想いを繋ぐモールス信号

想いを繋ぐモールス信号

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■概要
人数:3~5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
浅野詩乃(あさの しの)
夜野誠司(やの せいじ)

■台本

詩乃(N)「声が男っぽい。小さい頃、ふと言われた一言。言った方は、もう覚えてないだろうし、ただ思ったことを言っただけで、私が思いつめるとは思ってなかっただろう。でも、私はその一言で、声を出すことが、話すことが怖くなってしまった。だから、学校でも極力、話さないようにしてきた。だから私に友達がいなかったのも、当然といえば、当然のことだ。でも、それでいいと思っていた。私はクラスの中でも、ずっと息をひそめて過ごしてきた。あの人が転校してくるまでは……」

学校の教室内。

教師「転校生を紹介します。夜野誠司君です」

誠司が杖を突きながら、教壇に上がる。

誠司「夜野誠司です。お気づきの通り、視力が弱く、ほとんど見えません。何かと迷惑をかけてしまうことが多いかと思いますが、よろしくお願いします」

詩乃(N)「誠司くんへの第一印象は素朴だけど、明るそうな人、だった。きっと私とは関わることはないだろうと思っていた……」

教師「じゃあ、席は……浅野の前が空いてるな。左から3列目の前から7番目だ」

誠司「はい……」

杖を突きながら誠司が歩く。

教師「浅野、面倒見てやれよ」

詩乃「……っ」

誠司「浅野さん、これからよろしくね」

詩乃「……」

誠司「あれ? 僕、なんか悪いこと言ったかな?」

女生徒「ああ、誠司くん、気にしなくていいよ。浅野さんは話さない人だから」

誠司「話さない? ……えっと、ごめん。もしかして声が出せないとか?」

女生徒「いやいや。出さないだけ」

誠司「そ、そうなんだ」

誠司が席に座る。

誠司「改めて、よろしく、浅野さん。あ、返事はしなくて大丈夫だから」

詩乃「……っ」

詩乃(N)「話さないようにするのが癖になってるせいか、こういうときでも、咄嗟に声が出ない……。先生たちも、授業中はほとんど私に当てない。当てたとしても、黒板に書く問題だけだ」

学校のチャイム。

放課後。

誠司「ねえ、浅野さん。僕、いいこと考えたんだ」

詩乃「……」

誠司が机をトントンと叩く。

詩乃「……?」

誠司「モールス信号。ツーツー、トン、ツーツーで、あ」

詩乃「……」

誠司「これなら、声を出さなくても、話しできるんじゃないかなって」

詩乃「……」

詩乃(N)「誠司くんはニコニコとしながらも、意外と押しの強い人だった。だから、なんとなく流される形で誠司くんにモールス信号を教えてもらった。それからは、何かとモールス信号で話をすることが多くなった」

※以降、指で机を叩く音を小さく入れつつ、セリフはモノローグ調で。

信号での会話開始。

詩乃(N)「どうして誠司くんは、私にモールス信号を教えてくれたの? 私のことなんて放っておけばいいのに」

誠司(N)「嬉しかったんだと思う」

詩乃(N)「嬉しかった?」

誠司(N)「僕、目が見えないでしょ? で、詩乃さんは声を出せない。お互い、コンプレックスを持った者同士、仲良くなれるかなって思って」

詩乃(N)「そうなんだ……」

信号での会話は終わり。

詩乃(N)「嬉しかった。話さないというコンプレックスを受け入れてくれただけじゃなくて、こうやって仲良くしてくれることに。今までの反動だったのかもしれない。私はモールス信号で、誠司くんと色々なことを話した。そして、人と話すことがこんなに楽しいことだったということを、初めて知ることができた」

※信号での会話開始。

誠司(N)「帰りに、駅前のショッピングモールに寄っていかない? 美味しいデザートのお店が出来たんだって」

詩乃(N)「行く行く! そういえば、誠司くんって、和菓子派? 洋菓子派?」

誠司(N)「どっちかっていうと、和菓子派、かな。詩乃さんは?」

詩乃(N)「私も! あんこは、こしあん派? つぶあん派?」

※信号での会話終わり。

詩乃(N)「本当に他愛のないことをたくさん話した。毎日、ずっと。休みの日も会ったし、授業中でも隠れて話したりもした。そんなことを3ヶ月以上続けていたら……いつの間にか、誠司くんを好きになっていた」

※信号での会話開始。

誠司(N)「僕、詩乃のことが好きだ。付き合ってほしい」

詩乃(N)「……うん。私も誠司くんのこと、好きだよ」

誠司(N)「よかった。断られたらどうしようかと思ったよ。あと、モールス信号だから言いやすかったかも」

詩乃(N)「そうだね。きっと口では好きだって言えなかったと思う」

くすくすと笑う二人。

※信号での会話終わり。

誠司と詩乃が並んで歩く。

※信号での会話開始。

詩乃(N)「あ、予約してた本、取ってきていい?」

誠司(N)「うん。いいよ。ここで待ってる」

詩乃(N)「じゃあ、行って来るね」

※信号での会話終わり。

場面転換。

店員「ありがとうございました」

詩乃(N)「この本、誠司くんにも読んであげようっと……」

突然、地震が起こると同時に警報が鳴り響く。

詩乃(N)「え? なに? 地震? きゃっ」

地震で天井が落ちてくる。

詩乃(N)「地震のせいで、天井が崩れてきた。下敷きにならなかったのはよかったけど、足が挟まれて抜けない。……って、なに? 煙? もしかして、火事?」

詩乃「ごほ、ごほ、ごほ!」

詩乃(N)「煙を吸い込んだせいか、声が出せない……。誰か……誠司くん、助けて!」

轟々と炎の音が聞こえてくる。

詩乃(N)「火が迫って来てるのがわかる。……このまま、死ぬのかな?」

詩乃が床をトントンと叩く。

※信号での会話開始。

詩乃(N)「……誠司くん。私ね、あなたに会えてよかった。短い間だったけど、楽しかった……幸せだったよ」

※信号での会話終わり。

ガラガラと石を退ける音。

誠司「詩乃!」

詩乃「……っ!」

誠司「こっちです! 助けてください!」

詩乃(N)「誠司くんのおかげで、私は救助され、九死に一生を得ることができた……」

場面転換。

※信号での会話開始。

誠司(N)「悲鳴とか、火の音とか、色々な音が混じってて、正直、詩乃がどこにいるのかわからなかった……。でも、そのときモールス信号が聞こえてきたんだ。異質な音だったら、すぐにわかったよ」

詩乃(N)「そっか。モールス信号を教わっててよかった」

誠司(N)「うん。モールス信号が僕と詩乃を繋いだんだ」

詩乃(N)「私が助かったのも、誠司くんと仲良くなれたのもモールス信号のおかげだけど、これだけは私の言葉で言わせてほしいの」

※信号での会話終わり。

詩乃「私、誠司くんのこと大好きだよ」

終わり。

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