【声劇台本】確かな絆

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
高坂匠(こうさか たくみ)45歳
宮代拓斗(みやしろ たくと)43歳

■台本

落ち着いた曲が流れる店内。

そこに客である、拓斗が入ってくる。

匠「いらっしゃいませ」

拓斗「カウンター、いいかな?」

匠「どうぞ」

拓斗「なかなか、いい雰囲気のお店ですね」

匠「ありがとうございます」

拓斗「コーヒー、いただけますか?」

匠「はい。承知しました」

拓斗「……いい豆を使ってますね。この匂いは……パナマ・ゲイシャですか?」

匠「よくわかりますね。基本的にはパナマ・ゲイシャですが、それに独自のブレンドをしてるんですよ」

拓斗「へえ。それは楽しみだ」

匠「コーヒーは詳しいんですか?」

拓斗「ええ。仕事のときに、よく飲んでまして、そこから色々と調べるようになったんですよ」

匠「そうですか。実は私もなんですよ。前の仕事でよくコーヒーを飲んでまして、そこから趣味として自分で豆を挽くようになりまして……。今はその趣味が高じて、こうして喫茶店をひらけるようになりました」

拓斗「失礼ですが、前の仕事は何をされてたんですか?」

匠「ゲーム会社のプロデューサです。これでも、昔は有名なタイトルを担当してたんです。蒼天の騎士ってゲームなんですけど」

拓斗「もしかして……高坂匠さん、ですか?」

匠「え? よくわかりましたね」

拓斗「実は私も昔、ゲーム会社に所属してたことがありましてね。業界ではあなたの名前を知らない人はいないですよ。あなたは最高のプロデューサだった」

匠「はは。恐縮です。ですが、私にはどうしても超えられない人がいました。その人は本当に天才でした……。私はずっと、その人の影を追い、怯え、憎みました」

拓斗「……」

匠「はは。まあ、一度も会ったことはないんですけどね。その人から見たら、私なんて眼中になかったでしょうから、迷惑な話ですよ」

拓斗「そんなことはないと思いますよ」

匠「業界から身を引くとき、最後に会ってみようかと思ったのですが……やめました」

拓斗「それはどうしてですか?」

匠「なんででしょうね……。きっと、怖かったんだと思います」

拓斗「怖かった?」

匠「ええ。会ったときに、誰? というような反応をされるのが怖かったんだと思います。私にとって、彼はずっとライバルでしたから。ですが、あちらにはそう思われてないのではないか、なんて思ったら、足がすくんでしまいましてね。……情けない話です」

拓斗「失礼でなければ、あなたの話を聞かせていただけませんか?」

匠「私の……話ですか?」

拓斗「ええ。あなたが、どんな経緯でゲーム業界に入り、そして、去って行ってのか」

匠「はは。まいりましたね。私なんかの話を聞いてもつまらないと思いますよ」

拓斗「私にとって、高坂匠は目標であると同時にファンだったんですよ」

匠「……」

拓斗「ファンにサービスすると思って、話していただけないですか?」

匠「……わかりました。ゲーム会社に入ったのは、20歳の頃でした。大学を中退してぶらぶらしているときに、ちょっとした縁で、ゲーム会社のバイトをすることになったんです」

拓斗「へえ、バイトからだったんですか」

匠「最初はデバックからでした。でも、人手が足りなくて、色々な仕事を手伝っているうちに正社員にならないかと社長に言わたんです。ゲームの仕事が楽しかったというのもあって、即答しましたよ。それから5年くらいしたら、ゲームの企画を出してみろと言われて、その企画が通ったんです」

拓斗「そこからヒットを飛ばすことになるんですね」

匠「いえ。ぜんっぜん、売れませんでした。赤字を出さなかったのが奇跡でしたね」

拓斗「なるほど。それで?」

匠「一作目の失敗を自分の中で検証して、ヒットしているゲームも研究して、今度は自分から企画書を作って出したんです。開発予算が億を超えてたんですけどね」

拓斗「それは凄い! で、通ったんですか?」

匠「最初は突っぱねられました。ですが、私はどうしても諦められなくて、自分の首をかけたんです」

拓斗「首を?」

匠「ええ。もし、ヒットしなかったら会社を辞めると言ったんです」

拓斗「さすが高坂匠ですね」

匠「はは。あの頃はまだ青かったんです。……ですが、情熱だけは負けない自信がありました」

拓斗「……」

匠「企画が通り、開発が完了し、いざリリースしたときに、初週は売り上げ順位の1位を取れたんです。そのときは本当に嬉しくて嬉しくて、今でもあの興奮は忘れられません」

拓斗「……」

匠「ですが、次の週に、ビックタイトルがリリースされました。紅の彼方に、というゲームです。あっさりと、1位の座が取られてしまったんです。あれは悔しかったですね」

拓斗「でも、紅の彼方と玉幇(ぎょくほう)は僅差だったじゃないですか。1位と2位は何度も入れ替わってましたよね?」

匠「……あれは、ガチャのリリースを敢えて、紅とズラしたんです。紅のガチャが下火になったところに、こっちの売りとなるガチャをぶつけるという戦法を取ってたんです」

拓斗「戦略としては間違ってないと思いますが?」

匠「気持ちの問題です。私は逃げたんです。紅の彼方から。だから、私は紅に勝つために、新しい企画作りました。それが、蒼天の騎士です。……ここだけの話、蒼という字を使ったのは、紅に対抗したんですよ」

拓斗「なるほど。考えることは一緒ですね」

匠「今度は制作費を5億かけて、最新のシステムと最高のコンテンツをぶち込みました。全ては紅に勝つためだけに」

拓斗「そして、勝つことができた」

匠「ええ。そうですね。ですが、紅はリリースしてから3年が経ってましたからね。こっちは新作ですから」

拓斗「……」

匠「それが証拠に、紅の彼方へのプロデューサの新作である、龍神の魔術師がリリースされてからは、また蒼天の騎士は2位に落ちてしまいましたからね」

拓斗「でも、今度は同じ時期にガチャ更新をしてましたよね? それで、抜いたり抜かれたりと、ほぼ差はなかったですよ」

匠「……あの頃はユーザーからどう搾り取るかばかり考えてました。テーブルなんかも細かく調整して、随分とアコギなことしてましたよ」

拓斗「……」

匠「ですが、ある日、SNSで蒼天の騎士が叩かれ始めたんです」

拓斗「……」

匠「それで気づいたんです。全部、龍神の魔術師に勝つためだけにやってたんだって。ただの私の醜い私情だったんだってね」

拓斗「売り上げ1位を目指すことは悪いことではないと思いますが……」

匠「ええ。ですが、龍神の魔術師はどう、ユーザーを楽しませるかをコンセプトにやっているのを見て、思ったんです。私も最初はゲームの仕事が楽しかったと。自分のゲームがユーザーに面白いと思ってほしいという思いで作っていたことを」

拓斗「……」

匠「それで、私はゲーム会社を辞めて、この喫茶店を開いたというわけです。喫茶店を選んだのは、原点に立ち返るためです。お客さんと向き合い、自分の作るものでお客さんを笑顔にしたいと思ったからです」

拓斗「素晴らしいです」

匠「長くなってしまいましたが、これで私の話は終わりです」

匠がコーヒーを拓斗の前に置く。

匠「どうぞ。特製ブレンドコーヒーです」

拓斗「ありがとうございます。んー……いい香りだ」

匠「……失礼ですが、あなたはどうしてゲーム業界から身を引いたんですか?」

拓斗「私ですか? そうですね。私の場合は燃え尽きたから……です」

匠「燃え尽きた……ですか?」

拓斗「ええ。私の目標あり、戦友であり、ライバルだった高坂匠がゲーム業界から去ったと聞いて、緊張の糸が切れてしまったんだと思います」

匠「……え?」

拓斗「奇妙なものです。私の方も、ずっと目標にしていた、高坂匠に眼中にないと思われているのではないかと怖がっていたのですから」

匠「じゃあ、あなたが……」

拓斗「実は、次はなんの仕事をしようか迷っていたのですが、私も喫茶店をやろうかな」

匠「え?」

拓斗「今度は喫茶店で勝負しませんか?」

匠「あ、いや……勘弁してください」

拓斗「あはは。冗談です。……あの、また客として来てもいいでしょうか?」

匠「ええ。いつでもお待ちしております」

終わり。

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