【声劇台本】働かないアリ
- 2021.04.20
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人以上
時間:20分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
海藤 紬(かいとう つむぎ)
才賀 一斗(さいが かずと)
その他
■台本
カタカタカタとキーボードを打つ音。
勢いよくエンターキーを押す。
紬「ふう……。才賀先輩、データー組み終わりました。チェックを……あれ? あの……才賀先輩、見ませんでした?」
女性「タバコ休憩じゃない?」
紬「……またですか? 先輩、タバコ吸わないのに……」
女性「まあ、タバコが目的じゃないからね」
紬「ああ、もう!」
バンと机を叩いて、立ち上がる紬。
場面転換。
一斗「はははは。そりゃモッチーが悪いよ」
紬「才賀先輩!」
一斗「ん? 海藤さん、どうしたの?」
紬「どうしたの、じゃないですよ。先輩から頼まれた機能、組み終わったんで、チェックをお願いしたいんですけど」
一斗「ああ。そっか。早いね。さすが。じゃあ、テストは沼っち……沼田さんにお願いしといて」
紬「いや、あのタスク、元々、先輩の仕事ですよね? 先輩がチェックすべきなんじゃないんですか?」
一斗「いやあ。そう言ってもさー、俺、よく仕様わかってないんだよねー。それなら、その辺、把握している沼っちがテストした方が効率的だと思うよ」
紬「……」
場面転換。
カタカタカタとキーボードを打つ音。
後ろから一斗がやってくる。
一斗「あれ? 海藤さん? まだ残業してたの?」
紬「……はい」
キーボードを打ち続ける紬。
一斗「うーん。やる気があるのはわかるけどさー。頑張り過ぎは体、壊すよ?」
乱暴にエンターキーを叩く紬。
紬「誰のせいだと思ってるんですか!」
一斗「……え? 俺のせい? あ、もしかして、あのタスクのこと? チェックのために俺を待ってた、とか?」
紬「あの件は沼田さんにチェックしてもらって、納品しました」
一斗「あ、そうなんだ。じゃあ、今は何やってるの?」
紬「……自分の分のタスクです」
一斗「ええ? じゃあ、自分の分のタスクよりも、俺のタスクの方を先にやってくれたってこと?」
紬「……先輩のタスクの方が納期、近いですから」
一斗「ごめんごめん。そのタスク、俺の方に送っておいて」
紬「……先輩、これからやるんですか?」
一斗「いや、明日やるよ」
紬「……じゃあ、いいです」
一斗「え? なんで? 別に納期、今日じゃないんでしょ?」
紬「そうですけど、チェックも考えると、今日中に目途を付けておきたいんです」
一斗「んー。無理することないと思うけどな。あ、そうだ。明日、俺が部長に頼んで、納期をリスケしてもらうよ」
紬「いいです」
一斗「え? なんで?」
紬「私が……仕事、できないみたいじゃないですか」
一斗「んなこと、誰も思わないって。海藤さん、いつも頑張ってるでしょ」
紬「先輩と比べれば、誰だって頑張ってるように見えます」
一斗「ははは。手厳しいな」
紬「もう放っておいてください。お疲れさまでした」
一斗「……な、なんか手伝うけど?」
紬「お、つ、か、れ、さ、ま、で、し、た!」
一斗「……お、お先に失礼します」
場面転換。
カタカタカタとキーボードを打つ音。
ピタリと手が止まる。
紬「はあ……」
女性「海藤さん、大丈夫? 少し休憩したら? 昨日も遅くまで残業してたんでしょ?」
紬「平気です……。終電で帰れましたから」
女性「……」
部長「海藤、才賀のタスク状況はどうなってる?」
紬「あの、部長。ちょっといいですか?」
部長「ん? ああ」
場面転換。
紬「才賀先輩、チームから外してくれませんか?」
部長「……そろそろ言われると思ってたよ。けど、才賀はチームに必要な奴だ」
紬「どうしてですか! あの人、全然仕事してません! それで、私に全部、押し付けて……。私、もう耐えられません」
部長「……才賀がお前に押し付けたのか?」
紬「いえ……。ですが、放っておいたら納期過ぎてしまいますから」
部長「なるほど。海藤はもう、チームのタスクを把握できてるのか。すごいな」
紬「話を逸らさないでください!」
部長「……働きアリの中には、働かないアリがいるって知ってるか?」
紬「……いえ、知りません」
部長「不思議なことに。その働かないアリを抜くと、今度は今まで働いていたアリの中から、働かなくなるアリが出てくるんだ」
紬「才賀先輩は働かないアリだっていいたんですか? ですが、私達はアリじゃありません!」
部長「……そういうことじゃないんだが、もう少しだけ様子を見てくれ」
紬「……」
場面転換。
誰もいない、夜のオフィス。
カタカタカタとキーボードを打つ音。
そこに電話がかかって来る。
紬「はい。……はい。そのタスクの担当は私です。……え? ちょ、ちょっと待ってください。確認します。はい、はい」
ガチャっと電話を切る。
マウスのクリック音とキーボードを叩く音。
紬「……あ、嘘。え? どうして?」
キーボードを叩く音。
紬「あれ? 仕様と合ってるはずなのに」
一斗「ここの要件定義、間違えてない?」
紬「きゃあっ!」
一斗「ごめん、驚かせちゃったか」
紬「才賀先輩、上がったんじゃ……」
一斗「いや、今まで二課の人と喋ってた」
紬「……」
一斗「このタスク、納期は?」
紬「明日の朝……です」
一斗「どうするつもり?」
紬「徹夜で直します」
一斗「いや、無理っしょ」
スマホを取り出して、電話を掛ける一斗。
紬「あ、部長には……」
一斗「あ、モッチー? ごめんごめん。ちょっとミスってさ。手伝ってくんない?」
紬「え?」
一斗「ありがと! 今から、海藤さんからデータ送ってもらうから。ん? ああ、うん。海藤さんにも手伝ってもらってる。すまんね、今度奢る」
ピッと電話を切る。
紬「あの……」
電話を掛ける一斗。
一斗「あ、倉田さん? 納期勘違いしてたタスクあってさー。助けてー」
場面転換。
一斗「よし、人員は確保した。海藤さんは送られてくるプログラムのテストをやって」
紬「……才賀先輩は?」
一斗「見守ってる!」
紬「はあ(ため息)……」
場面転換。
紬「……納品できました」
一斗「よかったよかった」
紬「あの、ありがとうございました」
一斗「ん? 俺は別に何もしてないよ」
紬「でも、才賀先輩のおかげで、間に合いました」
一斗「……俺はさ、無能なんだよ」
紬「はい」
一斗「そこ、はいって言っちゃう?」
紬「あっ! す、すいません」
一斗「はは。まあ、ホントのことだからいいんだけどさ。でさ、俺は無能だから、誰かに助けて貰わないと仕事が回らないんだ」
紬「……」
一斗「だから、俺は人脈を作るしかないんだ」
紬「それで、いつも色々な人と話してるんですね」
一斗「まあ、半分は楽しいからだけどね」
紬「……人脈、ですか。私、全然、築けてませんでした。いえ、考えもしなかったです。……ダメですね、私」
一斗「いや。海藤さんには海藤さんの仕事のやり方がある。一生懸命、仕事を進められることは凄いと思うし、格好いいよ」
紬「……」
一斗「海藤さんは、今の自分のまま自信もって進めばいい」
紬「はい」
一斗「まあ、唯一の欠点は一人で頑張り過ぎることだね。困ったことがあったら、相談してもらえれば、俺が助けてくれる人を探すからさ」
紬「ふふ。他力本願なんですね」
一斗「仕方ないでしょ。俺、無能なんだから」
紬「そうですね」
一斗「うわ、酷い」
紬「ホントのことじゃないですか」
一斗「そうなんだけどさー」
紬「ふふふ」
一斗「ははははは」
終わり。
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