桃太郎は平穏に暮らしたい

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、童話、コメディ

■キャスト
桃太郎
おじいさん
おばあさん


キジ

鬼の大将

■台本

桃が川を流れる音。

桃太郎(N)「俺の名前は桃太郎。今、桃の中に入って、川を流れている。……ん? まだ生まれてないから、名前を付けられてないだろうって? いいんだよ、そんな細けぇことは。それより、問題は、この後、俺は鬼退治をさせられるってことだ。今どきさー、親が子供の将来を決めるって、あり得なくないか? 時代遅れだよ、時代遅れ。……まあ、今は、昔の話なんだけど。とにかく、俺は親が作ったレールの上を走るつもりはない。だから、精いっぱい、足掻いてみようと思う」

桃が川を流れる音。

おばあさん「おや、まあ! 川から大きな桃が流れてきたわ!」

桃太郎(N)「来た。最初のポイント。ここでばあさんに拾われてしまうから、鬼退治なんてさせられるんだ。ここは、ばあさんの手が届かないように川のアウトコースを流れることにしよう。俺は、もっとボンキュッボンのエロいおねーさんに拾われるんだ」

桃が川を流れる音。

おばあさん「逃がすかっ!」

バサっと桃に服が絡みつく音。

桃太郎(N)「なにぃ! 洗濯物を繋ぎ合わせて、網を作っただと! うわー、やめろー」

桃がおばあさんに回収される。

場面転換。

おじいさんとおばあさんの家。

おじいさん「これは立派な桃だな。では、さっそく、包丁で桃を割るとするか」

桃太郎(N)「……第二ポイント。ここで桃から生まれなければいい」

おじいさん「とりゃー!」

ガキンと桃が包丁を弾く。

おじいさん「な、なんじゃと! 桃が開かん! くそ! 中から割れないように抑えておる! ばあさん! 無理やり開けるぞ」

おばあさん「はいさ!」

ぎゅうぎゅうと桃を引っ張る、おじいさんとおばあさん。

桃太郎(N)「うおおお! 負けるか! 俺は絶対に、桃から出ねえぞ!」

引っ張るのを止める、おじいさんとおばあさん。

おじいさん「……焼き桃が食いたくなったな」

桃太郎(N)「……」

パカッと桃が開き、赤ん坊の泣き声が響く。

場面転換。

縁側でお茶を飲む桃太郎。

桃太郎「はあ……。今日もいい天気。お茶がうめぇ」

そこにおじいさんがやってくる。

おじいさん「のう、桃太郎や。そろそろ、鬼退治に行ったら、どうかのう?」

桃太郎「あー、いや、うん。明日、明日行くよ」

おじいさん「一年前から、ずーっと、そう言ってるじゃろ」

桃太郎「いやいやいや。俺、まだ8歳だよ? 鬼と戦うなんて、無理無理! てか、こんなの幼児虐待じゃね?」

おじいさん「……」

桃太郎の喉元に包丁を突き付けるおじいさん。(キランという、包丁が光る音)

おじいさん「ワシにやられるのと、鬼を退治に行くのと、どっちがよいのじゃ?」

桃太郎「い、いきます……」

場面転換。

おばあさん「じゃあ、これ、きび団子。たっぷり用意したから、いっぱい仲間を引き連れて行くのよ」

桃太郎「……行ってきます」

おじいさん「お宝、楽しみにしておるからな」

桃太郎「……」

場面転換。

森をズンズン歩く桃太郎。

そこに犬が歌いながらやってくる。

犬「もーもたろさん、ももたろさん、お腰に付けた、きび団子! 一つ、私にくださいな」

桃太郎「ヤダ」

犬「……」

スタスタと歩き去って行く桃太郎。

次に、猿がやってくる。

猿「もーもたろさん、ももたろさん……」

桃太郎「そういうの、いいから」

猿「……」

スタスタと桃太郎が歩き去って行く。

そこにバサバサとキジがやって来る。

キジ「もーも……」

スタスタと無視して歩く桃太郎。

キジ「無視、すんなや!」

場面転換。

桃太郎が漕ぐ船が鬼ヶ島に着く。

桃太郎「ふう。鬼ヶ島に着いた」

船から降り、島に降り立つ桃太郎。

桃太郎「……よし! やあやあ、我こそは桃太郎! 鬼を征伐に来たぞ! いざ、尋常に勝負!」

刀を抜いて、振り回す桃太郎。

刀の空を切る音。

桃太郎「うわー! やられたー!」

ドサリと倒れる桃太郎。

桃太郎「こうして、桃太郎は鬼にやられてしまったのでした。めでたし、めでたし」

起き上がる桃太郎。

桃太郎「……さてと、帰るか。さすがに鬼に負けたって言えば、じいさんたちも諦めてくれるだろう」

その時、後ろから肩を掴まれる。

鬼「お前、何やってんだ?」

桃太郎「……えーっと、観光に……?」

鬼「ほう?」

桃太郎「ゴートゥートラベルで……」

鬼「ちょっと来い」

鬼に引きずられて連れて行かれる桃太郎。

桃太郎「ぎゃー! 鬼―」

鬼「おう」

桃太郎「人さらいー!」

鬼「おう」

桃太郎「泥棒―!」

鬼「おう」

桃太郎「見逃して」

鬼「ダメだ」

場面転換。

鬼の大将の前に突き出される桃太郎。

鬼の大将「よう、俺らのこと、退治しに来たんだってな?」

桃太郎「め、めっそうもございません。家来にしてもらおうと思って。へへへ」

鬼の大将「ほう?」

桃太郎「あ、これ。つまらないものですが……」

鬼の大将「……」

場面転換。

おばあさんが走ってやってくる。

おばあさん「おじいさんや! 桃太郎が帰ってきたよ! 鬼を家来にして!」

おじいさん「おお!? なんか、思った展開とは違うが、まあいいじゃろ!」

場面転換。

桃太郎がやってくる。

おじいさん「桃太郎や、でかしたぞ!」

おばあさん「よくやったねぇ、桃太郎。あんたは本当に凄いよ」

桃太郎「……いや、凄いのは、ばあさんのきび団子だよ」

おばあさん「へ?」

桃太郎(N)「……まあ、終わりよければすべてよしってことで。これからは、のんびりさせてもらおう」

終わり。

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