【声劇台本】第二の人生

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
政義(まさよし)
友恵(ともえ)
千枝(ちえ)

■台本

友恵「政義さん。この前、私がプレゼントした服、タンスの二段目に入れて置きましたからね」

政義「ああ。わかった。けど、やっぱり、私は背広の方が楽なんだがな」

友恵「あなたも今年で65歳なんですよ。そろそろ、会社は若い人たちに譲ったらどうなんですか?」

政義「わかってはいるんだがな……。ただ、仕事を止めてしまうと、生き甲斐がなくなってしまう気がするんだ」

友恵「生き甲斐がないなら、これから作ればいいじゃないですか。第二の人生、生き甲斐を探すというのも楽しいものですよ」

政義「だがなぁ。この年になって、新しいことを始めるというのも、なんだか恥ずかしくてな」

友恵「それなら私も一緒にやってあげますよ。二人でなら、恥ずかしさも紛れるんじゃないんですか?」

政義「そうだなぁ……」

政義(N)「今思えば、あのとき、妻の友恵の言う通りに会社を後輩に譲り、一緒に第二の人生を歩み始めるべきだったんだ。例えそれが、一年という短い間だけだったとしても……」

場面転換。

病院。心電図音が弱弱しく鳴っている。

政義「友恵! しっかりしてくれ! 友恵」

友恵「あなた……。ごめんなさい。……約束、守れませんでした……」

政義「なにを言ってる! これからだ! 会社の引継ぎも終わった。これから第二の人生、一緒に生きてくれるんだろ?」

友恵「あなた……お願いがあります」

政義「なんだ?」

友恵「後を追おうなんてしないでください」

政義「うう……。私は……お前がいない人生、どうやって生きていいかわからない」

友恵「……大丈夫です。生き甲斐は……きっと……見つかります……だから……あの場所へ……」

ピーっと心電図の音が響く。

政義「友恵――――!」

政義(N)「妻の友恵には苦労ばかりかけた。仕事で家庭を蔑ろにしていた私に対して恨み言一つ言わず、逆に私を支え続けてくれていた。会社が大きくなったのも、友恵がいてくれたおかげだ。だから、これからだったんだ。今までのお礼をさせてほしかった。これからは楽しいことを、楽をさせてやりたかったんだ……」

場面転換。

チーンと仏壇の鐘の音が鳴り響く。

政義「……なあ、友恵。お前を失ってから、もう一年だ。お前は生き甲斐は見つかると言っていたが……結局、見つからなかったよ。何をしても虚しいんだ。お前がいない人生は、寂しいんだって、思い知らされた一年だったよ。……もう、いいだろ? このまま生き続けても意味がない。お前のところに行っても、許してくれるよな?」

場面転換。

街中。

ウロウロと歩いている政義。

政義「ええっと……確か、この辺に……あ、あったあった。へえー。すごいな。まだ、残っていたんだ」

政義(N)「ビルの屋上にある植物園。市が運営しているからか、入場料も格安で、友恵のお気に入りの場所だった。……いや、もしかしたら、お金がなかった私に気を使って、デートはここがいいと言っていただけなのかもしれないが……」

場面転換。

ガチャリとドアが開き、政義が屋上に出る。

政義「すごい。あのときのままだ」

政義(N)「まるで時間が止まっていたかのように、妻と来ていたときと同じ風景だった。色々な花が咲き乱れている。そして、なによりいいところは、屋上にあるから、空と景色が絶景なのだ。花だけではなく、屋上から見る風景も、妻は気に入っていた。そして、私はこの場所で妻にプロポーズをした」

政義「45年ぶりか。……ふふ。これで思い残すことはないな。来てよかったよ」

政義が歩き出し、金網を登り始める。

政義「友恵、今、そっちに行くよ」

千枝「何をしてるんですか?」

政義「え?」

千枝「危ないですよ。降りてください」

政義「いや、その……」

千枝「降りてください」

政義「は、はい……」

金網をゆっくりと降りる政義。

千枝「全く。もういい歳なんですから、危ないことの判別くらいしてください」

政義「す、すみません……」

千枝「わかっていただければいいんです。さあ、こっちに座って、一緒にお茶でも飲みましょう」

政義「はあ……」

場面転換。

お茶のカップを渡す千枝。

千枝「はい、どうぞ」

政義「どうも……」

お茶をすする政義。

政義「あ、美味しい」

千枝「そうでしょう」

政義「なんか、落ち着きます」

千枝「もう、馬鹿なことしてはダメですよ」

政義「……ふふ」

千枝「あら、どうしたんですか?」

政義「いやあ。この年になって怒られるとは思いませんでした。なんか、新鮮だなって」

千枝「そうですか。それなら、いくらでも怒ってあげますよ」

政義「いえ。……もういいです」

千枝「うふふふ」

政義「ふふふふ」

政義(N)「千枝さんと名乗った、この女性は見たところ、私と同じくらいかやや年下といったところだろうか。千枝さんはいつも、この植物園に来ているらしい」

千枝「いつも友達とここでおしゃべりするのが日課でしてね。その友達が亡くなってからも、なんとなく来てしまうんですよね」

政義「そうなんですか。他に趣味などはないんですか?」

千枝「それが全く。何をするにも一人だと虚しくなっちゃって」

政義「ああ。わかります。私もそうですから。失礼ですが、ご家族は?」

千枝「5年前に主人に先立たれてからはずっと一人なんですよ」

政義「そうだったんですか……。いやあ、凄いですね」

千枝「すごい?」

政義「私も妻を一年前に亡くしましてね。生き甲斐も見つからず、一人の淋しさに押しつぶされそうですよ。どうしても逃げたくなってしまう。5年も一人で生きてらしているあなたが、純粋に凄いと思ってしまいました」

千枝「……私も最初はそうでした。ですが、さっき言った友達のおかげで、ここでおしゃべりするという生き甲斐を見つけて、それからは一人でいる寂しさにも耐えられるようになったんですよ」

政義「そうだったんですか」

千枝「そうだ。もしよろしければ、お互い、生き甲斐になりませんか?」

政義「え?」

千枝「生き甲斐がない者同士、ここでお話するという生き甲斐にするというのはどうでしょう?」

政義「ああ、いいですね。誰かと話せるというだけで、随分と寂しさは紛れます」

千枝「ふふ。あの人の言う通り、ここに通っていてよかったわ」

政義「え?」

千枝「いえね。さっき、話した友達なんですけど、もし、私が死んでからも一年はここに通い続けて欲しいって頼まれてたんですよ」

政義「へえ。なんでまた?」

千枝「さあ、私にもわからないですよ」

政義(N)「それからというもの、私は千枝さんと話すために、あの植物園に通うようになった」

場面転換。

政義「よし、そろそろ行くか……って、毎回、背広っていうのもな……。そうだ! 確かタンスの二段目に……」

タンスを漁る政義。

政義「ん? 手紙? ……友恵から?」

※ここから友恵の手紙。

友恵(N)「あなたがこの手紙を読んでいるということは、私はあなたとの約束を守れなかったということですね。ごめんなさい。あなたと一緒に第二の人生を生きるって約束したのに。もし、まだ、あなたが生き甲斐を見つけられていないなら、あの植物園に行ってみてください。あなたが、私を妻に選んでくれた、あの植物園です。そこにいけば、きっと生き甲斐を見つけられるはずです。その人も、きっと生き甲斐を失っているでしょうから。どうか、その人と一緒に、第二の人生を歩んでいってください」

政義「う、うう……」

政義(N)「友恵、凄いな。お前は二人の人間に一度に生き甲斐をくれた。ありがとう。もう少し、こっちで生きてみるよ」

終わり。

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