【声劇台本】冬の夜空に咲く花
- 2021.04.24
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
昴(すばる)
孝介(こうすけ)
真雪(まゆき)
■台本
昴(N)「雪のような白い肌と、すぐに消えてしまいそうなほど儚く、弱弱しい。それが最初に真雪を見た時の印象だった。これは、そんな雪のような少女と俺たちの、ひと冬の物語だ」
場面転換。
昴「どうだ! 孝介、でけーだろ!?」
孝介「甘いな、昴。雪だるまは大きさじゃない。どれだけ芸術的に作れるかだよ」
昴「ぐぬぬ。お前、それって雪だるまじゃなくて、雪像(せきぞう)だろ。ルール違反だから、俺の勝ちだろ」
孝介「はあ? 雪だるまの定義ってなんだよ? 雪だるまも雪像も変わらないだろうが」
昴「いーや! だるまって言うくらいだから、手足があったらダメだっての!」
孝介「昴のも手、生えてるじゃねーか。枝を刺しただけだけど」
昴「うっ! と、とにかく雪だるまは大きい方が強いに決まってる」
孝介「……強いってなんだよ」
そのとき、パチパチと拍手がする。
真雪「どっちもすごーい!」
孝介「……」
昴「お、俺のが凄いだろ? 大きいし」
真雪「んー。どっちも勝ちでいいんじゃない?」
昴「ダメだ! 勝者は必ず一人って決まってる1」
真雪「じゃあ、どっちも負けでいいんじゃない?」
昴「……」
孝介「ははは。面白いね。なあ、昴。今回は引き分けってことで」
昴「……しょうがないな」
孝介「ところで、君、だれ?」
真雪「あ、私は真雪。あそこの奥の家に住んでるの」
昴「ああ。去年から空き家に人が引っ越して来たって言ってたけど、君の家族だったんだ?」
真雪「うん。そうだよ」
孝介「……けど、この辺に住んでるなら、どうしてうちの学校に来ないの?」
真雪「私……体が弱くて、学校に通えないの。だから、いつも家で勉強してるの」
昴「へー。家で勉強か。いいなぁ。楽そうで」
孝介「バカ、昴!」
真雪「んー。確かに楽だけど、私はみんなと勉強したいなぁ。楽しそうだもん」
昴「みんなって言っても、中学のクラスは全員で5人だし、先生も怖いしで、そんな楽しいことないぞ?」
真雪「えー、一人でいるよりは、絶対面白いと思うけどな」
孝介「……毎日じゃなくても、週に何回かとか来られないの?」
真雪「んー。無理かな。特に冬は体調崩しやすいし」
昴「確かに教室はボロいから寒いもんな」
真雪「ねえ、二人とも、これから私のうちに遊びに来ない? 同年代の友達って始めてなの」
孝介「……まあ、いいよな?」
昴「うん。別にいいよ」
場面転換。
昴「うがー、また負けた!」
真雪「えへへへ」
孝介「真雪はどのゲームも強いな」
真雪「そりゃ、家じゃゲームくらいしかやれないから、強くもなるよ」
昴「くそー。実際のバスケなら負けないのになー」
孝介「……バカ、昴」
真雪「あははは。そうだねー。実際にやるとなったら、勝ち目ないかな」
昴「あ、ごめん……」
真雪「こらこら。そうやって、気を使わないでよ。友達でしょ?」
昴「ああ、そうだよな。すまんすまん」
真雪「そうだ。来週、村で雪まつりするって聞いたよ。雪像とかいっぱい作るんだって?」
孝介「ああ。そして、俺が3年連続で優勝してる」
昴「くそー。今年こそは俺が……」
孝介「いや、昴。デカいだけじゃ無理だ」
真雪「へー。楽しみ!」
孝介「その日は、真雪は参加できるの?」
真雪「うん。一日くらいなら、出れるよ」
昴「まあ、雪まつりもいいけど、やっぱ、村の祭りって言えば、夏祭りだよな」
真雪「夏祭り?」
昴「ああ。毎年、8月15日に村で祭りをやるんだよ。そのときはさ、でっかい花火を打ち上げるんだぜ!」
真雪「……」
孝介「どうしたの?」
真雪「私、きっと、その頃には、ここにいないと思う」
昴「え?」
孝介「それって」
真雪「……三人で一緒に、花火見たかったなぁ」
昴「……」
孝介「……」
場面転換。
昴が走ってきて、教室のドアを開ける。
昴「孝介! 大変だ! 真雪が……」
孝介「……真雪が、どうしたんだ?」
昴「今日の朝、病院に行ったって」
孝介「……」
昴「真雪のお母さんの話じゃ、冬まつりは、難しいって……。ごめんなさいって……」
孝介「そんな……」
昴「なあ、孝介。俺、真雪に花火を見せてやりたい」
孝介「そりゃ、俺も見せてやりたいけど、どうやって……」
昴「じいちゃんに聞いたんだけど、夏祭り用の花火って、すごい大量に上げるだろ?」
孝介「ああ」
昴「で、大体、一年かけて作るんだってさ」
孝介「……昴、お前、まさか」
昴「花火を盗む」
孝介「バカ! そんなことしたら……」
昴「めちゃくちゃ怒られるだろうな。けどさ、どうしても見せてやりたいんだ。真雪に……花火を」
孝介「……そう、だな」
場面転換。
真雪「昴! 孝介! ありがとう。わざわざ病院に来てくれて!」
孝介「しー! 静かに」
昴「真雪。厚着して、屋上に行くぞ」
真雪「え?」
場面転換。
ヒューと花火が打ちあがり、ドーンと花火が夜空に咲く。
真雪「うわー。綺麗……」
昴「だろ? まだまだあるぞ」
真雪「でも、どうしたの? こんなにたくさんの花火」
昴「真雪、見たいって言ってただろ? 三人で花火」
孝介「どうしても、真雪に見せたくってさ」
真雪「昴、孝介。……すごく、嬉しいよ。……今日のこと、絶対に忘れないからね。……本当に、ありがとう」
ヒューと花火が上がり、ドーンと花火が咲いていく。
場面転換。
ミーンミーンとセミの鳴く声。
孝介「もう9ヶ月経つんだよな。あれから」
昴「止めろ。トラウマをえぐるな」
そこに真雪が走ってくる。
真雪「おっはよー! 二人とも、なんの話してるの?」
昴「9ヶ月前の、お前の詐欺の話だ」
真雪「ひどーい! 詐欺って。あれは昴と孝介が勝手に勘違いしてただけでしょ」
孝介「いや、病院に行ったって聞いたらさ、普通、命の危険があるって思うでしょ」
真雪「それは謝ったじゃない。前もって、検査入院するって言えばよかったって」
昴「大体、おかしいと思ったんだよ。病院に行ったら、お前、すげー、元気そうだったし」
真雪「ある意味、あの後の二人の方が重傷だったもんね。顔面が」
昴「花火盗んだことで、じいちゃんと親父に、しこたま殴られたんだよな。一週間、腫れがひかなかったしさ……」
孝介「俺はさらに、4カ月小遣いなしにされたんだよ」
真雪「大変だったんだねー」
昴「っていうか、真雪! お前さー、夏までもたないみたいなこと言っておきながら、今も全然、元気じゃん! あの言葉に騙されたと言ってもいいくらいだぞ」
真雪「え? 私、そんなこと言ったっけ?」
孝介「ほら、夏祭りにはもういないってさ」
真雪「……あー。あれか。あれは、うちって、毎年、8月の15日頃は家族でハワイ旅行に行くからさ。だから、その頃は村にいないなーって」
昴・孝介「……は?」
真雪「あ、でもね。お父さんに、今年は村の夏祭りに参加したいって言ったら、ハワイ旅行は止めだって。だから、夏祭りは三人で参加できるよ! 楽しみだねー」
昴「ふ、ふ、ふ、ふざけんなー!」
昴(N)「……俺たちと真雪との、ひと夏の物語。そっちの方は、どうやら楽しいものになりそうだ」
終わり。
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