【声劇台本】君の笑顔

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、近未来、シリアス

■キャスト
ルーク
レオナ

■台本

ルーク「アンドロイド。人類がついに神の領域まで踏み込むことによって生まれた存在だ。元々は人間が便利に過ごすために生み出された。だが、人はそのアインドロイドに感情を与える。……感情を持った個体。例え、人工的に生み出されたものだったとしても……例え、体が無機質で構成されたものだったとしても、感情を持てば、それは生き物なのではないか、そんな論争が世間で巻き起こった。アンドロイドは新たな生命なのか? 俺にとってはどうでもいい。ただ単に、この人の笑顔が見たい。この人に笑ってほしい。それだけが、俺にとって全てだった」

ルーク「レオナ。おはよう。気分はどうだい?」

レオナ「……おはよう、ルーク。とてもいい朝ね」

ルーク「うーん。台詞と表情が合ってないなぁ。もうちょっと、ほら、笑って」

レオナ「これでも、笑っているつもりなんだけれど……」

ルーク「そうなの? おかしいなぁ。顔の神経系に関しては問題ないはずなんだけど」

レオナ「別にいいじゃない。表情なんて」

ルーク「ダメだよ。例え言葉が話せたって、表情がないのなら……ロボットと同じだ」

レオナ「ロボ……か。いっそ、ロボだったら楽だったかもね……」

ルーク「レオナ……。やっぱり、その……僕を恨んでる?」

レオナ「恨む? どうして?」

ルーク「いや……その……。余計なことをしてるのかなって」

レオナ「あなたが気に病む必要はないわ。それに、あなたにはとっても感謝してるのよ。今の私が存在するのも、あなたのおかげだもの」

ルーク「……」

レオナ「あっ、いけない……。朝食を作らないと」

ルーク「いや、今日は僕が作るよ」

レオナ「え? でも……」

ルーク「大丈夫、大丈夫。僕だって料理くらいできるよ。ちゃんと勉強してるんだから」

レオナ「……ホントに大丈夫?」

ルーク「……れ、レシピ通りに作れば、食べれないものにはならないと思う」

レオナ「本来は私がやらないといけないのに、悪いわ」

ルーク「いやいや。それこそ、僕がやるべきものだよ。サボってたのは僕の方さ」

レオナ「そう。それじゃ、お言葉に甘えるわね」

ルーク「任せなさい! 美味しいのを作ってみせるさ。……とは言っても、アンドロイドに味覚はないから、証明するのは難しいかもだけど、ね」

場面転換。

ペラペラと本をめくる音。

レオナ「何を読んでいるの?」

ルーク「ああ。感情についての論文だよ。色々、勉強になるんだ」

レオナ「勉強? あなたが? その分野じゃ、もう得られることなんてないんじゃないの?」

ルーク「僕はあくまで知識として知ってるだけだからね。実践できて、初めて知識は意味を成すのさ」

レオナ「……実践。私を使って?」

ルーク「あ、いや、そんなつもりは……」

レオナ「冗談よ。気にしないで。でも、本当に無理しないで。私、表情なんていらないわ」

ルーク「ごめん。レオナ。これは僕の我儘なんだ。どうしても、君に笑ってほしい」

レオナ「謝らないで。私、とっても嬉しいのよ。これは本音だからね」

ルーク「……」

レオナ「あ、そうだ。そろそろ、用意しないと」

ルーク「用意? ……あ、今日は博士の命日か……」

レオナ「ルーク。あなたは家で待ってて。私だけで行ってくるわ」

ルーク「いや、僕も行くよ、お墓参り」

レオナ「あ、お花……用意しないと」

ルーク「裏庭で育てているのを持っていこう」

場面転換。

山道を歩く、ルークとレオナ。

ルーク「レオナ、平気?」

レオナ「ルーク。私、そこまで弱くないわ。ちょっと、気にしすぎ」

ルーク「……ごめん」

レオナ「あなたの欠点は、真面目過ぎるところね。もう少し、融通というのを学ぶべきよ」

ルーク「うっ! ぜ、善処します」

レオナ「素直でよろしい」

ルーク「あ、着いたよ」

レオナ「ええ。まずは掃除からね。さすがに一年経つと、色々と汚れも溜まってるわ」

ルーク「うん、そうだね」

場面転換。

ルーク「……あれから、もう5年か」

レオナ「親子、とは言えないけど、私にとってあの人は父親のようなものだったわ」

ルーク「ホント、変わった人だったよね。アンドロイドと人間を区別することを嫌ってたし……」

レオナ「敬語で話すのを禁止してたもんね」

ルーク「……もっと、たくさん、博士から学びたかったなぁ」

レオナ「本当に凄かったわよね。アンドロイドの感情理論についても完璧だった」

ルーク「……いつか、超えられるかな」

レオナ「……」

ルーク「あ、いや、やっぱり撤回するよ。僕なんかが、ちょっとおこがましいというか、なんというか」

レオナ「ううん。ルーク、あなたなら、きっとできるわ。息子の、あなたなら」

ルーク「そんなこと言ったら、君だって、博士の娘、だろ?」

レオナ「……そうね」

ルーク「僕は本当に幸せだった。博士がいて、君がいて……。本当に……幸せな日々だった」

レオナ「……」

ルーク「あ、いや、別に今が幸せじゃないって意味じゃないからね」

レオナ「……だから、ルークは真面目過ぎるって言ったでしょ。わかってる。ちゃんと、わかってるよ」

ルーク「……うん」

レオナ「でも……嫌だな」

ルーク「なにが?」

レオナ「辛いのに、寂しいのに、涙が出てこない。いっそ、泣けたら楽になれるのに」

ルーク「僕は嫌だな」

レオナ「え?」

ルーク「君の顔には涙よりも、笑顔が似合うと思う」

レオナ「……」

場面転換。

ドアが開き、ルークが入ってくる。

レオナ「うーん」

ルーク「あれ? レオナ、何してるの? 鏡なんか持って」

レオナ「表情を作る練習。ルークに頼ってばっかりじゃいけないって思って」

ルーク「僕にとっては嬉しいことだけど、無理したらダメだよ?」

レオナ「……どうして、私、表情を作れないんだろう?」

ルーク「あまり思い詰めないで。ゆっくりやっていこう。あ、これ、クッキー焼いたんだ。多分……美味しいと思う」

レオナ「ありがとう。どれどれ……」

サクっとクッキーを食べるレオナ」

レオナ「うん、美味しい」

ルーク「そう、よかった」

ルーク(N)「レオナは小さい頃に事故に遭い、目の前で家族全員が亡くなった。そのショックで表情と、そのときの記憶が無くくなったのだろうと、博士が言っていた。博士はレオナを引き取ってからも、レオナに笑顔を取り戻そうと必死に研究していた。そして、その研究結果で、僕というアンドロイドを作った。皮肉なことに、アンドロイドの僕の方が先に感情と表情を得ることができた。……未だにレオナは笑顔を取り戻せていない。だけど、僕は絶対に諦めない。レオナの笑顔を取り戻す、その日まで、僕は進み続ける」

終わり。

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