【声劇台本】冬の夜空に咲く花

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
昴(すばる)
孝介(こうすけ)
真雪(まゆき)

■台本

昴(N)「雪のような白い肌と、すぐに消えてしまいそうなほど儚く、弱弱しい。それが最初に真雪を見た時の印象だった。これは、そんな雪のような少女と俺たちの、ひと冬の物語だ」

場面転換。

昴「どうだ! 孝介、でけーだろ!?」

孝介「甘いな、昴。雪だるまは大きさじゃない。どれだけ芸術的に作れるかだよ」

昴「ぐぬぬ。お前、それって雪だるまじゃなくて、雪像(せきぞう)だろ。ルール違反だから、俺の勝ちだろ」

孝介「はあ? 雪だるまの定義ってなんだよ? 雪だるまも雪像も変わらないだろうが」

昴「いーや! だるまって言うくらいだから、手足があったらダメだっての!」

孝介「昴のも手、生えてるじゃねーか。枝を刺しただけだけど」

昴「うっ! と、とにかく雪だるまは大きい方が強いに決まってる」

孝介「……強いってなんだよ」

そのとき、パチパチと拍手がする。

真雪「どっちもすごーい!」

孝介「……」

昴「お、俺のが凄いだろ? 大きいし」

真雪「んー。どっちも勝ちでいいんじゃない?」

昴「ダメだ! 勝者は必ず一人って決まってる1」

真雪「じゃあ、どっちも負けでいいんじゃない?」

昴「……」

孝介「ははは。面白いね。なあ、昴。今回は引き分けってことで」

昴「……しょうがないな」

孝介「ところで、君、だれ?」

真雪「あ、私は真雪。あそこの奥の家に住んでるの」

昴「ああ。去年から空き家に人が引っ越して来たって言ってたけど、君の家族だったんだ?」

真雪「うん。そうだよ」

孝介「……けど、この辺に住んでるなら、どうしてうちの学校に来ないの?」

真雪「私……体が弱くて、学校に通えないの。だから、いつも家で勉強してるの」

昴「へー。家で勉強か。いいなぁ。楽そうで」

孝介「バカ、昴!」

真雪「んー。確かに楽だけど、私はみんなと勉強したいなぁ。楽しそうだもん」

昴「みんなって言っても、中学のクラスは全員で5人だし、先生も怖いしで、そんな楽しいことないぞ?」

真雪「えー、一人でいるよりは、絶対面白いと思うけどな」

孝介「……毎日じゃなくても、週に何回かとか来られないの?」

真雪「んー。無理かな。特に冬は体調崩しやすいし」

昴「確かに教室はボロいから寒いもんな」

真雪「ねえ、二人とも、これから私のうちに遊びに来ない? 同年代の友達って始めてなの」

孝介「……まあ、いいよな?」

昴「うん。別にいいよ」

場面転換。

昴「うがー、また負けた!」

真雪「えへへへ」

孝介「真雪はどのゲームも強いな」

真雪「そりゃ、家じゃゲームくらいしかやれないから、強くもなるよ」

昴「くそー。実際のバスケなら負けないのになー」

孝介「……バカ、昴」

真雪「あははは。そうだねー。実際にやるとなったら、勝ち目ないかな」

昴「あ、ごめん……」

真雪「こらこら。そうやって、気を使わないでよ。友達でしょ?」

昴「ああ、そうだよな。すまんすまん」

真雪「そうだ。来週、村で雪まつりするって聞いたよ。雪像とかいっぱい作るんだって?」

孝介「ああ。そして、俺が3年連続で優勝してる」

昴「くそー。今年こそは俺が……」

孝介「いや、昴。デカいだけじゃ無理だ」

真雪「へー。楽しみ!」

孝介「その日は、真雪は参加できるの?」

真雪「うん。一日くらいなら、出れるよ」

昴「まあ、雪まつりもいいけど、やっぱ、村の祭りって言えば、夏祭りだよな」

真雪「夏祭り?」

昴「ああ。毎年、8月15日に村で祭りをやるんだよ。そのときはさ、でっかい花火を打ち上げるんだぜ!」

真雪「……」

孝介「どうしたの?」

真雪「私、きっと、その頃には、ここにいないと思う」

昴「え?」

孝介「それって」

真雪「……三人で一緒に、花火見たかったなぁ」

昴「……」

孝介「……」

場面転換。

昴が走ってきて、教室のドアを開ける。

昴「孝介! 大変だ! 真雪が……」

孝介「……真雪が、どうしたんだ?」

昴「今日の朝、病院に行ったって」

孝介「……」

昴「真雪のお母さんの話じゃ、冬まつりは、難しいって……。ごめんなさいって……」

孝介「そんな……」

昴「なあ、孝介。俺、真雪に花火を見せてやりたい」

孝介「そりゃ、俺も見せてやりたいけど、どうやって……」

昴「じいちゃんに聞いたんだけど、夏祭り用の花火って、すごい大量に上げるだろ?」

孝介「ああ」

昴「で、大体、一年かけて作るんだってさ」

孝介「……昴、お前、まさか」

昴「花火を盗む」

孝介「バカ! そんなことしたら……」

昴「めちゃくちゃ怒られるだろうな。けどさ、どうしても見せてやりたいんだ。真雪に……花火を」

孝介「……そう、だな」

場面転換。

真雪「昴! 孝介! ありがとう。わざわざ病院に来てくれて!」

孝介「しー! 静かに」

昴「真雪。厚着して、屋上に行くぞ」

真雪「え?」

場面転換。

ヒューと花火が打ちあがり、ドーンと花火が夜空に咲く。

真雪「うわー。綺麗……」

昴「だろ? まだまだあるぞ」

真雪「でも、どうしたの? こんなにたくさんの花火」

昴「真雪、見たいって言ってただろ? 三人で花火」

孝介「どうしても、真雪に見せたくってさ」

真雪「昴、孝介。……すごく、嬉しいよ。……今日のこと、絶対に忘れないからね。……本当に、ありがとう」

ヒューと花火が上がり、ドーンと花火が咲いていく。

場面転換。

ミーンミーンとセミの鳴く声。

孝介「もう9ヶ月経つんだよな。あれから」

昴「止めろ。トラウマをえぐるな」

そこに真雪が走ってくる。

真雪「おっはよー! 二人とも、なんの話してるの?」

昴「9ヶ月前の、お前の詐欺の話だ」

真雪「ひどーい! 詐欺って。あれは昴と孝介が勝手に勘違いしてただけでしょ」

孝介「いや、病院に行ったって聞いたらさ、普通、命の危険があるって思うでしょ」

真雪「それは謝ったじゃない。前もって、検査入院するって言えばよかったって」

昴「大体、おかしいと思ったんだよ。病院に行ったら、お前、すげー、元気そうだったし」

真雪「ある意味、あの後の二人の方が重傷だったもんね。顔面が」

昴「花火盗んだことで、じいちゃんと親父に、しこたま殴られたんだよな。一週間、腫れがひかなかったしさ……」

孝介「俺はさらに、4カ月小遣いなしにされたんだよ」

真雪「大変だったんだねー」

昴「っていうか、真雪! お前さー、夏までもたないみたいなこと言っておきながら、今も全然、元気じゃん! あの言葉に騙されたと言ってもいいくらいだぞ」

真雪「え? 私、そんなこと言ったっけ?」

孝介「ほら、夏祭りにはもういないってさ」

真雪「……あー。あれか。あれは、うちって、毎年、8月の15日頃は家族でハワイ旅行に行くからさ。だから、その頃は村にいないなーって」

昴・孝介「……は?」

真雪「あ、でもね。お父さんに、今年は村の夏祭りに参加したいって言ったら、ハワイ旅行は止めだって。だから、夏祭りは三人で参加できるよ! 楽しみだねー」

昴「ふ、ふ、ふ、ふざけんなー!」

昴(N)「……俺たちと真雪との、ひと夏の物語。そっちの方は、どうやら楽しいものになりそうだ」

終わり。

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