【声劇台本】その手に握られたもの

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
剛史(つよし)
謙介(けんすけ)
雅人(まさと)
その他

■台本

剛史(N)「努力なんてくだらねえ。世の中、要領がいい奴が勝つ。そんなことは中学に入ったときに、とっくに気づいていた。なのに、親やセンコー、有名人なんかは、努力が成功にもっとも必要だと嘘を付く。そんな嘘に、馬鹿な奴が騙されていくんだ。だが、俺は違う。要領良く、世の中を渡って行ってやる」

場面転換。

路地裏。

剛史「よお、謙介」

謙介「あ……剛史くん」

剛史「今週の友達料はどうしたよ? まだもらってねえぞ?」

謙介「いや……その……もう小遣いがなくて……」

剛史「ふーん。じゃあ、なんか売れば? ゲームとか、漫画とかさ」

謙介「で、でも……」

ドスっと腹を殴る。

謙介「うっ……」

剛史「口答えしてんじゃねえよ。お前は、俺の言うことをはいはい言ってればいいんだ」

剛史(N)「学校生活を楽しく過ごすコツ。それは弱そうな奴を見つけて寄生する。小遣いを奪って、イライラした時は発散に使う。ここで重要なことはやり過ぎないこと。殴るときは必ず目立たない腹にする。そして、絶対に5発以上は殴らない。あと、学校の外でやる。そうすれば、学校は口を出してこない。こうやって要領良く、中学生活を楽しんできたんだ」

雅人「これが苛めって奴か。初めて見たな」

剛史「ああ? なんだお前?」

雅人「通りすがりの高校生だ」

剛史「……あっちに行け。お前には関係ないだろ」

雅人「関係ないからって、関わっちゃダメってわけじゃないだろ?」

剛史「高校生だからって、調子に乗るなよ。ぶん殴るぞ!」

雅人「ご自由に」

剛史「……」

剛史が歩み寄り、雅人に向かってパンチを放つが、空を切る。

剛史「なっ!」

雅人「悪いな。男に殴られる趣味はねーんだ」

ドスっと雅人が剛史の腹を殴る。

剛史「うぐっ……」

雅人「……お前さ。悔しくないのか?」

謙介「え? それは……」

雅人「もちろん、イジメる方が悪い。けど、正論を言ったところで、状況は変わらない。それなら、どうするか?」

謙介「どうするんですか?」

雅人「強くなるしかない」

場面転換。

堤防を歩く剛史。

剛史「くそ……。まだ、腹が痛ぇ」

雅人「違う! もっと、脇を締めて」

謙介「は、はい!」

剛史「……」

剛史(N)「謙介はあれから、あの高校生に空手を習い始めた。毎日、川原で練習している。あの高校生が一緒だから、謙介に手は出せなくなった。……けど、このままじゃヤバいな。あいつが強くなったら、仕返しされるかもしれない。なら、どうするか。……俺も強くなればいい」

場面転換。

図書館。本をペラペラとめくる剛史。

剛史「えっと……超回復をすることで筋肉が増えるのか。じゃあ、毎日、筋トレするのは非効率だな……。効率よくするには……」

剛史(N)「何事も要領良く。もちろん、特訓も効率よくやることが肝心だ。そのためにはまずは調べる。そして、ベストのメニューを組む」

剛史「よし……できた!」

場面転換。

剛史「いててて……。筋肉痛が取れないな。今日の特訓は止めておこう。その代わり、明日のメニューは2倍やろう」

場面転換。

雨が降る音。

剛史「……雨か。雨なら仕方ないな。今日の特訓は止めよう。その分、明日やろう」

場面転換。

堤防を歩く剛史。

剛史「あーあ、暇だな。なんか面白いことねーかな」

雅人「ほら! もう少しだ! 頑張れ!」

謙介「はい!」

剛史「……」

剛史(N)「考えてみれば、あいつに近づかなければいいだけだ。あんなやつに張り合うために俺が努力なんかする必要はない。金を巻き上げることはできなくなったけど、まあ、また違う奴を見つければいい」

場面転換。

堤防を歩く剛史。

剛史「……もうすぐ、卒業か。面白くねえ中学生活だったぜ」

謙介「はっ! はっ!」

謙介が正拳突きをしている。

剛史「……あいつ。まだやってるのか」

剛史(N)「あいつに手を出さなくなって2年。すっかり、あいつのことを忘れていた。考えてみれば、あの日から俺の学校生活がつまらなくなった。くそ! あの日、あの高校生が現れなかったら、今もあいつから金をとれたのに……」

剛史「あれ? そういえば、あの高校生がいないな……。そうだ!」

ポケットから携帯を出し、電話をかける。

剛史「もしもし? あ、先輩ですか?」

場面転換。

謙介が正拳突きをしている。

謙介「はっ! はっ!」

剛史「よお、謙介」

謙介「あ、剛史くん」

剛史「そういえばよ、友達料、2年分溜まってるんだけど、払ってくれよ」

謙介「嫌だ! 僕は、剛史くんとは友達なんかじゃない」

剛史「へえ、そっかそっか。じゃあ、仕方ないな。……先輩! お願いします!」

ゾロゾロと不良たちが集まってくる。

謙介「え?」

不良1「お前か? 俺らを潰すって言ってんのは?」

謙介「ち、違う……」

剛史「お願いします。こいつ、空手に自信があるみたいで、調子に乗ってるんですよ」

不良2「へえー。この人数相手でも、勝てるか見せてくれよ」

謙介「くっ!」

不良1「いくぞ、おら!」

場面転換。

謙介「う、うう……」

不良2「ふん。手こずらせやがって……」

不良1「これで懲りただろ? 空手なんて、通じねえよ」

剛史「ふふふ……。なあ、謙介。お前の2年の努力は無駄だったな。ざまあみろ」

剛史(N)「一人で勝てないなら、大人数で囲めばいい。世の中、要領がいい奴が勝つ。それが証明された。それから俺は高校、大学と、要領よく、それなりにやっていった。可もなく不可もなく。まあ、人生なんて、そんなもんだろ」

場面転換。

部長「おい、この仕様書、間違ってるぞ!」

剛史「……あ、それ、佐藤くんが作成したやつです」

部長「あ、そうなのか。佐藤に、ちゃんと確認してから出せって言っておけ」

剛史「はい。わかりました」

部長が行ってしまう。

佐藤「剛史さん、そりゃないっすよ。それ、剛史さんが作った資料書じゃないですか」

剛史「ごめんごめん。今度、奢るからさ」

佐藤「んなこと言って、奢ってくれたことないじゃないっすか」

剛史「ははは……」

剛史(N)「要領よく、それなりの会社に入って、それなりに仕事をしている。努力なんかしなくても、ここまで来れた。やっぱり、努力なんかしなくてもいいんだ」

佐藤「おお! すげー!」

剛史「ん? ニュースサイト? なんか面白い記事でも載ってたのか?」

佐藤「見てくださいよ! 謙介が総合格闘技の大会で優勝っすよ! 一回り小さい体で海外の選手をバッタバッタ倒してるんすよ。すげーなー!」

剛史「……謙介? あっ!」

佐藤「どうしたんすか?」

剛史「……いや、なんでもない……」

剛史(N)「優勝トロフィーを持って笑顔を浮かべている写真。そこには、あの謙介が載っていた。……あいつ。あれからもずっと努力をし続けていたのか? あの日、努力なんて無駄だって教えたのに……。なのに、あいつはそれでもずっと努力を続けていた。……俺は、これまでずっと要領よくやってきた。その結果、俺の手には何が握られているのだろうか?」

終わり。

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