【声劇台本】不良くんと優等生ちゃん

【声劇台本】不良くんと優等生ちゃん

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、学園、シリアス

■キャスト
世渡 櫂(せと かい)
中井 真(なかい まこと)
教師
その他

■台本

櫂が黒板にチョークで答えを書いている。

櫂「……以上、証明終わりです」

教師「おお! さすが世渡! 正解だ!」

教室内から、おおと歓声が上がる。

教師「生徒会長で、学力も学年一位。全国模試でも10位以内だからな。いや、本当に我が校の誇りだよ、世渡は」

櫂「……どうも」

教室内からパチパチと拍手が起こる。

が、その時、ガラガラとドアが開く。

真「……」

教室内が静まり返る。

真「……」

真が歩いて乱暴に椅子に座る。

教師「おい、中井。堂々と遅刻してくるんじゃない。ごめんなさいも言えないのか?」

真「うるせーな! 来てやっただけでも感謝しろ、ハゲ!」

教師「ぐっ!」

真「んだよ、てめえら! 見せものじゃねぇ! 見てんじゃねえぞ!」

バンと机を叩く。

教室内がシーンと静まり返る。

真「おら、さっさと授業やれよ」

教師「……ご、ごほん。それ、36ページを」

櫂「……」

場面転換。

職員室。

教師「……世渡。頼む。中井を何とかしてほしい」

櫂「……何とかと言われましても」

教師「頼む。遅刻しないようにしてくれるだけでいいんだ。他の先生からも苦情が来ててな。早く何とかしないと校長に叱られるんだ」

櫂「……わかりました。その代わり、条件があります」

場面転換。

ガチャリとドアが開き、真が出てくる。

櫂「……驚いたな。まさか、こんなに早く家から出てくるとはな」

真「……んだよ、てめえ?」

櫂「同じクラスの世渡だ。お前が遅刻しないように見張りに来た」

真「……頼んでねえよ」

櫂「お前じゃなく、先生に頼まれたんだ」

真「ちっ! お節介焼の優等生野郎が」

櫂「なんとでも言え」

真「ふんっ!」

場面転換。

ツカツカと歩く真が立ち止まる。

インターフォンを押す。

真「おい! ジジイ! 来てやったぞ!」

櫂「……?」

場面転換。

家から出てくる真と櫂。

櫂「なにやってんだ、お前?」

真「見てたんだからわかるだろ。ジジイの腰、揉んでやったんだよ」

櫂「質問を変えよう。なんでそんなことをするんだ?」

真「なんでって……いつもやってやってるからな」

櫂「……あのじいさんは、親族か何かか?」真「いや。3ヶ月前くらいに話して、腰が痛いって言ってたから少し揉んでやったんだよ。そしたら喜んでさ。それから、朝に寄ってやることにしたんだ」

櫂「……早く行くぞ。もう時間ギリギリだ」

真「おい、何怒ってんだよ?」

場面転換。

真と櫂が歩いている。

おばちゃん「あらー、真ちゃん、おはよう」

真「ああ、おばちゃん、おはよう」

おばちゃん「ちょうどいいところに来たわ。ちょっと手伝ってほしいことがあるのよ」

真「ああ、いいぜ……」

櫂「断る!」

真「お、おい……」

おばちゃん「なあに、あなた。私は真ちゃんに話してるんだけど」

櫂「こいつはこれから学校に行かないといけないんだ。手伝ってたら遅刻する」

おばちゃん「で、でも……いつも手伝ってくれてるし……」

櫂「いつも? お前はいつもこいつに手伝わせているのか? もちろん、手伝わせているということは何かしらの対価を払っているんだろうな?」

おばちゃん「え? えっと……い、いつもジュースを奢ってあげてるわ」

櫂「なるほど。仮にその手伝いが30分だったとしよう。現在の最低自給の平均は900円。つまり30分で換算すると450円だ。ジュース一本、140円と換算したとしても全然足りてないな。お前はこいつを学校に遅刻させた上に、違法な賃金でこいつに労働を強要するというわけか」

おばちゃん「なんなの! もういいわよ!」

櫂「そうか。じゃあ、行くぞ」

真「あ、ああ……」

場面転換。

真と櫂が歩いている。

真「……おい、なんであんなこと言ったんだよ。嫌われるだろ」

櫂「別にいいだろ」

真「お前なぁ。人ごとだと思って……」

櫂「あいつはお前を利用してるだけだ。人を食い物にするような輩には嫌われておくべきだ」

真「……どういうことだよ」

櫂「よく考えろ。お前が遅刻してまで手伝った時間で何を得る? 安いジュース一本とあいつの上辺の感謝の言葉と、お前の満足感だけだ。どう考えても釣り合わない」

真「いや、そういうもんじゃねえだろ」

子供「あ、お姉ちゃん! 待ってたよ」

真「ん? ああ、どうした? またイジメられたのか?」

子供「うん。カバンとられちゃったんだ」

真「よし、すぐに取り返して……」

櫂「おい、ガキ。他人に頼るな。自分でやれ」

真「おまっ、何言ってんだよ!」

櫂「よく聞け。こいつに頼めば、今回は取り返してくれるだろう。だが、また取られたら毎回、こいつに頼むのか?」

子供「……」

櫂「もしこいつが引っ越しか何かでいなくなったらどうする?」

子供「でも……」

櫂「状況というのは他人じゃ変えられない。自分で変えるしかないんだ」

子供「でも、僕、喧嘩弱いし」

櫂「弱いなら鍛えろ。それが出来ないなら、勉強を頑張れ。優等生になれば、先生を味方にできる。そうすればイジメれなくなる」

子供「べ、勉強? でも、僕、勉強嫌いだし」

櫂「なら、学校を休むか、別の学校にでも転校しろ」

子供「そんなの無理だよ」

櫂「なら、黙ってイジメられろ。努力を放棄して楽な道を選ぶなら、それに伴った生活を送るしかない」

子供「……」

櫂「少しでいいから、頑張ってみろ。意外と大きく状況が変わるもんだ」

子供「ほ、ホント?」

櫂「ああ、保証する」

子供「僕……ちょっと頑張ってみる」

櫂「ああ。お前ならやれるはずだ」

子供「うん! ありがとう!」

子供が走って行く。

真「……ホントに大丈夫か?」

櫂「さあな」

真「お、おい! 無責任なこと言うなよ!」

櫂「俺があいつの人生に対して責任を負う必要はない。さ、行くぞ」

場面転換。

女生徒「姉貴! お願いが……」

櫂「断る!」

場面転換。

男性「すいません、この辺に電気屋が……」

櫂「他を当たれ」

場面転換。

真「……お前、ある意味すげーな」

櫂「何がだ?」

真「……嫌われるのが怖くないのか?」

櫂「さっきも言ったが、自分に対して特にもならない人間に好かれる必要はない。返って人生の浪費になるだけだ」

真「へー。まさか、優等生のお前からそんな台詞が聞けるとは思わなかったよ」

櫂「学校では優等生と思われていた方が得だからそう装っているだけだ。……逆に不良のお前が、学校以外では社交的だとは思わなかったな」

真「……学校の奴らは私を怖がるからな。仲よくするなんて無理だ。けど、町の奴らは私を怖がらないから……」

櫂「なるほどな。居心地がいいから、色々と手伝っていたわけか。そいつらはお前の弱い部分に付け込んでいたということだな」

真「……そうなのか?」

櫂「少なくても、今までの奴らはそうだな。自分勝手で全くお前のことを考えていない」

真「……」

櫂「それにしても俺も意外だったな。まさか、お前が人助けをして遅刻してるとは思わなかった」

真「でも、いいのか? 私のせいでお前も遅刻になっちまったけど」

櫂「教師と取引してる。お前を更生させる条件として、遅刻してもカウントされない」

真「へー」

櫂「……にしても、新鮮だな」

真「なにがだ?」

櫂「遅刻するなんて初めだからな。何となく開放感があって悪くない」

真「何言ってんだよ、お前は。ほら、学校行くぞ」

場面転換。

ドアが開き、真が出てくる。

真「……おっす」

櫂「おはよう。さ、行くぞ」

場面転換。

真と櫂が歩いている。

真「にしても一週間で、誰も頼み事してこなくなったな」

櫂「俺の努力の結果だな」

真「その代わり、私の評判が落ちたけどな」

櫂「そんなことは、俺は知らん」

真「でも、ま、なんかスッキリしたよ。今まで嫌われたくなったから、頼み事は断れなかったし」

櫂「全員に好かれる必要なんてない。大体、お前は学校では嫌われてたんだからな」

真「……気にしてることをズバッと言うな」

櫂「自分が仲良くしたい相手にだけ、仲良くすればいいさ。他の奴なんか放っておけ」

真「……うん、そうだな」

ピタリと櫂が立ち止まる。

真「ん? どうした?」

櫂「このままだと、学校に間に合うな」

真「いいことじゃねーか」

櫂「遅刻するのに慣れてしまったからな。少し寄り道してサボらないか?」

真「バカ! 不良みたいなこと言ってんじゃねーよ。ほら、行くぞ!」

櫂「……はいはい。全く、優等生だな」

真と櫂が歩いていく。

終わり。

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