安で……ただ鳴くことしかできなかった。そんなとき、碧ちゃんに出会った」
猫のフーのにゃーにゃ―と鳴く声。
碧「……捨て猫? こんなところにひとりぼっちは怖くて寂しいよね。一緒に帰ろっか」
場面転換。
フーのにゃーと鳴く声。
碧「君のシッポ、折れてるね。こういうシッポはカギシッポっていうんだって。カギシッポは幸運を引っ掛けてくれるみたいなんだ。……だから君の名前は、幸運って意味のフルーク。だから、フーちゃんだね」
返事をするように鳴くフー。
フー(N)「私に名前を付けてくれて、温かい笑顔を向けてくれる碧ちゃんが大好きだった。このままずっと碧ちゃんと一緒にいられる。それだけで、私は幸せだった」
場面転換。
碧が部屋に入ってくる。
碧「ただいまー」
フーがお帰りなさいというように鳴く。
碧「はあ……。フーちゃん。私、また、バイト首になっちゃった……。まあ、今は不景気だから仕方ないよね。って落ち込んでたらダメだね。頑張ろう!」
元気づけるようにフーが大きく鳴く。
フー(N)「最近、碧ちゃんがあんまりご飯を食べない。そのせいで、少し痩せてきちゃってる気がする。もしかして、病気なのかな? 碧ちゃんには笑顔でいてもらいたいのに……」
場面転換。
碧「まずいなぁ。そろそろ、貯金も危なくなってきたな……」
フーが心配そうににゃーと鳴く。
碧「あ、ごめんごめん。ご飯あげてなかったね」
お皿にザザッとキャットフードを入れる碧。
フーが嬉しそうに鳴き、食べ始める。
碧「フーちゃんはちゃんと食べてね。体が小さいんだから」
グーと碧のお腹が鳴る。
碧「うー。私もお腹減っちゃった。なにか、残ってないかな?」
棚を開けて、ガサガサと漁る碧。
碧「あ、食パンだ! ラッキー。……って、なんか、カビ生えてる……。この部分をちぎれば大丈夫だよね?」
フー(N)「その夜、碧ちゃんはお腹を抱えて、苦しみ始めた。嫌だよ! 泣かないで! 私に何かできないのかな?」
碧「うー、うー」
フーがにゃーと鳴いて、碧の頬を舐める。
碧「ふふふ。フーちゃん、心配してくれてるの? ありがとう……。いたた!」
にゃーと心配そうに鳴くフー。
碧「うう……。ある意味、バイトやってなくてよかったかも。こんな状態じゃ仕事できないもんね。ラッキーって考えよう……」
場面転換。
碧「ふう……。死ぬかと思ったけど、なんとか治った。あ、フーちゃん、ごめんね。ご飯あげてなかったね」
碧がお皿にキャットフードを入れる。
碧「あれ? 食べないの? もしかして、具合悪いとか?」
フー(N)「違うよ。私よりも、碧ちゃんにご飯を食べて欲しい。私は食べなくても大丈夫だから」
碧「大丈夫、フーちゃん? お願い食べて」
フー「……」
もそもそと食べ始めるフー。
碧「あー、よかった。最近、食欲なさそうだから、心配だったんだ」
フー(N)「食べないと碧ちゃんに心配かけちゃう。なら、食べる量を減らしていかなくっちゃ」
場面転換。
勢いよくドアが開き、碧が入ってくる。
フーがお帰りというようににゃーと鳴く。
碧「フーちゃん! バイト決まったよ! えへへ。これもフーちゃんのおかげだね。さすがカギシッポ。幸運を引っ掛けてくれてありがと!」
フー(N)「碧ちゃんの久しぶりの笑顔。碧ちゃんの笑顔を見ているだけで、私は幸せだよ」
場面転換。
フーがにゃーと鳴きながら歩く。
するとガタガタと揺れ始める。
フー(N)「え、地震? 結構、大きいかも」
上から物が落下してくる。
ドンとフーにぶつかる。
苦しそうな鳴き声。
フー(N)「痛い、痛いよ。碧ちゃん助けて」
場面転換。
碧が帰ってくる。
碧「ただいまー。って、うわ、地震で物が色々落ちてる。……フーちゃん? 大丈夫だった? フーちゃん? フーちゃん!」
碧がフーに駆け寄る。
碧「フーちゃん! フーちゃん、大丈夫? すぐに動物病院に連れて行かないと!」
フー(N)「物に押しつぶされた私はかなりの大けがをしたが、治療をしてもらったことで一か月もするとなんとか治った。だけど、その日から、碧ちゃんが家にいる時間がすごく少なくなってしまった」
場面転換。
碧が帰って来て、フーがお帰りと鳴く。
碧「……疲れた。限界。もう寝る」
フー(N)「帰って来ても、すぐに寝てしまう。すごく寂しいけど、碧ちゃんの迷惑にはなりたくない。だからこれくらいは我慢するよ。だからお願い、私を嫌いにならないでね」
場面転換。
碧が帰って来て、フーがお帰りと鳴く。
碧「もう嫌! もう限界だよ! こんな生活! 仕事して、帰って寝て、仕事、仕事、仕事、仕事!」
心配そうに鳴くフー。
碧「全部、フーちゃんのせいだよ!」
フー(N)「私のせい。私が碧ちゃんに迷惑をかけちゃってる……。そうだよね、私は碧ちゃんに何もしてあげれらない。……幸運のカギシッポなんて、なんの意味もない。……逆に私は碧ちゃんを不幸にしてる」
場面転換。
碧が帰ってくる。
碧「ねえ、フーちゃん。私ね、今、お付き合いしてる人がいるんだ。……だけどね、その人……猫アレルギーみたいなんだ。……だから、その……フーちゃんには……って、そんなこと言っても通じないよね」
フー(N)「ここを出て行こう。碧ちゃんに私ができることは、いなくなること。碧ちゃんには幸せになって欲しい。だから、私は碧ちゃんとお別れするよ」
場面転換。
道路脇を歩くフー。
フー(N)「碧ちゃんの家を出てから一週間が経った。飼い猫だった私はエサをなかなか見つけられず、数日はほとんど何も食べてない」
立ち止まり、寝転がるフー。
フー(N)「たぶん、私はこのまま死ぬと思う。……幸運のカギシッポ。そんなものは結局、ただの噂だ。私は何一つ、このシッポで幸運を引っ掛けることはできなかった。何の役にも立たない、私のカギシッポ」
そのとき、碧が走ってくる。
碧「フーちゃん!」
フー(N)「え? 葵ちゃん?」
碧「ごめんね、フーちゃん! ごめんね」
フー(N)「泣かないで、私は碧ちゃんの笑顔が好きなんだよ」
碧「一緒に帰ろう」
フー(N)「ダメだよ。私が帰ったら、碧ちゃんの幸せを壊しちゃう」
碧「あのね、フーちゃんと一緒に暮らしたいって言ったら、その人ね、アレルギーの対処するから一緒に暮らそうって言ってくれたの」
フー(N)「え?」
碧「……本当に素敵な人なの。ありがとう、フーちゃん。きっと、フーちゃんのカギシッポが幸せを引っ掛けてくれたんだね」
フー(N)「そうか。そうだったんだ。私のカギシッポは最初から幸せを引っ掛けてくれていたんだ。だって、素敵な碧ちゃんに出会えたって、奇跡のような幸運を引っ掛けてくれていたんだ」
終わり。
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