【声劇台本】腕の中で

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
レイ
カイン
レオン
その他

■台本

男「ま、待ってくれ! 助けてくれ! 金なら払う!」

レイ「……」

ドンと銃を撃つ音。

そして、レイが歩く。

通信のノイズ。

レイ「こちらレイ。任務完了しました」

レオンの声「御苦労。相変わらず早いな」

レイ「……簡単な任務でしたから」

レオンの声「簡単……ね。あの警備の中、そう言えるなんて、お前くらいだよ。いやー、ホント、お前がもう一人いれば、うちもだいぶ楽なんだがな」

レイ「……」

場面転換。

レイが路地裏を歩いている。

赤ちゃんの泣き声。

レイがピタリと立ち止まる。

レイ(N)「捨て子。いつもだったら、完全に無視していたと思う」

回想。

レオンの声「お前がもう一人いれば、うちもだいぶ楽なんだがな」

回想終わり。

レイ(N)「それは本当に、ただ、何となくだった。私がしてきた訓練を、そのままこの赤ん坊に施せば、私と同じ実力の人間が誕生するのではないか。……ふと、そんな思いが頭を過った」

赤ん坊の泣き声。

レイ(N)「……もしかしたら、ただ人の人生を終わらせていくだけの人生の中で、何かを残したいという思いがあったのかもしれない……」

場面転換。

レオン「お子さん、いくつになったんだ?」

レイ「拾ってから5年ですね」

レオン「それにしても、お前さんが子供を育てるなんて言ったときには驚いたぞ」

レイ「3年くらいはほぼ、ベビーシッターにお願いしてましたから」

レオン「ふむ……。なあ、レイ。お前、引退しないか?」

レイ「……なぜですか? 今のところ、身体能力の衰えは出ていません。任務達成率も問題ないかと」

レオン「いやいや、そういうことじゃなくて。本格的に子育てをしてみたらどうだ?」

レイ「子育て……ですか?」

レオン「今更、幸せになれとは言わない。だが、大切な人間と過ごす時間というのも、人生には必要なことだ」

レイ「……わかりました。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」

レオン「ああ。しっかりと愛情を注いでやれよ」

レイ「……」

レイ(N)「愛情……。そんな感情は私の中にはない。ないものを与えることはできない。私ができることは、私がもっているものを与えることだけだ」

場面転換。

レイ「いい? 今の相手を見て撃つのではダメよ。相手の動きを予測して、その動きの先を狙って撃つの」

カイル「相手の動きを予測……? 無理だよ、お母さん。野生のオオカミの動きなんて予測できない」

レイ「できない、じゃない。やるの」

カイル「うう……」

ダンという銃声が響く。

カイル「に、逃げられちゃった」

レイ「勘に頼ってはダメ。外れたら、ターゲットに逃げられてしまう。それはつまり、失敗を意味するの」

カイル「……」

レイ「いい? 相手の意思の先を読むの。五感をフルに使って、意思を感じ取る。……そして、撃つ」

ダンという銃声と、オオカミの悲鳴が響く。

レイ「あとは撃つときには、殺気を出さないこと。殺気を感じ取る相手もいる」

カイル「難しいよ、お母さん」

レイ「大丈夫。カイル、あなたならできる」

カイル「う、うん! 頑張る」

場面転換。

ダンという銃声と、オオカミの悲鳴が響く。

カイル「やった……。やったよ、お母さん」

レイ「今のは良かったわ。ちゃんと相手の意思を感じ取れてたわね」

カイル「うん。……ねえ、お母さん。できたご褒美に、頭……撫でてくれないかな?」

レイ「頭を? なぜ? 親しい人間だろうと、無暗に急所を晒すのは止めなさい」

カイル「……ごめんなさい」

場面転換。

10年後。

組手をしているレイとカイル。

レイ「接近戦でもやることは同じ。相手の意思を感じ取り、予測してそれに対処する」

カイン「わかってる」

カインがレイを掴んで投げる。

レイ「ぐっ!」

カイン「どう? こんな感じで」

レイ「……完璧よ。ついに私を超えたわね」

カイン「へへへ」

レイ「じゃあ、そろそろ、任務についてもいい頃ね」

カイン「任務……」

レイ「技術は完璧。でも、実際に人に向けて引き金を引き、命を奪うことは経験しないと慣れていかない」

カイン「ねえ、母さん。俺が……その……人を殺しても、なんとも思わないの?」

レイ「……あなたを一流のアサシンにするために今まで、育てたのよ」

カイン「……そう……だよね」

場面転換。

レオン「……レイ。どういうことだ?」

レイ「カインの技術はすでに私を超えました。あとは実際の経験を積むだけです」

レオン「……まさか、子供に殺しの技術を教え込んでいたなんて思わなかったな」

レイ「……私がもう一人いれば楽。そう言ってましたよね?」

レオン「違う! 違うんだ! お前には普通に親子として子供に接してほしかった」

レイ「普通……。普通とはなんですか?」

レオン「ごく、一般的な家族のことだよ」

レイ「……」

場面転換。

公園。色々な人が遊んでいる。

子供「お母さんー! あっ!」

子供が転ぶ。

母親「あら、大丈夫? よしよし!」

子供を抱き上げる母親。

レイ(N)「転んだら抱き上げる。上手くできたら頭を撫でてやる。……それが普通。……私はカインに、そう接するべきだったのだろうか」

場面転換。

レイが歩いてくる。

レイ「カインがチームを全滅させたというのは、どういうことですか?」

レオン「テロリストのアジトを制圧させる任務だったんだが、その中に親子がいたんだ」

レイ「親子……ですか?」

レオン「ああ。一般人の母親と子供だ。その二人を手違いで殺してしまったらしい。それがきっかけで、カインの精神が崩壊した」

レイ「……それで、テロリストだけではなく、味方のチーム全員を殺した、と」

レオン「……今、新たにチームを編成している。悪いが、庇いきれん。カインは始末させてもらうぞ」

レイ「チームの編成はいりません」

レオン「お、おい! レイ!」

レイが歩き去っていく。

場面転換。

レイとカインの銃撃戦。

レイ「カイン。自決しなさい」

カイン「あははははは! あんたらしいな! そうだよな! あんたはそうやって俺を育てた! だが、嫌だね! 俺は! 俺は! これから自由に生きる!」

銃の弾が切れる。

カイン「ちっ! 弾切れか。まあ、いい。確実にナイフで仕留める」

カインがナイフを出すと、レイも銃を捨ててナイフを出す。

カイン「無駄だ。俺はもうあんたを超してる。あんたの負けだ」

レイ「……」

ナイフが空を切る音やナイフ同士がぶつかる音。

カイン「おらおらおら! 俺の意思を読んでみろよ!」

レイ「くっ!」

カイン「おらおらおらおら!」

レイ「……」

カイン「止めだ!」

レイ「……カイン。本当に強くなったわね」

カイン「っ!」

ドスっとナイフが深々と刺さる音。

カイン「ぐっ……」

レイ「カイン。どうして……?」

カイン「はは……。どのみち、俺は始末される。それに……母さんは……殺せない」

カインが倒れ込む。

レイ「カイン!」

カイン「……はは。母さんに初めて、抱いてもらったよ」

レイ「……そうね」

カイン「ねえ、母さん。最後に……頭を撫でてくれないかな?」

レイ「カイン……。今まで、よく頑張ったわね」

カイン「へへへへ……」

レイ(N)「こんな簡単なことをどうしてできなかったんだろう。私がやるべきだったのは、カインに銃を握らせることじゃなかった。こうやって頭を撫でてやることだったんだ」

カイン「母さん。……俺、眠くなって来た」

レイ「うん。……お休みなさい」

カイン「……」

レイ「お母さんも、すぐにそっちに行くから。そしたら、今度こそ、本当の親子になろうね」

終わり。

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