【声劇台本】三人目

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■概要
人数:5人
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
セティ
リナ
リサ
その他

■台本

セティ(N)「……私は人形。文字通り、人の形をした人形。意思を持たず、ただ、命令に従うだけの存在。それが、私……」

パーティ会場のざわめき。

それを天井裏から見ているセティ。

セティ「……」

場面転換。

ブライアン「はっはっは。アシュヴィン、と言ったか。伝説のアサシンだか何だか知らんが、この警備の中、私を狙えるわけがない。アシュヴィンなんて大層な名前も、どうせ話に尾ひれがついたものだ。大体……」

バンと電気が落ちる音。

ブライアン「な、なんだ、停電だと? おい、すぐに予備電源に切り替えろ!」

ドスとブライアンが刺される音。

ブライアン「なにっ……」

セティ「……任務、完了」

再び、バン!と電気が付く音。

同時に、女性の叫び声が響く。

場面転換。

セティ「……」

ルーカス「セティ、よくやったな。完璧だ」

セティ「ありがとうございます」

ルーカス「あそこまで素早く大胆に暗殺できる者は、アシュヴィンくらい……いや、アシュヴィンにだって不可能だ。失敗した任務は一度もないと言われるアシュヴィンであってもな」

セティ「……」

ルーカス「セティ。既にお前はオリジナルを超えたのだ。ふふふ。巨額の資金を投入し、アシュヴィンのクローンを作り出すことに成功した。いや、それ以上のものを作り出したのだ。この私が! 今の時代、兵器だけではなく、兵士さえも作り出す時代に移行したのだ。これからは私の時代だ。くくくく」

セティ「……」

ルーカス「いいか、セティ。お前がオリジナルを殺ることで、証明するのだ。最強の兵士を作り出す私こそが、世界を牛耳るべき人間なのだとな」

セティ「……はい」

ルーカス「ふふふ。奴をおびき出す仕掛けは既に打ってある。必ず、奴は近いうちに私を狙ってくる。そのとき、お前がアシュヴィンを始末するのだ」

セティ「はい」

ルーカス「作戦まで、お前は部屋で休んでいろ」

セティ「……あの、ルーカス様」

ルーカス「なんだ?」

セティ「外を……少しだけ散歩してもよいでしょうか?」

ルーカス「……構わん。だが、妙なことは考えセティよ。お前の体には発信機と爆薬が入っていることにな」

セティ「……はい」

場面転換。

昼の公園。子供や家族連れの人たちでにぎわっている。

セティ「……」

リナ「隣、いいかしら?」

セティ「……え?」

リナ「隣空いてセティら、座ってもいい?」

セティ「このベンチは公共のもので、私の所有するものではありません。座ることに、私の許可は必要ないではないですか?」

リナ「ふふふふ。随分、変わった考え方するのね。あなたが先に座っていたんだから、あなたが決めていいんじゃない?」

セティ「……どういうことでしょう? 座っただけで所有権が移ることはあり得ません」

リナ「うーん。そんなに固く考えなくていいんじゃない、って話なんだけど。じゃあ、隣、座らせてもらうわね」

セティ「ですから、私に拒否権はありません」

スッとリナがセティの隣に座る。

リナ「私はリナ。あなたは?」

セティ「……セティ、です」

リナ「よろしくね、セティ」

セティ「よろしく? 私はあなたに何かするべきなんでしょうか?」

リナ「いや……そういうわけじゃないんだけど……挨拶よ、挨拶」

セティ「そうですか。挨拶でしたか。……えっと、おはようございます」

リナ「ねえ、もしかしてセティって、どこかのお嬢様だったりする?」

セティ「違います。なぜですか?」

リナ「なんていうか、世間離れしてるっていうか」

セティ「……なるほど。普通じゃないというわけですね」

リナ「あ、いや、そこまでじゃなくて」

セティ「実は、私、こうして一人で外に出ることが許されるようになったのは、最近のことなんです」

リナ「……どうして? 病気だった、とか?」

セティ「ある特殊な訓練を受けていたからです。その訓練は日夜問わず行われていて、外に出る時間が確保できなかった、というわけです」

リナ「……特殊な訓練?」

セティ「極秘なので、言うことはできません」

リナ「そんな生活していて、両親は何も言わないの?」

セティ「……親はいません。というより、私は人形ですから、親は存在しない、と言った方が正しいですね」

リナ「……人形?」

セティ「私は偽物なんです。作られた存在。体も、技術も全て。心だけが未完成です」

リナ「どうして?」

セティ「心は必要ないと言われたので」

リナ「……そう」

セティ「それでは、私はそろそろ行きます」

リナ「もう少しお話したかったけど、残念ね。楽しかったわ。ありがとう」

セティ「……お礼を言われるようなことはしてません」

リナ「あはは……。考えが固いなぁ。それじゃ、セティ。またね」

セティ「……もう、会うことはありません。さよなら」

場面転換。

施設内。

うっすらと聞こえる、人が走る音。

ルーカス「来たぞ。アシュヴィンだ。くくく。センサーに引っかかってることも知らずに。あんなざまで、伝説のアサシンとは笑わせる。セティ。始末してこい」

セティ「はい」

場面転換。

ごく小さく人が走る音。

そこに鋭い、ナイフが空を割く音。

リナ「くっ!」

セティ「……」

リナ「凄いわね。まったく殺気を感じなかったわ」

セティ「……」

リナ「やっぱり、あなただったのね」

セティ「……」

リナが覆面を取る。

リナ「ぷはっ! やっほー、セティ。またあったわね」

セティ「……あなたは昼間の。あなたが……アシュヴィン?」

リナ「まあね。で、相談なんだけど、退いてくれない? 私、セティとは戦いたくないの」

セティ「なぜ、そんな提案を、私が受けると思うんですか?」

リナ「セティ。あなたはどうして戦うの?」

セティ「命令だからです」

リナ「あなた自身はどう思ってるの?」

セティ「私は人形です。人形に意思は必要ありません」

リナ「人形か……。ねえ、セティ。あなたはっ」

シュッとナイフが空を切る音。

リナ「っと、危ない危ない」

セティ「話は終わりです」

リナ「そう? 残念ね。昼間の続きをしたかったんだけど……」

セティ「……」

何度もナイフが空を切る音。

リナ「くっ!」

セティ「……」

リナとセティのナイフが斬り結ぶ音。

そして、キンとナイフが弾かれる音。

リナ「くっ……。ナイフの扱いはセティの方が上みたいね」

セティ「アシュヴィン。あなたのデータは全て洗い出しました。ありとあらゆるデータは、私の方が上です」

リナ「なるほど。私よりも強いってわけね」

セティ「はい」

リナ「確かに、セティ。あなたの方が強いわ。だけどね、勝敗はまた別よ」

セティ「強がりですね。私の勝ちです」

リナ「ふふ。どうして、アシュヴィンって呼ばれているか、教えてあげるわ」

セティ「……」

トンっと、後ろから首筋を打たれる音。

セティ「なっ……」

セティが倒れる。

リナ「遅いわよ、リサ。で? 任務は?」

リサ「完了したわよ。ルーカスってマッドサイエンティストは消したわ」

セティ「……双子?」

リナ「そういうこと。ごめんね。騙しちゃって。アシュヴィンは私とリサの二人のコードネームなの」

セティ「……じゃあ、センサーに引っかかったのも」

リナ「わざと。私に注意を引き付けてる間に、リサが任務を遂行する」

セティ「……私の負けです。止めを刺してください」

リナ「なんで?」

セティ「……私は人形です。持ち主がいなくなれば、必要がなくなります」

リナ「セティ。あなたは人形なんかじゃないわ。人間よ」

セティ「……違います。私は作られた存在の人形なんです。不要になった人形……」

リナ「例え作られたんだとしても、あなたが人間であることは変わらない。それに不要なんかじゃないわ。……私が必要としてる」

セティ「……ですが、私はどうしていいのか……これからどう生きていいのかわかりません」

リナ「それなら、それを見つけるために生きればいいじゃない」

セティ「見つけるために……生きる?」

リナ「そ。あんまり難しく考えなくていいのよ。とりあえず、私たちと生きてみよう」

セティ「……私は意思の持たない人形です。だから、自分で判断ができません……」

リナ「そっか。じゃあ、セティは私が所有する人形ってことでいいの?」

セティ「はい」

リナ「それじゃ、持ち主として命令するわ」

セティ「はい」

リナ「これからは人形じゃなく、人間として生きなさい! 私たちと一緒に」

セティ「わかりました」

セティ(N)「この日、私は人形ではなくなった。まだ、人間として、どう生きていいのかわからなけれど、それでも、生きるための理由というのを探しながら進んでいこうと思う」

終わり。

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